第91話 誰か俺を褒めて欲しい




 んん? 俺の思っていた反応と違った気がするのだが気のせいだろうか?


「いや、だからな、一度チェックインしてしまうとチェックアウトしないと外に出られないんだが……?」

「? ええ、それがどうしたのかしら?」

「え?」

「え?」


 そして俺は頭の中が疑問で溢れるのだが、結局のところ答えは単純明快なのではなかろうかという答に、どのルートで考察しても行きついてしまい、その事に血の気が引き始める。


「えっと、だな……。 折角こうして二人で旅行に来ているのだから一回荷物を置いて観光地巡りとかしないのか?」

「あれ? おかしいわね……。 折角二人っきりの世界を邪魔されないイベントなのよ? これはもう一日中愛し合うパターンではないのかしら?」

「え?」

「え?」


 や、やっぱりというかなんというか、俺の嫌な予感が当たってしまっているではないか。


 というか、泊まるホテル選びにラブホテルを選ぶ時点でもう既に察しは付いていたけれども、ほんの少しの希望はあると信じて思考から強引に現実から目を背けてしまっていた。


「いやいやいや……えぇ?」

「う、嘘に決まっているわっ!! ちょっとしたドッキリじゃないのっ!! なに本気にしているのかしらっ!! まったく、思春期の男性の頭の中はエッチな事しか考えられないとは良く言うのだけれども、ちょっと節操が無さすぎるのではなくてっ!?」


 そして、若干俺が引いている事を瞬時に感じ取ったのであろう麗華は物凄いスピードで掌をくるくる回転させ始めるではないか。


 しかもただ回転させるだけではなく、さりげなく俺がむっつりスケベであるかのように言い、擦り付けようとする始末である。


 いや、確かに俺も今回の旅行でそういう展開を期待していないわけではないし、年相応にそういう行為に興味があるのも確かである。

 

 しかしながらモノには限度というものがあり、そして麗華のこの行動には思春期男子の妄想を遥かに超えて来てしまっていた為に思わずドン引きしてしまったのである。


 そんな麗華から『頭の中エッチな事しか考えていないのかしら?』と言われて『お前にだけは言われたくない』と突っ込まなかっただけ誰か俺を褒めて欲しいくらいである。


「じゃ、じゃぁちゃんとしたホテルを探してチェックインしに行くか。 幸いタクシーはまだいてくれているしな……」

「え?」

「え?」


 何その『本当に別の所にするの?』みたいな表情は。


「そ、そそそそ、そうよねっ!! 早く行きましょうっ!!」


 そして麗華はピンク色に塗られた、まるでお城のようなラブホテルをチラチラと名残惜しそうに何度も振り返りながらタクシーに乗るのであった。

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