第84話 朝比奈も俺と同じ考えのようで一安心

 そしてやはりというか何というか、朝比奈の言い分を今一度詳しく聞いてみても理解できないどころか、どういう思考回路をしていればそういう考えにたどり着くのかと思ってしまう程、俺の価値観と朝比奈の価値観がズレている事が理解できた。


 朝比奈の言いたい事は『惚れた弱みに付け込んで、どこまで自分を好きでいられるか試していた』という事なのだろう。


 そんな『人の感情を弄ぶような事をしていただけだから私は悪くない』などと言われた所で『それじゃぁ仕方ないね』と俺が許してくれると思っている所も腹が立つ。


 それは言い換えれば俺も朝比奈が俺に対して行った行為を肯定するのと同じではないか。


 当然俺はそんな事を許すはずも無いし、もし今もまだ朝比奈の事を忘れられずに好きだったとしても、真実を知った瞬間に幻滅して百年の恋も冷めるだろう。


 しかしながら朝比奈は自分のした行いがどういう事か未だに理解していないのか未だにペラペラと如何に自分が悪くないか、また俺の事を信じていたが故の行動だっただとか、俺を本気で愛していたからこそ吐いた嘘だとか言い続けている始末である。


 最早朝比奈の戯言は聞く価値など無いと判断した俺は聞こえてくる内容を右から左へ受け流していく。


「これで、いかに私が祐也の事を思っていて、だからこそ試したという事が理解できたでしょ? 本来であれば女性である私から告白するなんてあり得ない事なのだけれども、確かに『他の男と既に付き合っている』という嘘を吐いた事については私も今思えば、ちょっとだけやり過ぎたと思っているから今回だけは私から告白する事は水に流してあげる。 それに、もともとは祐也から私へ告白して来たのだから実質祐也から告白されて、それを私が受け止めるっていう見方もできるしね。 じゃぁ、そんな泥棒猫の氷室なんか捨てて私とこれから一緒に登校しようよ」


 そして朝比奈はそこまで一気に言うと俺に手を差し伸べて来る。


「なぁ、朝比奈」

「何? 祐也」

「ペットは一度飼うと最後まで面倒を見なければならないし、最後まで面倒を見れないのならば飼うべきではないよな」

「はぁ? 何それ。 今いう事? まぁでもそうよね。 飼うと決めたのならば最後まで飼ってあげないと無責任よね」


 そんな朝比奈へ俺はペットを飼う時について質問するのだが、どうやらこれに関しては朝比奈も俺と同じ考えのようで一安心する。


「俺最近ペットを飼い始めたんだよね。 最高に可愛くて、毎日でも可愛がりたい程なんだけど、俺にべた惚れ過ぎて偶に鬱陶しいと少しだけ思ってしまうんだけど、そんな所も一周回って可愛いんだよ」

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