第31話 身も心も彼氏のもの



 ◆


 

 学校での麗華は今日も凛々しく、氷の女王の二つ名に相応しい。


 そんな姿を見ると実は麗華は二重人格で、昨日の俺の家にいた麗華は別人格では? と思ってしまうほどには百八十度違うのである。


 たとえ昨日、俺の人権が家族間で無くなった理由をいくら丁寧に話をしたところで誰も信じてくれないくらいには今の麗華と放課後の麗華は人が変わったように違っている。


 それがなんだか優越感を感じ始めてきているのだから俺もいよいよヤバいと自分でも思ってしまう。


いわゆる『俺だけが知ってる』または『俺にだけ見せてくれる』という優越感である。


 そして昨日感じたゾクゾクとした感情と相まって、ここでグッと踏みとどまっておかなければ本当に戻ってこれなくなってしまうだろう。


「あ、今日はチョーカーを着けてきているんだねっ!」

「どうしたの? その黒いチョーカー? 普段はそんなの着けたことないのに」

「でも、そのチョーカー、すっごくかわいい……」


 そして俺の性癖が捻じ曲がってしまう瀬戸際だというのに、その原因である張本人の麗華は今日もクラスメイト達に囲まれて普段通りの日常を過ごしているのが目に入ってくる。


 こっちは今にも胃に穴が開きそうだというのに……。


「だって、私はもうご主人さ……んんっ、身も心も彼氏のものですもの。 それを示す意味でもチョーカーを着けているだけよ。 もう彼氏に首輪を着けられていますって意味を込めて。 ちなみにリードも既に着けられているわよ?」

「ひゃーっ! ラブラブじゃないっ!! いいなぁーっ」

「自慢かっ!? 自慢なのかっ!? う、羨ましくなんかないんだからねっ!!」

「こ、これが……リア充……。 ま、眩しすぎて直視できない……っ」


 何をやってんすか麗華さんっ!? しかもさっき『ご主人様』ってほぼほぼ言ってたよねっ!? 周りの女子たちが何故か聞き取れていなかったおかげで助かったけど『ご主人様』の『ま』以外全て言ってたよねっ!?


「おい、昨日から本当に大丈夫か?」

「すまん、心配してくれているところ悪いのだが今はそれどころじゃなくなったみたいだ」


 今日も俺の事を心配してくれる圭介には悪いのだが、俺はスマホを取り出すと高速フリックで麗華にレインで送りつける。


『そのチョーカーを着けて来る意味はあるのか? 俺達の関係がバレてしまう可能性があるのだが?』


「あら、御免なさい。 彼氏からレインがきみたいだわ」

「えぇっ!? 見せて見せてっ!!」

「気になるんだけどっ!!」

「い、異性とレインでやり取り……こ、こんな事があっていいのか……っ!?」

「ダメよ。 これは私と彼氏の秘密のやり取りなのだから」


 なんか一人だけ闇落ちしそうな女子がいるのだが気のせいだろうか? 


 そんな事を思っているとみんなに見られないように麗華も高速でスマホをフリックして返信してくる。

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