第73話 素直に喜べない俺がいる

 そして俺は制服に着替えると一階に下りてダイニングへと向かう。


 因みに俺は麗華へ『着替えるから一度部屋から出て欲しい』と言ってみたのだが『昨日の深夜、ご主人様が公園の多目的トイレで何をしたのかお母様に詳しく教えてあげても良いのだけれども?』と言われてしまっては出て行けとは言えない為、俺は興奮して呼吸が荒くなった麗華の見ている前で寝間着から制服へと着替えるはめになった。


 それと同時に俺は麗華にとんでもない弱みを握られてしまったという事に今さらながらに気付いてしまう。


 そもそも麗華は自分が変態であるという事が俺の家族にバレても痛くないという時点で俺に勝ち目など無いのだ。


「おはよう、バカ息子。 やっと下りてきたわね。 皆アンタが下りて来るのを持ってたんだから。 そもそも彼女が起こしに来たんだから飛び起きなさいよ。 それじゃぁ、全員揃った事だし食べましょうか。 あ、麗華ちゃんの分も作っているから朝ごはん食べてないのならば麗華ちゃんも一緒に食べて行ってちょうだいな」


 そしてダイニングにあるテーブルには既に朝食が並べられており、俺以外の家族全員がテーブルの席についていた。


 そんな中俺の母親が俺の姿を見つけると嫌味を一つ言った後に人が変ったのかと思えるような、例えるならば電話口で話すような気色悪い声で麗華に一緒に朝食を取らないかと話しかけて来るではないか。


 頼むから息子の前でそんな声を出すのは、それが例え麗華であろうとも恥ずかし過ぎるので止めて欲しいと切に願う。


 そしてこの会話からも既に俺を起こしに来る前に麗華と母親は会っている事が窺える。


 まぁ、流石に誰にも会わずに玄関から俺の部屋まで来るのは無理があるだろうから普通に考えて麗華がこの家に来た時に出迎えてくれたのだろうが、であれば母親自ら俺を起こすついでに教えてくれても良いのでは? と思わず思ってしまう。


 その『母さん分かってるからね』という感じの生暖かい優しさを無駄に感じ取ってしまい、これはこれで気持ちが悪いと思ってしまうではないか。


「あら、ありがとうございます。 祐也さんのお母さま」

「あらやだぁー、もう麗華ちゃんったらっ。 私の事はそのままお義母様おかあさまって呼んでくれて良いのよぉ?」

「はい、お義理母様。 それでは丁度今日は朝食を取っていなかったのでありがたく頂戴しますね」

「あらそう? それは良かったわ。 それじゃ、遠慮せずに食べちゃって食べちゃってっ」


 そして麗華俺の家族とまだ数回しか会っていないというのにかなり好かれているようである。


 普通に考えれば彼女である女性が自分の家族に好かれるのは良い事だとは思うのだが、何故か素直に喜べない俺がいる。

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