第10話 推しアイドルの手料理は美味しかった

side 芹澤侑梨


 時刻は午後6時半。買い物を終えた侑梨は食材を冷蔵庫に閉まい、自室にて部屋着へと着替えた。


「よし、準備を始めましょう!」


 キッチンに立つと侑梨は長い髪をゴムで結びポニーテルにし、首に掛けていた可愛らしいエプロンの腰紐を結んだ。そして炊飯器にスイッチを入れ、冷蔵庫から材料を出し準備を始めた。そのあと彼女はレシピが見れるタブレットを立てかけてた。一応レシピを見なくても親子丼は作れるが、完璧な料理を直矢に食べてもらいたかったので見ることにした。


「ふむふむ…最初に玉ねぎや鶏もも肉を切ると」


 侑梨はレシピ通りに玉ねぎを薄切りにして、鶏もも肉を一口大の大きさに切った。この時にかいわれ大根の根元も切り落とした。


 切った玉ねぎと鶏もも肉を小皿に移し、レシピの続きを見る。


「次は卵を溶かないとですね」


 侑梨は後ろにある収納スペースから小さめのボウルを取り出した。そして卵をボウルの中で割り、菜箸で溶かしていった。


「下準備はこれで終わりですね!では炒めていきましょう!」


 シンク下の収納スペースからフライパンを取り出すと軽く洗い、そこへサラダ油と鶏もも肉を入れて中火で炒めた。


 鶏もも肉の色が変わったタイミングで侑梨は玉ねぎを入れ、しんなりしてきたら調味料を入れた。


「う〜ん…いい匂い!!」


 調味料を入れたことにより、キッチンスペースには美味しそうな匂いが充満していた。


 匂いを堪能しながら優しく掻き混ぜ、汁気が半量程になったので、卵を半分流し入れた。


「やっぱり親子丼はとろとろ卵がいいよね!」


 そう言いながら1回目の卵が半熟になったので、残りの卵を入れて数秒炒めて火から下ろした。


 そしてタイミングよくご飯が炊けたので、器を取り出し、全て盛り付けた。


「完成!!」


 侑梨は盛り付けたお皿を机に運び、綺麗に置いていく。ここにも彼女のこだわりがあり、料理の下にランチョンマットを履いてオシャレにする。


「あとは片付けも全て終わらせれば、直矢くんはきっと……うふふ」


 侑梨は妄想をしながら、さっさと洗い物を終わらせた。それと同時に直矢が帰ってきた。


XXX


side 斑鳩直矢


 家のドアを開けると玄関からとても美味しそうな匂いが漂ってきた。俺は鼻をスンスンしながら夕飯の予想をしていると、侑梨がニヤニヤしながら不意に現れた。


「直矢くんお帰りなさい!夕飯の準備が出来ていますので、早く着替えてリビングに来てくださいね♪」

「ただいま、侑梨。分かった、すぐ着替えてくる」


 俺は自室に行き制服をハンガーに掛け、私服へと着替える。それにしても侑梨のエプロン姿可愛かったな… あれはアイドル時代でも見られなかった姿。まさに俺だけの特権だな。


 ……侑梨ファンだった皆さんごめんなさい。


 俺は心の中で謝り、部屋を出た。

 リビングに行くと、侑梨は先に座って俺が来るのを待っていた。


「お待たせ。それで侑梨が作ったのは親子丼か」

「はい!親子丼は作るの大変なので、手料理が出来ることを証明する為に選びました!」


 確かに親子丼は手間暇がかかるから、手料理が出来ることを証明できる。が、味が大事だ。親子丼は味が全て決まるから、一つでも分量を間違えたら台無しだ。では、実食といこう…


「では、早速… いただきます」

「どうぞお召し上がりください!」


 俺はスプーンを手に取り、初めに卵と鶏肉を同時に口に運んだ。これは…!卵はとろとろの部分と半熟の部分があり味も染みている。鶏肉にも味が染みていて———


「お… 美味しい。えっ、凄い美味しいんだけど!」

「ほんとですか!!直矢くんに喜んでもらう為に愛情込めて作りました!!」

「それは…ありがとう。とっても美味しいよ」


 俺は苦笑しながら言い、今度はご飯と一緒に食べることにした。スプーンでご飯と卵を掬い口に運んぶ。侑梨も感想を聞けて満足したらしく、自分の親子丼を食べ始めた。


「う〜ん!!我ながら美味しくできました!やっぱり、大好きな人のために作ると美味しくなるのですかね〜?」


 侑梨は頬に手を当てながら、美味しそうな顔をして満足していた。


「あれだな。隠し味の愛情が効いたのかもな」

「それですね!やはり愛は最強です!!」

「うん、最強だね」


 でも侑梨の愛情は最強を超えているけどね… だって、推しアイドルの愛情は無限大だから。


 俺はどんどん食べる手を進めて行き、最後はお椀を持ち上げてご飯を掻き込んだ。


「ごちそうさまでした。とっても美味しかったよ」

「私も直矢くんの満足した顔を見れたので、お腹いっぱいになりました♪」

「それはよかった…あはは」


 俺は頬を掻きながら苦笑したが、内心は侑梨の台詞に照れていた。


「次はお昼のお弁当を楽しみにしててくださいね!美味しいお弁当を作りますから!」

「それは楽しみだ!それと電話で未知数とか言ってごめん…侑梨の料理は完璧だったよ」

「大丈夫ですよ!直矢くんが私の手料理を食べて思ってくれてなら、私としては何も気にしません」

「ありがとう」


 侑梨はほんと心が広いと思う。普通だったら怒られても仕方がないことを言ったのに、それらを全て笑顔で許してくれた。侑梨の優しさを実感した夜になった。


 そして同棲して2日目なのに、胃袋は侑梨に掴まれて、心はすぐそこまで彼女の手が届きそうな気がした。

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