小さな贈り物
初めて
ユエは目をキラキラとさせて、立ち止まっては
実もそれに付き合って、ユエが満足するまで待った。
そうやって思い思いに時間を過ごしていたユエは、とある店でその歩みを完全に止める。
そこは、アクセサリーショップだった。
色とりどり、デザインも様々な装飾品たちが、ガラス窓の内側で光り輝いている。
ユエはガラスにべったりと手をついて、食い入るようにそれらを見つめていた。
さすがは女の子といったところか。
実がその様子を見守っていると、自分たちに気付いたらしい四十代ほどの男性が店の中から出てきた。
「おお、エーリリテちゃんのとこの。来てたのか?」
ワイシャツに蝶ネクタイ、スラックスというフォーマルな格好の彼は、この店の店主であるロルだ。
ロルが実に声をかけた瞬間、ガラスの向こうに夢中だったユエが大きく肩を震わせる。
「あれ、その子は?」
ロルの目がユエに移ると、ユエは慌てたように実の影に隠れた。
「訳あって預かってるんだ。人見知りみたいで、今んとこ俺にしか懐いてくれなくて…。あんまり気を悪くしないでよね?」
「大丈夫だよ。そんなんで怒るほど狭量じゃないさ。それにしてもお前さん、本当に子供に好かれるね。評判は、常々聞いてるよ?」
にしし、と独特な笑い方をして言うロルに、実は苦虫でも噛み潰したような顔をする。
「評判って……何さ、それ。」
「いや、別に悪いもんではないよ? 子供たちがお前さんをどれだけ好きかってことが、よおーく分かる話さ。かくいう僕の子供もね……」
「待った。その話、絶対に長いよね。」
即座に突っ込んだが、語り始めたロルは聞く耳を持たない。
仕方なく話を聞いているうちに、後ろにあった温もりがいつの間にかなくなっていることに気付いた。
後ろを見ると、ユエがまたガラスに張りついていた。
ロルに対する警戒心よりも、目の前の装飾品に対する興味が
「ねぇ、ロルさん。」
呼びかけると、長話に花を咲かせていたロルが「ん?」と首を
「ちょっと……」
実は指でロルを手招きして、近付いてきた彼にこっそりと耳打ちをした。
(きれい……)
一方その頃のユエは、ガラスの向こうに並ぶアクセサリーに目を奪われていた。
「すごい……」
どれもこれも、初めて見るものばかりだった。
目の前に綺麗な色の石がたくさんあって、さらにずっと奥には明るい光を放つものもある。
それらはユエの目線を釘付けにして、彼女に不思議な高揚感を与えていた。
ふと―――
「ユエ。」
ユエを呼ぶ声が。
それにユエが振り向くと同時に、その目の前に何かがぶら下がってくる。
「手、出して。」
何が起こったのかが分からないながらも言われたとおりにユエが手を出すと、実はユエの目の前にぶら下げたそれを小さな手の上に落とした。
「………っ!!」
手の中を見たユエは驚いた顔で実を見て、その後ガラスの向こうに目を移した。
そこにあるのは、丁寧に磨かれた琥珀のペンダントだ。
ダイヤの形にカットされた琥珀の周りには金色の縁があしらわれていて、縁の四隅には光を反射して輝く緑色のガラスがはめ込まれている。
そして―――それと全く同じものが、ユエの手の中にあった。
驚きすぎてあたふたとするユエに、実はくすくすと笑い声を零した。
数あるアクセサリーの中で、ユエがとりわけこの琥珀のペンダントに目を奪われていたのを、実はさりげなく見ていたのだ。
「いいんだよ。」
実はペンダントをユエの首にかけてやる。
「気に入ったんでしょ? それはもう、ユエのもの。大事にしてね。」
「………」
自分の首にかかったペンダントを、ユエはしばらく、信じられないというような表情で見つめていた。
「よかったな、お嬢ちゃん。」
実の後ろから顔を出したロルが笑う。
すると、ユエの表情が徐々に緩んでいって―――
ここに来て初めて、ユエがはっきりとした笑みをたたえた。
「あり……がと。」
ペンダントを握り締めて嬉しがるユエに、実も満足そうに笑みを深めた。
「あーあ。それにしてもお前さん、モテるだろ?」
意味ありげな口調で問いながら、実の顔を覗き込むロル。
にやにやと口の端を吊り上げる彼から逃げるように、実は
「何言ってんの。んなことないよ。」
適当に流すと、ロルは何故か大袈裟に溜め息をつく。
嘆かわしいとでも言わんばかりの態度だった。
「まったく。お前さんの陰で、一体何人の女が泣いてんだか…。罪作りな奴だなぁ。」
「はあ? 何それ?」
「何それって……ねぇ?」
妙な含みを持たせて首を傾げるロル。
これ以上は、特に詳しく語るつもりはないらしい。
「もういいよ。ユエ、行こう。」
実は素直に諦めて、ユエと手を繋いでアクセサリーショップを後にしたのだった。
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