第7話 推しアイドルと筋トレをする
時刻は午後8時半。夕飯を食べ終えた俺と侑梨は筋トレをする為に、自室に行き動きやすい服へと着替えていた。
夕飯は侑梨のお母さんが作ってくれた料理で、とても美味しかった。特に唐揚げが絶品だった。唐揚げは電子レンジで温め直すと油っ濃くなり、なかなか食べるのに抵抗がある。だけど彼女の母親のは温め直しても、外はカリッと中はジューシーで最高だった。タイミングが合えば、出来立てを食べてみたいものだ。
「よし、着替えが終わったし戻るか」
着替えを終えた俺はリビングに戻り、侑梨が来るのを待っていた。その間、俺は筋トレをする為に机を動かしてスペースを作ることにした。
「直矢くんお待たせしました!その…私の服はどうですか?」
一通りスペースを作り終えたタイミングで廊下の扉が開き、着替えを終えた侑梨が戻ってきた。
侑梨が着替えてきた服は黒のレギンスにハーフトップとジムとかで着るような感じだった。
「うん、似合っているよ」
俺は平然を装いながら侑梨に感想を伝えたが、内心はドキドキしていた。彼女はスタイルがよく、どんな服も完璧に着こなしていた。そして目の前にいる彼女は上下ピッチリとした服なので、そのスタイルが強調されている。刺激が強かった。
「ありがとうございます!直矢くんのことを考えながら選んだ服なので、喜んでもらえて嬉しいです!」
「そ、そうなんだ。侑梨が喜んでくれたなら、俺も嬉しいかな…?」
「直矢くん、そこは疑問系ではなく、「嬉しいぞ」や「抱きしめたい」と言わないとダメですよ!」
侑梨は軽く腰を曲げて顔を近づけると、アドバイスを言って頬を膨らませた。
「前者の方は言えなくはないが、後者の方は俺にはまだハードルが高いわ」
「そうですか。なら、その時が来るのを私は楽しみにしていますね…」
侑梨は腰に手を回すと、体を左右に揺らしながら期待する視線を向けてきた。
「が…頑張りたいと思います」
侑梨の強調されたスタイルに目がいかないようにそっぽを向きながら言い、俺は頬を掻いた。
そして侑梨は微笑しながら頷き、口を開いた。
「それでは筋トレを始めましょうか。今回は時間が遅いので軽めに行きたいと思います」
「軽めですか」
「はい!プランクを3セットとレッグレイズを3セットやりましょう!」
全然軽めではなかった。侑梨にとってはこれが普通なんだろうけど、俺にとっては結構キツめだ。
「それで軽めなの?!俺、聞いただけで筋肉痛になりそうなんだけど」
「もちろんです!私が現役の時にやっていた筋トレの半分にもならないですよ」
「マジか…」
「うふふ…ファンに夢を与えるアイドルは、裏ではこんなにも頑張っているのですよ!」
「俺たちファンの為に頑張ってくれてありがとうございます」
俺は侑梨の言葉を聞き感謝を伝えた。
「直矢くんにそう言ってもらえて、私はとても嬉しいです…これからは直矢くんの為に頑張りますね!」
侑梨は少し照れ臭そうに喜んだあと、胸の前でガッツポーズをして次の目標を語った。
「それは嬉しいけど、無理はしないようにね」
「やっぱり直矢くんは優しいですね!そんな直矢くんが大好きです!」
突然の"大好き"に俺の頬が熱くなるのを感じた。そして侑梨にバレないように俺は後ろを振り向き、「ありがとう」とボソッと呟いた。
後ろから笑みを漏らしたような声が聞こえたあと、「では」と侑梨は言葉を続けた。
「筋トレを始めましょう!」
俺は体を前に向け、侑梨に視線を向けて頷いた。
「それじゃあ直矢くんは私の見本を見て、横で同じことをやってみようか」
侑梨は頷いたのを確認すると、俺が筋トレをする為に作ったスペースにうつ伏せになった。
「最初はプランクをやるね」
そう言い、侑梨は膝を肩の真下で曲げて一直線になるように体を持ち上げた。この時、彼女は膝とつま先だけで体を支えていた。
