第14話 彼女の囁き声で目が覚めました

「直矢くん起きてください。寧々と紗香が来る時間になってしまいますよ」


 翌日の朝8時半。耳元から聞こえてくる侑梨の囁き声で、俺は目が覚めた。

 ……そーいえば、今日はレグルスの2人が家にやってくるんだっけ。

 背伸びと欠伸をしながら思考を回し、意識がハッキリしてきたところで侑梨に挨拶をする。


「おはよう。………っん。元チームの2人が来るから、服装も気合入っているね。可愛いよ」


 普段の日でも侑梨はとても可愛い格好をしているのだが、今日は一段と可愛いかった。


「もう…直矢くんったら。そんな恥ずかしいことを言わないでください…(嬉しいですけど…)」


 侑梨は顔を赤く染めながら呟いた。

 最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、きっと悪いことは言っていないだろう。


 確かに俺は侑梨に対しての接し方を変えた。一番の理由は推しという考え方をやめたことが大きい。彼女も俺のために全力で向かってきているので、俺も少しずつ向き合っていこうと決めた。


「それじゃあ、着替えてからリビングに行くから、侑梨は先に戻っていいよ」

「いえ、私もここで待ってますよ。直矢くんの着替えを見ながら」

 

 侑梨はそのままベッドの端に座った。


「あの…着替えを見られるのは恥ずかしいので…」

「大丈夫ですよ!私は何も恥ずかしくないので!それに直矢くんに認めてもらえるようにアタックしないといけないので、ここで引くわけにはいけません」


 えっと…着替えを見たからと言って、ポイントが上がることはないんだけど…これは侑梨にちゃんと話した方がいいかもしれない。


「侑梨。昨日頑張り次第とは言ったが、着替えを見ているのはノーカウントだ」

「そんな〜 私だけが堪能できる直矢くんの体がノーカウントだなんて…信じられません!!」


 堪能って…そもそも俺の体は侑梨だけのものではないぞ。市民プールや海に行ったら、他人に見られるしな。俺は苦笑いしたあと口を開く。


「とりあえず、着替えやお風呂覗きなどはノーカウントになるからな!!他のことで頑張ってくれ」

「なるほど…その2つはダメっと…」


 侑梨はコクコクと頷いた。


「それじゃあ、今度こそ着替えるからリビングで待っててね」

「はい!直矢くんの為に朝食を準備して待ってます!」


 そう言って、侑梨はベッドから立ち上がり部屋から出ていった。


「さてと」


 俺はベッドから降りて、クローゼットから今日着る服を選んだ。だって、侑梨の元チームメイトが我が家にやってくるからね。


XXX


 時刻は9時過ぎ。着替えと朝の洗顔や髪を整え終えた俺は、侑梨が待つリビングへと来た。彼女はすでに朝食の準備を終え、椅子に座っていた。


「お待たせ。少し準備に時間が掛かってしまった」

「私のときはそんなに時間が掛かっていなかったのに、2人が来るときは真面目にやるんですね。服までカッコいいし…」


 侑梨は頬を膨らませながら拗ねた。


「侑梨の時だって真面目に考えて準備したよ。それに侑梨の元チームメイトだから、下手なところは見せられないだろ?きっと、俺のことを彼氏って伝えているんだろうし」

「……………はい。彼氏と伝えていますよ」


 どうゆうことだ? そこはすぐに認めて、『はい』と言うと思ったのに、数秒の間があった。

 気になったので、俺は侑梨に聞くことにした。


「ねぇ、いまの間はどうゆうこと?」

「特に意味はありませんよ。ほら、朝食が冷めてしまうので、早く食べましょ!」


 侑梨はトーストをパクッと一口齧った。


 気になるけど、侑梨が作ってくれた朝食を冷ます訳にはいかないよな。


「いただきます」

 

 俺は頷き、挨拶をしてトーストを一口齧った。


 トーストはバターが染み込んでいて、おかずはベーコン付き目玉焼き(半熟)とサラダで朝食として完璧だった。どれも美味しかった。


「「ごちそうさまでした」」


 俺は侑梨と一緒に食後の挨拶をし、台所にて片付けを終えたタイミングで部屋のインターホンが鳴ったのが聞こえた。

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