公園にて、事件。

 特に行き先も決めずに歩き、たまたま見かけた公園に入ることにした。

 ユエが少し疲れているように見えたので、ちょっと休憩しようと思ったのだ。



 ベンチに腰かけた実の隣に座ったユエは、先ほど実にもらったペンダントをじっと見つめている。



 よほど気に入ったらしい。

 ここまで気に入ってもらえたなら、買ったかいもあったというものだ。



 実はくすりと笑って、薄い雲がかかった青空を見上げた。



 穏やかな空は柔らかく世界を包み、時おり吹いてくる風が優しく実たちの髪を流す。



「………」



 実は表情を曇らせる。



 力を感じすぎてしまうのも考えものだ。



 誰にどんな力があって、誰がどんな力に縛られているのか。

 それが分かったとしても、いいことなどあまりないのに。



(分かったところで、必ずしも助けられるとは限らないもんな……)



 実はユエに悟られないよう、細く息を吐く。



「あ、実だ!」



 名前を呼ばれたのは、ちょうどその時のことだった。



 前方を見ると、公園に入ってきた子供たちが揃いも揃ってこちらに駆けてくるところだった。



 あっという間に子供たちが周りに群がって何かを言ってくるのだが、皆が一斉に話してくるせいで何を言われているのかさっぱりだ。



「あのな。そんな一気に言われても、分かんないから。」



 呆れた実が言うと、子供たちは互いに顔を見合わせた後、また実を見上げて我先にと口を開く。



 実の頬がひきつった。



「ああああ~、もう! 人の話を聞けっての!!」



 破顔した実は、子供たちの頭を両手で勢いよく掻き回した。

 一方の子供たちは、甲高い悲鳴をあげながら楽しそうに笑う。



「あれ?」



 ふと、子供の一人がユエの存在に気付いた。

 それをきっかけに、子供たちの視線がユエに集中する。



「誰ー?」

「髪長いね。」

「ってか、顔が見えねぇじゃん。長すぎねぇか?」



 子供たちは、次々にユエへと言葉を投げかける。



 ユエは急なことに驚いたのか、怯えたように肩をすくめると実の腕を掴んで、その陰に隠れてしまった。



 すると。



「あああーっ!!」



 子供たちが、全員で声を荒げた。



「ずるいずるい!」

「実、いつもは〝鬱陶うっとうしいからくっつくな〟って言うくせに!」

「なんでー?」



「いや、なんでって…。お前らはしつこいんだもん。」



 一瞬答えに迷ったが、特に遠慮もいらないかと思い直して率直な気持ちを告げる。

 それを聞いた子供たちは、やはり不満そうだ。



 そして結果的に、その不満の矛先はユエへと向かってしまう。



「ってかさ、なんで何も言わないの?」

「つまんねーの。隠れるなよー。」



 子供の一人が、ユエの服を掴んで引っ張る。



「ちょっ……お前ら、その辺に―――」



 さすがに見かねて止めに入ろうとすると、ユエがこちらの腕を握る手に力を込めた。

 そこから伝わる震えに気付いてユエを見下ろすと、こちらを見上げるユエと目が合う。



 黒い大きな瞳に、いっぱいの涙が浮かんでいた。



〝もう限界。〟



 その目は、そう告げているように見えた。



 これはまずい。

 そう判断した実は、慌ててユエを抱いて立ち上がった。



 ユエは実の肩に顔を伏せると、首を絞める勢いで実にすがりつく。



「お前らな! 初めて会った相手にこんなことをしたら、怖がっちゃうでしょ!? 今日はもう帰るからね!?」



 喚く子供たちに早口でまくし立て、実は大急ぎで屋敷へと走った。


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