第16話 上条寧々は話が聞きたい
俺は侑梨に促されて、レグルスの二人である上条寧々さんと蒼井紗香さんに挨拶をした。
「斑鳩直矢くんね!私の名前は知っているかもしれないけど上条寧々だよ!よろしくね!」
「よろしくお願いします」
上条さんは俺を見て頷くと、右手を差し出してきた。俺は一瞬戸惑ったが、侑梨に背中をトントンとされ、俺は右手を出して握手した。
……無料の握手会が始まった。
そう思いながら数秒握手をして手を離し、今度は蒼井さんの方に視線を向けた。
「どうせ私の名前も知っているのだろうが、寧々が自己紹介したから私もしよう。蒼井紗香だ。お前のことはまだ認めてないからな」
蒼井さんは腕を組みながら俺のことを睨み、自己紹介を終えるとそっぽを向いてしまった。
どうやら蒼井さんは俺と侑梨の同棲や許嫁に好印象ではないようだ。ということは、あの時のコメントも報道関係者向けだろう。
「えっと…蒼井さん。よろしくお願いします」
俺は苦笑しながら、蒼井さんに挨拶をした。
上条さんみたくフレンドリーに話し掛けてほしかってが、蒼井さんに嫌われては今後に響くと思い自重した。
「もう、紗香ちゃんダメだよ。ここは仲良くね!」
「っな?!寧々、何をするんだ!!」
「上条さん?!」
突然、上条さんが俺の手と蒼井さんの手を掴み、無理矢理握手させてきた。
「何って、侑梨ちゃんの彼氏さんなんだから、ここは握手して仲良くしないと!」
「寧々がしたんだから、私はしなくてもいいだろ。握手会じゃあるまいし」
「ダメだよ!」
2人が言い合いをしていると、侑梨が頬を膨らませて口を開いた。
「紗香ちゃん…直矢くんと握手しすぎですよ。私の直矢くんを取らないで」
侑梨は冷たい口調で言うと、2人は体をぶるっと震わせて俺の手から、さっ…と離した。
「直矢くん。私とも握手しましょうね♪」
「握手…これって握手じゃないよね?!」
侑梨はニコッと微笑むと、俺の腕に手を回し抱きついてきた。
その時に彼女の柔らかい胸を感じ、自分の鼓動がどんどん高くなっていくのが分かる。
「きゃあぁぁぁ!!侑梨ちゃんが大胆なことをしているよ!!微笑ましい!!」
上条さんは侑梨の行動を見て、頬に手を当てながらめちゃくちゃ叫ん(喜ん)でいた。
蒼井さんに至っては、先程の侑梨の言葉が響いたのか、「侑梨が…冷たい…」と呟いていた。
「侑梨。とりあえず、話の続きは席に着いてからにしない?」
「そうですね。では寧々ちゃん、紗香ちゃんこちらの席にどうぞ」
侑梨は俺の腕から離れると、2人に向けて室内にある椅子に案内をした。
座席は俺の前に上条さんが侑梨の前に蒼井さんが座った。
席に座ると上条さんが、「頼まれていた」と言って、紅茶の袋を机の上に置いた。
侑梨は一言感謝を述べると、紅茶を手に取りキッチンへと向かった。その時に蒼井さんが手伝うと言い、立ち上がり一緒に着いていった。
席には俺と上条さんの2人だけとなっていた。
「ねぇねぇ、直矢くん。侑梨ちゃんとの同棲はどんな感じなのか教えてくれない〜?」
上条さんは頬杖をしながら、ニヤニヤと聞いてきた。
「そうですね…楽しくやってますよ。少し愛情が溢れすぎて、大変な時もありますけど」
「直矢くん!その大変な時を詳しく話しなさい!」
「えぇ…話す必要はないですよね?」
「ダメ!私の後学の為にも聞きたいの!」
後学のためって…ファンの人が聞いたら泣くぞ?と思いながら、俺は上条さんに頷き口を開く。
「朝起きたら、侑梨がし…下着姿で寝ていたり」
「へぇ〜 なかなか過激なことをしているね(笑)」
「だから俺は話したくなかったんですよ。こうやって揶揄ってくるから」
上条さんは、キッチンにいる侑梨をチラッと見ながら言った。
俺は俯きながら嘆息した。
「ごめんごめん。侑梨ちゃんの愛情が凄いなって思ってね。それじゃあ、お風呂とか一緒に入っているのかな?」
「それはない。というより、着替えやお風呂を覗くことは禁止にしている」
「直矢くんって欲望が無いの?それに愛情が溢れている侑梨ちゃんが頷くのも凄い…」
上条さんは首をコテンと傾けながら聞いてきた。最後の方は聞き取れなかったが、きっと侑梨のことだろう。
「欲望はないと言えば嘘になりますね。でも侑梨とはまだ正式に恋人と認めていないので、それらはやりませんよ」
「なるほど、なるほど。直矢くんはいずれやることになると…私はその時の報告が来るのを楽しみにしてるよ!」
なぜ俺が上条さんに報告しないといけないのかと思いながら、「分かった」と頷いた。
そしてキッチンからカップを乗せたお盆を持って侑梨と蒼井さんが戻ってきた。
「直矢くん、寧々ちゃんお待たせ」
そう言って、侑梨は俺と上条さんの前にカップを置いていく。蒼井さんは侑梨と自分の前に置いていた。それらが終わると、2人とも席へと着いた。
「侑梨ちゃんありがとう!」
「ありがとう。いい香りがする紅茶だね」
カップから鼻腔をくすぐるいい香りが漂ってきた。とても美味しそうな紅茶だ。
「さすが直矢くん!お目が高い!これが以前話していた、とっておきの紅茶です!」
「これが…確かにとっておきの紅茶になるね」
「喜んでもらえて嬉しいです。さっそく飲んでみてください!」
俺は頷き、カップを口元に近づけて啜った。
口に含んだ瞬間、紅茶の香りが目一杯に口内に広がり、濃さも整えられておりとても美味しかった。
「うん!美味しい!これはハマるね」
「ですよね!!毎日とはまだはいきませんが、定期的に作りますね!」
「ありがとう!」
俺は侑梨に感謝をし、カップを手に取り紅茶を啜った。その時に上条さんと蒼井さんをチラッと見たのだが…
上条さんはニヤニヤしながら、「甘々だね〜」と言い、蒼井さんは相変わらず敵意の視線を俺に向けていた。
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