第86話 あの犬飼がねぇ

「は? いや、え? ヤバいって何だよ? 俺今めっちゃ良いこと言ってた気がするんだけど?」


 そして俺はこれから麗華こそが俺のパートナーであるという事を朝比奈に伝えようとした時に、その空気をぶち壊すように麗華が話しかけてくるではないか。


 その、一世一代の告白をぶちまけようとした俺の勇気と空気を壊された俺は少しだけ不機嫌になりながら麗華に何がヤバいのか話しかける。


 そして俺は、しかしながらここで麗華がこの空気をぶち壊してまで俺に話しかけてきた理由を聞かないと大変な事になるような気がした為、ここで麗華へ話しかける事は間違いではないだろう。


「や、ヤバいってそれは…………をしてしまいそうだからよっ」

「え? 何だって? ごめん、あまり聞こえなかったからもう一度言ってくれないか?」


 しかしながら麗華は大事な部分で何故か急に恥ずかしがってしまい、顔を真っ赤にしつつモジモジモゴモゴと話してくれるんだがいかんせん声が小さい為何を言っているのか全く分からないではないか。


 これでは対応の仕様がない為俺は麗華にもう一度言ってもらおうようにお願いをすると、ただでさえ顔が真っ赤になっている麗華の顔がさらに赤くなってくるではないか。


 それを見た俺は『このままではヤバい』と直感的に思い、麗華へもう大丈夫だから何も言わなくて良いと言おうとしたのだがどうやら遅かったようである。


「ちょっと待って──」

「ご主人様があまりにも私の事を思ってくれている事がヒシヒシと伝わってくるから、嬉しすぎてウレションをしてしまいそうと、公衆の面前でお漏らしをしてしまいそうだと言っているのよっ!!」


 言っているのよーーーーっ!!


 いるのよーーっ!


 のよーーっ


 そして訪れる沈黙。


 とんだ娘をペットにしてしまったもんだ。


「……あんた、あんな変態が良いの? 私より?」

「うぐっ」


 そしてかけられる朝比奈の言葉が、今日一番俺の胸に突き刺さる。


「た、確かに麗華は変態。 それもペット願望があるほどのどド変態であるし、嬉しさ余ってお漏らしをしてしまう程に変態である。 でも、そんな変態よりもお前が俺にやった事を考えれば俺は麗華を選ぶ。 それほどの事をお前はしたんだ」


 しかしながらここで恥ずかしがってしまうのが一番の悪手であると判断した俺は何とかそれっぽく言ってみたのだが『それでごまかせる筈がないだろう』という周囲の空気がヒシヒシと伝わってくる。


 そして聞こえてくる『犬飼くんって、まかさここまで変態だったとは……』『人は見かけによらないもんだな。 あの犬飼がねぇ』という声がちらほらと聞こえてくるではないか。 

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