「凄い… 全然、体にブレがない」
「体幹が固められている証拠だね。体幹がない人だとすぐに倒れるから。初めの頃は私も辛かった…」
侑梨はその時のことを苦笑しながら語った。
「なるほど…俺はきっとすぐ倒れそうだな」
「直矢くんならすぐにコツを掴めるよ!それじゃあ、私の横でやってみようか」
「分かった。それじゃあ、横を失礼します」
俺は侑梨の横に行き、一旦うつ伏せの状態になった。そして彼女と同じポーズを取った。
「おぉ… これはきついな」
俺は腕をプルプルさせながら踏ん張り、体幹を維持していた。特に太ももがやばい。腕とつま先で腰を支えているため、負荷が太ももにやってきた。
すると、侑梨が急に立ち上がった。
「直矢くんにはもっと頑張ってもらいますね!」
そう言うと、侑梨は俺の背中に乗ってきた。
「ちょ…ゆ、侑梨…何して…いるの?!」
突然のことに俺は動揺しながらも、腕を踏ん張って背中に乗っている侑梨を支えていた。
「直矢くんにもっと重い負荷をかけて、体幹トレーニングに慣れてもらおうと思いまして…」
「うん、全然…分からないや。とりあえず、俺の背中から降りようか。腕が限界だわ…」
「分かりました」
侑梨が立ち上がるのと同時に、俺はその場に倒れた。腕に力が入らなかった。
「直矢くん、こんなことでは筋トレを続けることはできませんよ?」
「すみません…3セットではなく、今回は1セットだけで見逃してください…」
「もう…今回は見逃しますが、自主的に筋トレはやってくださいよ?継続する事に意味がありますから」
侑梨は、未だに横たわっている俺の頬をツンツンさせながら呟いた。
「分かりました。頑張りたいと思います」
「よろしい!それではレッグレイズを15回やったら終わりにしましょう!」
「嘘でしょ…」
俺は顔を引き攣らせると、侑梨は、「やります!」と言ってサムズアップした。
レッグレイズはすぐに終わった。簡単に話せば、足挙げ運動なので床につかないように往復するだけ。ちょっと腹筋がキツイくらいで、プランクよりかは個人的には楽だった。
「いい汗をかきましたね」
「俺は汗をかいてないけど、体が熱いな」
侑梨の方を見ると、額や首筋に汗が垂れているのが見える。彼女は俺の倍の回数をこなしていた。
一方、俺は回数こそ少なかったが慣れないことをした為、少しだけ体に熱を感じた。
「それでお風呂なんですが…一緒に入りますか?」
侑梨は人差し指をツンツンしながら、恥ずかしそうにしていた。そんなに恥ずかしいなら、提案なんてしなければいいのにと思った。
まぁ…俺の言うことは決まっているのだけどね。
「入りません。出会って初日に一緒にお風呂入る人なんていませんよ」
「そんな…私、直矢くんとお風呂入るの楽しみにしていたのに…」
「涙目で情に訴えても俺は頷かないぞ。それじゃあ、俺は部屋で着替えるから」
俺は立ち上がり、自室へと戻った。
XXX
side 芹澤侑梨
その日の深夜。侑梨は直矢とお風呂には入れなかった。おやすみのキスも求めたが、彼が恥ずかしがってしまい御預けされた。そんなこともあり、侑梨は不満が溜まっていた。
そこで直矢が寝静まった夜中に彼の部屋に侵入して、一緒に寝ることを決めた。添い寝なら一回経験しているし、何より自分が直矢と寝たかったから。
「(失礼します… 直矢くんは熟睡していますね)」
直矢が起きる気配がないことを確認すると、侑梨は着ていたパジャマを脱ぎ下着姿になった。朝起きた時に彼を驚かせようと思ったからである。
「(それでは直矢くんのいるベッドへ)」
侑梨は直矢を起こさないように慎重にベッドに乗り、彼が掛けている毛布をゆっくりと自分に掛けながら横になった。
侑梨はそのまま就寝した。
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