第17話 彼女にプライバシーを求めてもダメらしい
side 芹澤侑梨
侑梨は紅茶を啜りながら、寧々と話をしている直矢をチラッと見ていた。
……よかった。直矢くんが寧々ちゃんと壁を作らずに楽しそうにお話できていて。
2人が来る直前まで直矢は緊張していた。その時に侑梨はちゃんと話せるか不安になっていた。
だけど自分が紅茶を作っている時に寧々が話し掛けたのか、今ではすっかり打ち解けていた。
……あとは、紗香ちゃんの警戒心を解くだけなんだけど…どうして警戒するのかな?
紗香の方を見ると、彼女は直矢に睨みつける仕草をしていた。そんなことをする理由が分からない侑梨は小さくため息をついた。
XXX
side 斑鳩直矢
俺の横にいる侑梨が小さくため息をついたのが聞こえた。どうしたのだろう…と思い、侑梨の視線を辿ると、蒼井さんの方を向いていた。
……なるほど。侑梨は俺のことを睨んでいる蒼井さんをどうにかしたいのか。
そう思い、俺は蒼井さんに話し掛けることにした。侑梨に迷惑掛けないようにするためでもある。
「あ…蒼井さんはクールでとてもカッコいいですね。俺のオタク仲間でも、蒼井さんのファンがいてカッコいいと言ってますよ」
俺が今言える精一杯の言葉を聞くと、さらに睨みを強くして口を開いた。
「……そんなので私の機嫌を取ろうとしても無駄だぞ。カッコいいのは言い慣れているからな」
「紗香ちゃん。折角、直矢くんが褒めてくれているんだから好意に甘えないとダメだよ!———それよりも、直矢くんって私たちレグルスのファンだったんだね!!」
上条さんは蒼井さんに軽く説教をすると、目を輝かせながら俺の方を向いてきた。
「そうですね。期間は短いですが、レグルスのファンではありました」
「期間はどれくらいなの?推しは誰なの?握手会やライブにも来たことあるの?それにありましたって過去形だけど、どうして?」
上条さんの怒涛の質問責めに困っていると、横にいた侑梨が、「寧々ちゃん!」と言って助けてくれた。
「直矢くんが困っているでしょ。それに直矢くんの質問は全て私が答えますから。いいよね、直矢くん?」
「う、うん。別に俺が答えてもいいのだけど…」
「それじゃあ、一つずつ答えていきますよ」
上条さんの勢いにやられてただけで質問自体には困ってはいなかったが、侑梨は俺の台詞を無視して彼女に質問の答えを伝えていった。
「一つ目の期間は大体一年くらいですね。直矢くんは高校の入学までの間にハマったらしいので」
ねぇ、侑梨さん?なんで個人情報である、そのことを知っているの?
「二つ目の推しは…この私、芹澤侑梨です!見ての通り、グッズもいっぱい買ってくれました!」
侑梨さん?いつの間に貴方のスマホに俺のグッズ類の写真を撮ったのですか?机やテレビに置いてあったグッズを、地道に隠したのが意味ないではないですか。
「三つ目の握手会やライブに関しては、ライブは来ていたらしいですよ。これに関しては見つけられませんでした…ですが、握手会の時は私の列に並んでくれてお話してくれましたよ!」
もうやめて…俺のオタク事情を現役アイドルの2人に赤裸々に告白しないでくれ。
「四つ目の過去形に関しては、私の許嫁が原因になりますね。私のファンであった直矢くんは、私が恋愛をするために卒業すると言ったことで、推し封印をしてしまい…レグルスからも卒業を…」
段々と涙声になっていく侑梨に、俺は指の隙間からチラッと彼女を見た。
侑梨は涙目になりながら、口に手を当てていた。
「侑梨ちゃん…直矢くんについて詳しすぎない?ていうか、これ全てあってるの?」
上条さんは俺に声を掛けて、答え合わせを求めてきた。
「そうですね。一つ目の質問をどこで知ったのか気になるところですが、全て侑梨の言っていることは合っています」
「侑梨ちゃん凄いな…一体、どこから情報を仕入れてくるの?」
「それに関しては秘密なのですが、強いて言うなら愛の力ですよ!それさえあれば、何でも知ることが出来ますよ」
侑梨は右手をグッと握りながら曲げ、真剣な顔で語っていた。
「俺のプライバシーはないのか?!」
「ちゃんとプライバシーを守っていますよ?」
「いやいや、侑梨ちゃんのは危ういよ。ねっ、紗香ちゃん?」
上条さんが隣にいる蒼井さんに声を掛けたが…
「侑梨の許嫁が私たちのファンだと…しかも、侑梨の単推し…握手会にも来ていた…あり得ない」
俺の過去を知ったことにより、さらに動揺しながらぶつぶつと呟いていた。
蒼井さんってクールなんだけど仲間意識高い所為なのか、たまにおかしな言動をするな…そしてアイドルの時には見れないからとても貴重だ。
今は交流していないオタク仲間に言ったら、興奮しそうなネタでもあるな。
「ダメだ。とりあえず、侑梨ちゃんはもう少し直矢くんと話をした方がいいかもね」
「大丈夫です!直矢くんはこんなことをしても、私のことは嫌いにはなりませんから」
「と言ってますが、当の本人である直矢くんはどうですか?」
上条さんは自分の手をマイクがわりにして、俺の口元へと運んだ。
「そうですね。確かにプライバシーは気になりますが、侑梨は何を言っても歯止めが聞かないので諦めてこのままにしときます」
「おぉ…!さすが侑梨ちゃんの許嫁さんだ。侑梨ちゃんのことをよく分かっている」
「この数日で嫌と言うほど体に刻み込まれましたからね(笑)」
「私たちもチーム時代はなかなか大変だったんだよ。侑梨ちゃんがさ———」
「———寧々ちゃん!!それは言ってはダメですよ!!私の黒歴史になりますから!!」
上条さんは侑梨の話をしようとした時、横から侑梨が割り込み話を無理矢理切った。
その話はとても気になったが、侑梨が嫌がっていたので聞くのはやめた。
「分かったから落ち着いて」
「次言ったら、寧々ちゃんの黒歴史を暴露しますからね?」
「もう言いません…」
侑梨の攻撃により、上条さんのHPは瀕死になったようだ。そのあと上条さんは、「それで」と言葉を続けた。
「ライブの話で思い出したんだけど、私たち新生レグルスを記念して5月〜6月の間にライブをやることになったの。その時は2人とも招待するね!」
新生レグルスのライブ…それは俺や侑梨にとって、とても興味深いワードだった。
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