第56話 散歩

 そして麗華は身体を乗り出しながら先ほど俺が言った言葉を再度言うようにおねだり強要してくるではないか。


 しかしながら、少しだけ顔を赤ラメそこはかとなく期待しているのが隠し切れておらず、そわそわしているのがよく見ると分かるのだが、それがまた可愛いと思ってしまい、そしてそんな麗華を見ると思わずいじめたいと思ってしまう自分に気づく。


 自分から麗華をいじめたいと思うとは、俺もかなり麗華に毒されきているようだ。


「分かった。 麗華がそこまでいうのならばもう一度言うよ」

「流石、物分かりが良いご主人様ね。 ちょっと動画撮影する準備をするので少し待っててちょうだい」


 そして俺が麗華のおねだりを渋々といった体で了承すると、麗華は花が咲くように『ぱっ』と笑顔になると、いそいそとスマートフォンを録画するために操作し始める。


 普段スマートな雰囲気を出して何事にも余裕があるように見せている麗華がただスマートフォンで動画を撮るというだけで焦っている姿を見ると、普段とのギャップで、そんな姿もまた可愛く思えてくる。


 ほんと、ここまで来てしまうと俺は自分でも思っている以上に麗華という沼にハマり出しているという事を認めるしかないだろう。


「とりあえず今は動画を撮影する準備は必要ないぞ」

「え? 今から言ってくれるのではないのかしら?」

「流石にあの時言った言葉はそんなに安い言葉ではないからな。 そう簡単に言うはずがないだろう? それなりの対価が必要だと思わないか?」

「ぐぬっ、た、確かにあの言葉はそんな軽い言葉ではないから言い返せないのが悔しいわね。 それこそお金を払ってでも聞きたいレベルだわ」


 そして俺はもう一度先ほどの言葉を言うには対価が必要だと言うと、麗華は悔しそうな顔をしつつも対価が必要なのは納得したようである。


「それで、その対価とは何のかしら? 十万円までは出せるわね。 それ以上となると親に土下座してでも掻き集めてくるから少しだけ待っていてちょうだい」


 いや、十万って……流石にそこまで俺の言葉に価値があるとは思えないので麗華の価値観が少しだけ心配になってくる。


 あとこんなことで親に頭を下げるのはやめて欲しいし、麗華が頭を下げてでもお金が欲しい理由を知った親が俺の所に凸する可能性もあるので、本当にやめて欲しいと願うばかりである。


「いや、流石に売ってないぞ?」

「じゃぁどうやって買えば良いのよっ!?」

「いや、買うのではなくて対価を払ってもらうと言っただろう?」

「ならその対価をもったいぶらずに早く言いなさいよっ! もう待てないのだけれどもっ!?」


 そして麗華はもう待てないという感じで俺に詰め寄ってくるので流石に俺も何を対価にするか麗華に伝える事にする。


「なぁ、今日の夜中に公園を散歩するっていうのはどうだ?」

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