第8話 推しアイドルとの生活を聞かれた
翌日、俺は学校の自席にて突っ伏していた。いつもならダルくてうつ伏せになるのだが、今日は周りの視線から逃げるために顔を隠していた。
マジで勘弁してくれ… 俺は注目されるのはほんと苦手なんだよ。何の取り柄もない俺がこんなに注目されている理由は昨日の件だ。
俺の通う学校の校門にアイドルグループ 《レグルス》にいた芹澤侑梨が来て、俺に『迎えに来ました』と言った。それが火種となり、今に至る。
「有名人の直矢くん!今朝はどんな甘〜い朝を迎えたのかな?」
「おはよう!侑梨ちゃんとの生活はどんな感じ?」
俺がため息をついていると、机の前から声が聞こえてきた。顔を上げると和樹と大浪さんだった。
「和樹、大浪さんおはよう。二人はどんなことがあったのか、そんなに知りたいのか」
「もちろん!俺は気になって授業に集中できないかもしれん!!」
「私も少し興味あるんだよね」
どうやら昨日の夜と朝の話が聞きたいらしい。そんなに面白くないと思うけど、俺は2人を近くに寄るように促した。
二人は俺の机の前でしゃがみ耳を傾けた。
「昨日はあれから夕飯を食べて、筋トレをして寝た」
「おいおい、アイドル時代から好きだった女の子が目の前にいたのに、何も起きなかったのかよ?!」
「何も起き…なかった。ほぼ初対面だし、そこは慎重にいかないとだし」
「慎重になるのは分かるけど、つまらないな〜」
和樹は何を求めていたんだ?確かに和樹が聞きたそうなことは一瞬あったけど、話すことはしない。
それにしても周囲の人に聞かれないように小声で話していたが、結構疲れるな。
「それで朝はどんなことがあったの?」
昨夜の話を聞いて、大浪さんは期待の視線を向けて聞いてきた。
大浪さんって人の私生活とか聞きたいタイプだったとは…ここに来て、新しい一面を見た気がした。
「朝起きたら侑梨が隣で寝ていた。下着姿で」
「ほほう…最高ですねぇ〜 それで直矢くんはどんな反応をしたのかな?」
「びっくりしたけど、二度目だったから落ち着いて対処した」
「二度目というのも気になるけど、侑梨ちゃんがなんか可哀想に思えてきたよ」
「直矢よ、もう少し芹澤さんのことを信用してもいいんじゃないか?あそこまで真摯に向き合ってくれていたら、直矢への気持ちは本当だと思うぞ?」
和樹の言いたいことは分かっている。たった1日しか経ってないが、昨日だけでどんだけ俺に尽くしてくれたか。もし俺のことが嫌いだったら、あんなことまで言わないはずだし。
「そうだな。もう少し様子見はするけど、なるべく優しく接するようにはする」
「はぁ…直矢は相変わらず強情だな。そこは俺が支えるつもりだ!とか言わないと」
「だね。侑梨ちゃん、頑張れって応援したくなるね」
と、二人がよく分からないことを言っていると俺のポケットに入っていたスマホが震えた。
取り出して確認すると、侑梨からメッセージが来ていた。ちなみに、ID交換は登校前にしていた。
『お昼休みにビデオ通話しませんか?もしよろしければ、和樹さんと美唯さんもいいですよ』
ビデオ通話か… 今までしたことなかったから楽しそうだな。返信する前に、和樹と大浪さんにビデオ通話のことを聞いてみた。
「侑梨と昼休みにビデオ通話することになったんだけど、二人もどうですかって?」
「侑梨ちゃんからのお誘いなら、私は断りません!是非とも、参加させていただきます!」
「美唯が行くなら、俺も参加するわ」
二人も了承してくれたので、俺は二つ返事で侑梨に返信した。すると、すぐに侑梨から返信が来て、『では、12時半くらいに電話掛けます❤︎』と書いてあった。
「直矢くん、侑梨ちゃんに愛されてますね」
「大浪さん?!」
「一途な侑梨ちゃんに迷惑かけるなよ」
「和樹?!」
人のスマホを勝手に覗き見して、好き勝手に言ってくる二人に俺はため息をついた。
「二人とも勝手に画面を見ないでくれ…」
「なんでだ?偶々見えてしまったのだから、俺たちは何も悪くないぞ」
「きっと、直矢くんは侑梨ちゃんとのメールを独り占めしたいんだよ!」
あれ… 話が段々とおかしくなってないか?俺がいつどこで、侑梨からのメールを独り占めしたいと言った。別に侑梨からのメールを見られても構わないけど、一言断ってほしいんだよな。
「なるほど!俺が美唯からのメールを誰にも見せずに、一人でニヤニヤ眺めているのと同じか!」
「和樹…そんなことをしていたんだ。まぁ、私は別に嫌悪感はないからいいけど」
「そーゆう所が好きだぜ、美唯」
「和樹…」
だからさ、俺の目の前でイチャイチャ始めるのやめてほしいんだが。二人の所為で、クラスで注目スポットになっているぞ。
「ホームルームを始めるぞ。席につけ」
そして俺が二人に声を掛けようとした時、前方の扉から担任がやってきた。これにより二人のイチャイチャは強制的に終了して、俺に一言いって自席へと戻った。それから、ずっと視線(殺意)を向けていた人たちも担任がいる前方を向き、俺は視線から解放された。
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