救ってあげられないもどかしさ
あつい……いたい……
全身が痛くて、胸が焼けるように熱い。
―――ユエ……
暗闇の中に、声が響く。
それは聞きたくない、恐ろしい声。
―――痛いか? 苦しいか?
声は、自分を見下ろして笑う。
―――オレに逆らおうとするからだ。お前は一生、オレに逆らえないんだよ。
くつくつと笑い声が響く。
その度に体中が痛くなって、それ以上に胸が熱くなる。
いやだ……いやだよ。
いたいよ……だれか……だれかたすけて。
だれか……
「―――やだ…っ」
振り払った腕が、ベッドの柱に激しくぶつかる。
その痛みで、ユエは目を覚ました。
気が遠くなるような暗闇は、いつの間にか広い部屋をぼんやりと見渡せる薄闇の世界へと変わっている。
「……ユエ?」
そっとではあったが急に部屋のドアが開いたので、ユエは大きく体を震わせる。
夢と現実がごちゃ混ぜになって、夢で見た影が揺らめく。
だが、そこにあったのは夢の人物の姿ではなく、自分を拾って助けてくれた人の姿だった。
「またうなされてたの?」
風呂上がりだった実は頭に乗せたタオルで髪を拭きながら、ベッドの上で身動き一つしないユエに近付いた。
「………」
ユエはこちらの動きを探るように、じっとこちらを凝視している。
その様子だけで、ユエが悪夢を見ていたであろうことは容易に想像できた。
実はユエと目線を合わせると、その目尻に浮かんでいた涙を優しく拭ってやる。
「怖い夢を見たんだね。もう大丈夫だよ。」
安心させるために笑いかけると、ユエの表情が一気に歪んだ。
ユエは両手を実に伸ばして、その首に思い切りしがみつく。
「うわ…っ」
体重がかかった勢いに負けた実は、ユエを受け止めながら尻餅をついた。
「……怖い。」
実の耳元を、か細い声が打つ。
ユエはこちらの首を苦しいくらいにきつく抱き締めて震えていた。
それは、心の内に荒れ狂う感情を殺し、泣くのを必死にこらえているよう。
「………」
実の表情が
ユエは自分のことを語ろうとはしない。
その理由には、ユエ本人も自分の状況を分かっていないこともあるし、ユエが自分のことを語りたくないと思っていることもある。
今だってきっと、自分のことを話したくないから泣くのを我慢して、震えながら感情を殺しているのだ。
そうするしかない気持ちは、痛いほど分かるとも。
自分だって、そうやって感情を殺すことを何度もしてきたのだから……
「ごめんね。」
ユエの頭をなでて、実は目を伏せた。
「俺が、解放してあげられたらいいのに……」
あり余っている力があるのに、こんな小さな子供すら助けてあげられないなんて。
もちろん、自分の力ではどうにもできないことがあるのは分かっている。
血の契約を無理に解こうとすれば、ユエを苦しめる結果にしかならない。
そんなこと、分かっているのに……
やりきれない自分の気持ちが、不快感しか生み出さない。
「………」
細く溜め息を吐いた実は、ユエを優しく抱き締めることしかできなかった。
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