第29話 犬になりきっているだけの人間
俺が意を決して部屋の中を散歩すると言うと、麗華はまるで犬のように四つん這いになって『わん』と、とても嬉しそうに鳴くでは無いか。
その瞬間俺の中の奥底からゾクゾクゾクと何かが込み上がって来るのを感じた。
あの、クラスでは凛としており、告白してくる異性には日本刀のような切れ味でバッサリと切り捨て氷の女王と呼ばれているあの氷室麗華が今、俺のつけた首輪をつけ、その首輪に繋がったリードは俺が握っている状態で麗華は四つん這いになってまるで犬の様に、俺のペットになったかのように『わん』鳴くのである。
こ、これはマジでやばい……。
俺はこの時冗談抜きで引き返せなくなるというのを確信してしまうのだが、今更『やっぱり止めよう』などという選択肢は既に俺の中から消えていた。
「じゃ、じゃぁ歩くぞ?」
「わんっ!!」
そして俺は麗華の首輪に繋がっているリードを引っ張って、ゆっくりと部屋の中を周るように歩いていく。
すると麗華は嬉しそうに鳴いて返事をすると、四つん這いのまま歩いて俺について行く。
その光景を見て俺は先ほど以上にゾクゾクと感情が込み上がってくるのが分かる。
そんな事を思いながら歩いていると麗華が俺の足に顔を擦り付けてくるではないか。
「いや、歩き難いんだけど?」
「わんっ!」
「……なるほど…………あくまでも麗華は犬で通すという事なのか」
「わんわんっ!」
流石にそれをされると歩きづらいため麗華にそれとなく注意するのだが、麗華からは『わん』と返されるだけである。
これが本物の犬であるのならばむしろ微笑ましく思えただろう。
しかし麗華は犬になりきっているだけの人間であるのだ。
そのため本物の犬とは違い言葉で意思疎通ができるはずであるにも関わらずそれを無視して俺の足に顔を擦り付ける行為をやめない麗華に対して俺は少しだけイラッとしてしまい、意地悪な事を思いついてしまう。
「うんうんそうだね。 麗華は今犬だもんね」
「わんっ!!」
「うわっ!? ちょっ、やめろっ!!」
「はぁはぁはぁはぁはぁっ!!」
その意地悪な事をする為に俺はあえて麗華に対して俺も麗華は犬であるという設定に付き合うことにする。
そして俺はしゃがんで『麗華は今犬だもんね』と言いながら麗華の頭を撫でてあげると、麗華はよほど嬉しかったのか犬のように舌を出して俺の顔を舐めようとしてくるので俺はそれを必死に抵抗して食い止める。
「よ、ようやく落ち着いたか……全く。 まぁでも、そこまで犬になりきっているということなのだろうな」
「わんっ!」
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