第12話 彼女とのトッピングの差は大きい
side 芹澤侑梨
侑梨と直矢はプリクラを後にしてフードコートへと向かっていた。彼女の頭の中には直矢にキスした時の興奮が収まっていなかった。
(ついに…ついに…直矢くんの頬にキスしてしまいました!!次は唇を狙いますよ!)
侑梨はガッツポーズをしながら、チラッと直矢の方に視線を向けた。
直矢は未だに事態を理解できていないのか、ずっとぶつぶつ呟いては頬に手を添えていた。これはチャンスだと思った侑梨は、直矢に感想を聞くことにした。
「直矢くん、頬だけど私からのキスはどうだった?」
「……えっ?!その…何といいますか…嬉しかったです…」
直矢は頭をガシガシして、顔を染めながら言った。そんな照れてる直矢も可愛く思い、侑梨はうふふ…と笑顔を溢した。
「いつかは直矢くんからのキスも楽しみにしてますよ?」
侑梨は自分の唇に人差し指を当てながら言った。
「………機会があれば」
その言葉を聞けて侑梨は安心した。自分のことをさっきまで推しのアイドルの一人として見ていた直矢が、口付けの約束をしてくれた。
先程言った、『推しではなく彼女です!』が効いたのだろう。これを機に接し方に変化が起きるのを、侑梨はとても楽しみだった。
気がつけば目の前にフードコートが見えてきた。
侑梨は直矢の手を繋ぎ、口を開いた。
「直也くん!フードコートが見えてきましたよ!」
「そ、そうだな」
直矢はびっくりしながらも侑梨に返事をした。
「お店がいっぱいでどれにするか迷いますね。直矢くんは何にしますか?」
「えっと、食べるならうどんとかになるかな…」
「いいですね!海老天とか付けたら、さらに豪華なうどんになりますね!」
直矢は握っている手が気になるのかぎこちない返事をした。
それを気にせず、侑梨はうどんの話題を掘り下げていく。
XXX
side 斑鳩直矢
「海老天うどんは豪華だな」
普通に会話しているように見えるが、俺の心はドキドキしていた。
一つ目は、キスだ。次、キスする時は自分から侑梨に口付けをしなければならない。その勇気がいつ来るかは分からないが、ちゃんと彼女の気持ちに応えるつもりだ。
二つ目は、今現在行われている手を繋がれたことだ。突然俺の左手を握ると、侑梨は何事も無かったように話している。兎に角、うどんの話し所ではなかった。
「楽しみですね!———あっ、休日なだけあってかなり混んでいますね」
いつの間にか、フードコート前に着いていた。コート内を見ると、ほとんどの席が埋まっていた。
俺は深呼吸をしてから辺りを見渡して、今すぐ空きそうな席を探した。すると、窓際の席で片付けをしているグループを見つけた。
「あそこが空きそうだな」
「なら、早く行かないと取られますよ」
「そうだな。急ごう」
今のところ周囲に席を待っている人がいないので、俺たちは急いで向かった。
「ふぅ…危なかったね。まさか反対側から狙っていた人がいたとは」
「だが、俺たちの方が一歩早かった。ほんと座れてよかったよ」
無事に席に座ることは出来たが、反対側の通路から向かっている人がいた。それに気づいた俺は、迷惑にならないように小走り気味に走り、席に座ることができた。
「それじゃあ、交互に注文しに行きましょう。荷物だけ置いといてもいいのですが、少し不安なので」
「分かった。なら、先に注文いいよ。俺は待っているから」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、先に注文してきますね」
侑梨は立ち上がり、お店が立ち並ぶ方へと向かった。その間、俺は外を眺めて待った。
「「いただきます」」
お互いに注文を終え、手を合わせ挨拶をした。
俺と侑梨は同じうどんを注文したのだが、彼女の方には海老天や茄子天がある。俺はトッピングなしのうどんにした。
食べ始めようとした時、侑梨が口を開いた。
「この後なんですが、いよいよメインディッシュのお皿を見に行きたいと思います」
「それ以外は見なくてもいいのか?」
「はい。早くお皿を一緒に選びたいので、他は全然大丈夫です」
「分かった」
俺はそう言ってうどんを啜り始める。
やっぱり、ぶっかけうどんは美味しい。麺も程よい弾力があり、つゆも濃すぎない。チェーン店のうどんに満足していると、侑梨がこちらをじーっと見つめていた。
急いで食べていたうどんを飲み込んで、彼女に向けて口を開いた。
「そんなに俺を見てもつまらないぞ?」
「いえ、私は直矢くんが幸せに食べている姿を見るのが好きなのでお構いなく」
「そう言われてもな———」
———どうしても気にして食べる手が止まってしまう。
家では見つめてこなかったのに、外出した時に限って侑梨は見つめてくる。周囲の声が聞こえなくなるほど、落ち着いていた鼓動が動いていた。
「その…うどん伸びるよ」
「あっ、そうですね。直矢くんの食べている姿に夢中で自分のうどんを忘れるところでした」
「それは本末転倒になってるぞ。お腹いっぱいにして、いい品を選ぼうな」
「もちろんです!」
こうして侑梨の視線は俺から離れたので、自分のうどんに集中して食べることができた。
侑梨も綺麗にうどんを啜り、あっという間に食べ終えた。
俺たちは器とお盆をお店に返却して、2階の暮らしのフロアへと向かった。
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