第22話 氷の女王

「はい何でしょうか?」

「今日の放課後なんだが、氷室は時間ないか──」

「ありません」

「え? いや、あの……ほんの少しぐらいは時間──」

「それは先生から私に用事を伝えるように言われたからなど、学業に関係する事でしょうか?」

「い、いや……そう言うわけでは無いが……」

「でしたら私に関係ないですよね?」


 先輩はこの感じから見るに麗華に放課後告白したいのであろう事が第三者である俺ですら分かるぐらいである。


 しかし麗華はその先輩が本題には入る前に即座に断るではないか。


 そしてこの状況を俺たちは固唾を飲んで見守っていると言う状況であり、クラスは水を打ったように静まり返っている。


「か、関係ないって……確かに学業に関しては関係ないが俺と麗華としては関係あるだ………ろ……っ」


 この、静まり返って周りから注目されている状況にも関わらず先輩はめげずに麗華に話しかけるのだが、先輩が麗華の名前を出した瞬間に周囲の空気が一気に一変する。


 その、空気を一変させた人物である麗華は視線だけで人を殺せそうなほど殺気を孕んだ視線を先輩に飛ばしており、先輩は怯んで最後の方は詰まってしまう。


「誰が私の名前を呼び捨てにして良いと言いましたか?」

「…………え? ごめんごめん、次からは気をつけるよ。 そ、そんな事よりもさっきから聞いているけど今日の放課後──」

「はぐらかさないでください。 私はあなたに、私の下の名前を呼び捨てにして良いと許可しましたか? はいかいいえで答えてください」


 何だろう? こっちまでストレス感じるほどガチギレして責めるのやめてもらって良いですか?


 ここ最近麗華と接する機会が増えたせいで忘れかけていたのだが、氷室麗華が氷の女王と裏で呼ばれている女性であるという事を先輩とのやりとりで思い出してくる。


 その二つ名の由来は麗華はその美貌とプロポーションで今回の先輩のようによく教室まで告白絡みの事で麗華に会いにくるのだが、その度に麗華はツンドラの如く冷たい態度であしらう姿からつけられた二つ名である事を。


「い、いいえ……」


 そして先輩は既に涙目であり、この場は告白する約束すらさせて貰えない哀れな男の公開処刑となってしまっている。


「ですよね? 私、勝手に名前を呼び捨てにしてくる男性は心の底から嫌いなので。 なのでその放課後の約束とやらがもし私に告白をするなどというくだらない理由であるのならば私は確実に先輩の事をお断りさせていただくと言うのを初めに伝えておきます」


 あれ? 俺、麗華に対して何の許可も取らずに『麗華』と呼び捨てで呼び始めた気がするのだが気のせいだろうか? うん、きっと気のせいだろう。

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