第57話 良い傾向

「それくらいならば大丈夫、むしろ大賛成よっ…………って、え? 私の聞き間違いかしら? もう一度言ってくれないかしら?」


 そして俺が麗華に対して対価を伝えると、始めはやる気満々な答えが返ってくるのだが何かに引っかかる所があるのか聞き直してくる。


 そんな麗華はかなり期待いているのか目は期待に満ちており息は荒く、興奮しているのか涎が垂れてしまっており、流石に他人に見せられないような顔をしているではないか。


「いや、だから深夜に一緒に散歩──」

「行くわっ! 行くに決まっているわよそんな事っ!! 何なら今から行きましょうっ! さぁっ!!」

「いや、明るい時間帯では人に見られやすいしどこに誰がいるか分からない上に通報でもされたら間違いなく学校まで連絡がいくだろう事を考えるとリスクしかないから流石に今からは無理だって」


 そして麗華は俺が言い終える前に首輪とリードを手にして『はぁはぁ』と荒い息で今から散歩に行こうと言うのでデメリットしかないから無理と返すと少しだけしょんぼりと気落ちするのだが、それでも深夜に散歩ができることには変わりないことに気づき、今から待ち切れないのかそわそわと落ち着きがなくなってくるのが手に取るように分かる。


「わ、分かったわ。 しかし急にご主人様から散歩をしようだなんて言ってくれるなんて一体どういう心境の変化かしら?」

「いや、いつも麗華から何かしらのペットプレイを誘ってくるから偶には俺から誘っても良いかなって思っただけで別に他意はないぞ?」

「あらそうなの? それは残念ね。 でも、少し前までならば絶対にご主人様から誘うって事は無かったのでこれはこれで私にとっては良い傾向だと思うし、嬉しいことには変わりないわね」


 そして俺と麗華はたわいのない会話をしつつ日が落ちるまで過ごした後、深夜に集まる場所と時間を決めて一旦麗華は自分の家に返って行くのであった。





現在の時刻は深夜の二時。 いわゆる丑三つ時という時間に俺のスマホに意見の通知が来るのを確認してから家の玄関へと向かう。


「あら、遅いじゃないの? 待ちくたびれたわ」

「いや、一分も待ってないだろう?」

「今の私は一秒も待てないのだから一分という時間はものすごく長く感じてしまう時間なのよ。 そしてそんな話などどうでも良いから早く私に首輪とリードをつけて散歩して欲しいのだけれども?」

「分かったから一度落ち着けって」

「落ち着いたから早くしてちょうだいっ! さぁ早くっ!! ご主人様、私に首輪とリードをっ!!」

「ちょっ! ばかっ!! 家族が起きるから静かにしてくれっ!!」


 

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