第44話 事前報告は大事なこと
「それは朝から大変でしたね」
夕食の時間。侑梨の手料理を食べながら、今朝あった出来事を話した。ちなみに本日の献立は白米、鮭のバター焼き、サラダ、味噌汁だ。
「和樹に駄々を捏ねられて仕方がなく話をしたけど、朝から聞いてくる和樹がおかしいよな」
鮭のバター焼きに箸を差し込み、一口サイズに取った切り身を口には運ぶ。切り身にはバターが中まで染み込んでおり、薄っすらと塩胡椒の味もした。
白米との相性もバッチリだ。とても美味しい。
「朝から…もしかして添い寝の話もしました?」
「そこは変えたよ。 流石に侑梨が下着姿で添い寝してきたと言ったら、和樹の奴が暴走するしな」
暴走と言っても根掘り葉掘り聞かれるようなものだけど、それでも面倒くさいのは嫌だからな。
侑梨は微笑した。
「和樹さんらしいですね。 そこから美唯さんに捕まって尋問される未来まで見えますね」
「それだけ行動パターンが同じなんだよ、和樹は」
今回だって、大浪さんに把握されていたから色々と尋問されていた訳だし———そー言えば、放課後に別れた後から音沙汰が無いな。大丈夫だろうか?
「どうしたのですか?」
「いや、放課後に別れたきり、和樹の奴から連絡が来ていないなと思って」
「それは大丈夫なんですか…?」
首を傾げながら侑梨は聞いてきた。
「まあ気になるし、メッセージでも送ってみるか」
机の上に置いてあったスマホを手に取り、和樹のトーク画面を開き、メッセージを送った。
ただ一言、『生きているか?』とね。
「よし、送ったことだし夕飯の続きをするーーー」
スマホが震えた。
返信早過ぎるだろ。それだけ早く返信出来るなら、何故この時間まで音沙汰がなかったんだよ!
「夕飯の続きが出来ませんでしたね。 それで和樹さんは何て返信をしてきたのですか?」
「ちょっと待ってて」
スマホを起動させ、再度トーク画面を開いた。
【和樹:お陰様で生きているぜ。 その代わり、メイド喫茶に通うことは出来なくなったけどな】
うん…自業自得だな。
わざわざ大浪さんに隠れてメイド喫茶に行こうとするのがおかしいんだよ。ファミレスの時に辞めておけば、こんな事にはならなかったのに。
「生存はしてたけど、メイド喫茶には行けなくなったと泣いているよ」
「和樹さんはまだメイド喫茶に行ってたのですね」
「隠れて行ってたらしいぞ」
「そんな直矢くんは、私に隠れてメイド喫茶とかには行っていないですよね?」
ジト目で俺のことを睨んでくる侑梨。
「いやいや、常に侑梨と共に行動していただろ? 学校の時も真っ直ぐ帰って来ていたし」
「そうでしたね。 疑ってごめんなさい」
「まあ行くとしても事前報告はするから、その辺りは信用してほしいかな」
「………やっぱり、行くんですね」
再び、侑梨にジト目で睨まれた。
「もしもの場合だから!! も・し・も・ね!!」
「……信用していますからね」
最近の侑梨はどこか心配症な所があるんだよな。
一つ一つの行動には気を付けていこう。
それとメイド喫茶の件で思い出したけど、ファミレスで話をした時に侑梨がメイド服を着てくれると言っていたけど———まだ着ていないから聞いてみるか。
「侑梨さ、メイド服を着てくれるって前に言ってくれたけど、それはいつ着てくれるの?」
そう聞いた途端、侑梨の顔が赤面した。
「その…あと少しだけ待っててください。 色々と模索中で、直矢くんの期待に応えられるように頑張りますので…」
「わ…分かった。 楽しみにしてます」
どのようなメイド服になるのか楽しみな反面、少し意地悪しすぎたかなとも思ってしまった。
「………」
「………」
それからお互いに無言の時間が続き、その間は箸の音だけがリビングに響いていた。
(何か話題を振らないと…)
話題と言っても、侑梨が興味持ちそうなネタは持ち合わせていないし、下手なことを言ったら気まずい雰囲気になるのも確実。
(さて、どうしたものか)
そう悩んでいると、スマホが震えた。
誰だろうと思いながら、スマホを確認すると再び和樹からのメールだった。
【和樹:既読無視はやめろよ】
続けて、怒りマーク付きのクマスタンプが送られて来た。
【和樹:それと美唯からの提案で、都内でやっているコスプレイベントを見に行こうだってさ】
コスプレイベントか。確かに侑梨もコスプレには興味があるって前に言っていたし、それに話題にも困っていたから聞いてみるか。
「侑梨」
「は、はい」
「いま、和樹からメールが来たんだけど、大浪さんと俺と侑梨を含めた四人でコスプレイベントに見に行かないって聞かれたんだけど、どうする?」
「もちろん! 見に行きます!」
即答だった。
「それじゃあ、和樹に行くと返事しとくよ」
「お願いします。 今から楽しみですが、一つ心配なことがあります」
「何が心配なの?」
「直矢くんがお姉さんたちに見惚れないか、です」
侑梨は頬杖を付きながら、微笑してきた。
怖い…。その不敵な笑みが怖すぎます。
「安心して。他の女性を見たとしても、俺は見惚れたりはしないから。 衣装凄いな〜くらいにしか思わないから絶対!」
「まあ、いいでしょう。 その時の独断と偏見で決めさせてもらいますので」
「………はい」
絶対に見惚れたりしないように気を付けようと心に刻みながら、残りの夕飯を掻き込んだ。
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