第3話 推しアイドルが迎えに来た
始業式が終わり、俺は新しいクラスの自席にて突っ伏していた。周囲をチラッと見ると、一年の時に同じクラスだった者同士で集まり話している人や静かに席に座って本やスマホをいじっている人がいた。
……俺も気を紛らわせるためにスマホでも弄っているか。
俺の頭の中には今朝のことが過ぎっていた。
合鍵で部屋の中に入り、俺のベッドで添い寝をしていた侑梨。そして父親からの手紙により、彼女と許嫁になったという事実。未だに理解できず、始業式の時もモヤモヤしていた。
俺は体を持ち上げてブレザーの内ポケットからスマホを取り出した。
「……ん。そーいえば、今日の占いを見ていなかったな」
毎朝学校に行く前に占いを見る習慣がある。
だけど、今朝はイレギュラーなことがあり、みれなかったことを思い出した。
俺はスマホを操作して情報番組の公式サイトを開き、自分の誕生月を探した。
「——— 7位かよ。なんか微妙だな」
絶妙な順位に肩を竦めていると、後ろから肩を叩かれた。俺は後ろを振り向き、叩いた人を確認すると、このクラスで唯一の友達の
特に大浪さんはクラスでも上位に入るほどの可愛さなので、彼女の笑みを見た者は皆んな恋に落ちるだろう。だけど彼氏の和樹によって、その恋は儚く終わるんだがな。
「よっ!また同じクラスになったな!」
「おはよう直矢くん。今年もよろしくね♪」
「こちらこそよろしく」
二人は俺が振り向いたのと同時に挨拶をしてきたので、俺は軽く挨拶を返した。
「相変わらず反応が薄いな(笑)」
「和樹、そんなことを言ったら直矢くんに可哀想でしょ?」
「うっ… 美唯にそう言われると何も言い返せね」
目の前でイチャイチャしてくる二人。
「そんなことより、直矢の顔が疲れているように見えるのだが、俺の気のせいか?」
「……確かに!直矢くんがこんなに疲れた顔をしているの見たことない!」
和樹が俺の顔を見ながら言うと、美唯も視線を俺の方に向けて数秒の沈黙の後彼に同調していた。
……疲れているような顔か。
今朝、あんなことがあれば誰だって疲れるだろう。父親の手紙は筆跡的に本物だと思うが、いきなり許嫁や同棲と一気に伝えられたら情報処理が追いつかないだろ。
あの時は侑梨の手前見栄を張って理解した感じに接したが、俺の頭の中は今もモヤモヤしていた。
「それだけ情報処理が出来ないほどの出来事が、今朝あったんだよ。それが現在進行形で悩みを増やしているというな」
そう… 侑梨の話が本当なら、現在進行形で俺の家で彼女の荷物の引っ越しが行われているはず。
「それは気になりますね。和樹探偵、この件をどう見ますか?」
「そうですねぇ〜 美唯くん、自分は女絡みだと予想します」
何故かこーゆう時に限って、察しがいい二人。
目の前でいきなり探偵ごっこをしてきた馬鹿なカップルに、俺は嘆息しつつ口を開く。
「変なことをやってないで、さっさと席に行ったらどうだ?」
「和樹探偵!これはつまりそーゆうことですか?!」
「美唯くんも気付いてしまったか。そう、君の思っている通りだ」
「な… なんだって?!」
と、美唯が身を後ろに引きながら俺の方をチラッと見てきた。
何かを求めているらしいが、俺は特に反応することなくスルーした。
「直矢そこは反応してくれないと終わらないだろ?」
「反応したら負けだと思ったから。それに自分のことをいちいち言うつもりはないし」
「あはは、直矢くんらしくていいね!」
なにがいいのか分からないが、とりあえず茶番劇は終わったらしい。
「ホームルーム始めるから皆んな席に着けー」
と、同時に担任の先生がやって来た。
「それじゃあ、俺は席へ戻るとするわ」
「私も席へ戻るね!」
そう言い、和樹は俺の席から少し離れたところ自席へ、大浪さんは斜め後ろの席へと戻った。
ホームルームは15分程度で終わり、今日は授業がないのでこれで解散となった。
俺は和樹と大浪さんの3人で話しながら歩いていると、校門前で野次馬ができていた。
「あれなんだろう?ちょっと気になるから、先に見てくるね!」
大浪さんは目を輝かせながら野次馬の中へと入っていき、俺は和樹と苦笑しながら後ろ姿を見ていた。
すると、すぐに大浪さんは戻ってきた。
「そんなに慌てて戻ってきてどうしたんだ?」
あまりにも早すぎたので、和樹が首を傾げながら聞いていた。
「ヤバいよ!!私たちの学校の校門前に芹澤侑梨がいる!!」
「芹澤侑梨?彼女がこんな所にいる訳ないだろ(笑)」
和樹の言う通り普通ならあり得ないことだと思うだろう。実際、俺だってもし今朝のことがなければ大好きだった芹澤侑梨がここにいるとは信じない。
だけど、彼女はここにいる。
というよりも、俺の許嫁になり同棲することになっている。
「直矢?!」
俺は和樹の呼び掛けに振り向きもせず、一目散に野次馬の中へと走っていった。
「その… 私、人を待っているので」
そこには野次馬の人達に言い寄られている、芹澤侑梨本人がいた。彼女は顔を引き攣りながらも、野次馬と一定の距離を保っていた。
俺は何とか野次馬たちの間をすり抜けて一番前に着くと、侑梨と目が合い、そして彼女は笑みを溢した。
「直矢くん! お迎えに参りましたよ!一緒に帰りましょ?」
その一言で野次馬たちの視線は全て俺の方に向いてきた。敵意のある視線だ。同時に、俺は今朝の侑梨が言った一言を思い出した。
『また後で会いましょうね』
……まさか俺の学校にお迎えに来るとは。
俺はため息をついたあと、彼女に微笑しなが手を振った。
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