第71話 涎まみれ

 うーん、夢にしてはやけにリアルだな。 それに、麗華匂いまでちゃんと感じ取れるではないか。


 こんな夢ならばずっと続けば良いのに。 それこそ今日は寝坊して遅刻してもいいやと思える位には気分が良い。


 しかしながら、夢の中の麗華なのだが、キスやたら長くないか?


「ぷはぁっ…………まったく、これでも起きないとは中々強敵じゃない。 普通は愛する者のキスで目覚めるのが定説でしょうに。 まったく、ご主人様がそのつもりならば良いでしょう。 覚悟することね」


 そして夢の中の麗華はそういうと俺の体の上に覆いかぶさって両手で俺の頭を固定したかと思うと、再度俺にキスをしてくるではないか。


「むむぅっ!? むぅーーっ!!」


 そう思った瞬間、俺の口の中に麗華の舌が入って来て俺の口内が犯されるではないか。


 ここで俺はようやっと気づく。 これは夢ではなく現実だと。


「ふぅ…………ご馳走様でした」

「ご馳走様じゃねぇわっ!! 俺の口内を好き勝手に麗華の舌で犯しやがってっ!! そのせいで口周りが麗華の涎まみれじゃないかっ!!」

「あら、何をおっしゃいますか。 私はちゃんと『起きてください』と優しく起こしてあげようと思っていたのだけれども、一向に起きる気配はないし、キスをしても起きないのだから後は舌を入れるしかないでしょう?」

「いや『ないでしょう?』と言われても、他にやりようがあったでしょうが」

「はにゃ? 何を言っているのか分からないわね。 それに私の涎まみれじゃなくて、私とご主人様の涎が混ざった涎まみれよ」


 これは流石に殴っても良いのだろうか?


 ただ悔しいのが『はにゃ?』と惚ける麗華を、スマホで写真として保存したいと思えたほどには可愛いと思ってしまったことである。


 これがあざと可愛いというやつなのだろうか? 少し違う気もするけど、似たようなものだろう。


 そして、もう一つ俺は麗華に聞かなければならない事がある。


「それは良いとして、いやよくないけれども一旦置いておいて……なんでまだ俺の腹の上に座った状態で俺の顔を両手で固定しているんだ? 俺が起きたのだからもう頭を固定する必要はないし、俺の上から退かないと起き上がる事ができないんだが?」


 そもそも麗華は俺を起こしに来たというに、俺が起きても俺の上に跨いで座ったまま俺の頭を未だに両手で固定しているのである。


「あら? 今更そんな分かりきった事を言うのかしら? それとも女性の私の口とから言わせたいというご主人様のS心というやつかしら? まぁどちらでも良いわ。 この際だからそんな事を聞いてくる悪い口に答え合わせとして分からせてあげるわ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る