第13話 彼女に甘くなってきた

 エスカレーターで2階へと降りた俺たちはフロアマップを見て、ダイニング用品売り場へと向かった。


 売り場に着くと食器の他に調理器具など置いてあった。俺たちはお皿を見に来たので、調理器具エリアなどには目もくれずに素通りした。

 お目当ての食器エリアに着くと、侑梨は立ち止まり俺に視線を向けてきた。


「お揃いの食器なんですが、茶碗も一緒にしませんか?ここに夫婦茶碗という物がありますし」


 侑梨は棚からそれを手に取り、俺に見せてきた。


「夫婦茶碗って… 俺たちはまだ結婚していないんだぞ?」

「………」


 侑梨は虚空を眺めながら、何かを考えだした。

 すぐに思いついたようで、微笑しながら俺を見て口を開いた。


「カップル茶碗として買いましょう!今日は私と直矢くんがカップルになった日ですし!」

「俺はまだ彼女になってくれなんて、一言も言っていないぞ?」

「そんな…では、私の今の立場はなんですか?」


 侑梨は泣きそうになりながら聞いてきた。


「彼女候補だな」

「ということは、頑張り次第では直矢くんの彼女になれるということですか?」

「まぁ、そうゆうことになるな。頑張り次第だから、彼女になれない可能性もあるけど」

「頑張り次第…直矢くんに絶対に認めてもらう!」


 侑梨は胸の前でガッツポーズをした。


 これは後半部分は聞いていないな… 侑梨は明らかに自分の世界に入っていた。仕方がない… ペアセットのお茶碗は大目に見てあげるか。


「侑梨。ペアセットのお茶碗を買ってもいいぞ」

「ほんとですか…!」

「あぁ、その代わり、美味しいご飯を期待しているぞ」

「もちろんです!胃袋掴み、そして直矢くんにいっぱいアピールをして認めてもらいますので!覚悟しておいてくださいよ!!」

「楽しみにしているよ」


 俺は微笑したあと、侑梨が持っていたペアセットを受け取りカゴに入れた。


「次はどれを見る?」

「そうですね…あと買いたいのはお皿と箸とティーカップなので、ここから近いのは…」


 侑梨は辺りを見渡し、「ティーカップを見に行きましょう」と言ってきた。


「ティーカップって、あの紅茶を飲むやつだよな?飲まないから買わなくていいのでは?」

「飲みますよ!ティーカップを買った暁には、私が美味しい紅茶を淹れます!」


 なるほど…侑梨が入れる紅茶は飲んでみたいな。それならティーカップを買ってもいいかもな。


「ほんとに美味しい紅茶を入れてくれるのか?」

「とっておきの紅茶を仕入れておきますので、直矢くんは楽しみにしていてください!」


 とっておきの紅茶…尚更、ティーカップを買うことを許してもいいかもな。俺はかなりの紅茶マニアだし、とっておきってことは高級な物かもしれん。


「今回だけだぞ。美味しい紅茶を淹れることが買う条件だ」

「はい!大丈夫です!」


 侑梨はサムズアップして返事をした。


 俺は彼女に対して甘くなってきたなと思いながらティーカップを受け取り、茶碗の箱の側に置いた。


「あとはお客様用・・・・のカップですね」

「お客様用…?」

「はい!明日あす、寧々と紗香がお家に来ます。その時に必要なので買いますね」


 あれ…今、寧々と紗香と言ったか?その二人と言えば、侑梨と元々グループを組んでたレグルスの二人ではないか。その二人が家に来る…と。


 そんなはずはない。一般人の家に来るわけがない。以前来る的なことを言ってたのも俺を揶揄ってただけだろう。今のも空耳に違いない。もう一度確認してみよう。


「気のせいかもしれないけど、今レグルスの二人の名前が聞こえた気がするんだけど?」

「気のせいではありませんよ。寧々と紗香は家に遊びに来ます!」


 俺が唖然としている間、侑梨は二人のカップを選び俺が持っていたカゴに入れていた。


「では、残りの物も素早く決めちゃいましょうね」


 侑梨は微笑しながら呟いた。


「……そうだな」


 俺は一旦保留にして、侑梨の返事をした。


 そのあと残りの箸は色違いのを選び、お皿は同じ絵柄のを数枚買ってお会計を済ませた。


 そして、俺たちは食器を割らないように気をつけながら帰路に着いた。


XXX


side 芹澤侑梨


 その日の夜。侑梨は自室のベッドにて、レグルスの2人にメッセージを送っていた。


『明日来る時に、私が前から好きだった紅茶を買ってきてほしいんだけど頼めるかな?』


 すると既読2となり、2つのメッセージが返信してきた。


『侑梨ちゃんは人使いが荒いな〜しかも高いやつ』

『まぁ、卒業祝いがそれでいいなら買ってくるが』


「なっ…卒業祝いをそれで済ませるのは酷くないですか?!」


 侑梨がレグルスを卒業してから一週間経ったが、未だに卒業祝いを彼女たちから貰っていなかった。


 卒業する時に、後日渡すと言われて一週間。


 侑梨は不満になり頬を膨らませていた。


『卒業祝いは別ですよ!!紅茶の分は別物です。ノーカウントです!!』

『侑梨ちゃん…それは無理があるよ』

『欲張り』

『欲張りではないですよ!寧々も紗香も酷いです。直矢くんを紹介しませんよ』

『侑梨ちゃんの好きな人か…それは困るな』

『どんな男なのか気になる。寧々、仕方がない。今回は侑梨の我が儘に付き合うか』

『紗香ちゃんがそう言うなら、私もいいよ』

『ありがとうございます♪』


 なんとか卒業祝いは別の物に出来たので、侑梨は膨らませていた頬を緩めて口角を上げていた。


『あっ、明日お昼くらいに来てください。直矢くんが何時に起きるか分からないので』

『分かったよ〜!直矢くんに会えるの楽しみだな』

『侑梨に相応しい男か見極めてやる』

『二人とも直矢くんには優しくしてね!』


 寧々と紗香はサムズアップした犬のスタンプを押して会話は終わった。


「明日がとても楽しみです♪」


 侑梨はスマホを充電器に挿して、部屋の電気を消した。

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