第17話 トイレの中であろうとも





「ねぇ、私たち付き合っている事をそろそろクラスのみんなに公表してもいいかしら?」


 麗華と付き合い始めて一週間が経過した放課後。


 今現在俺達はみんなの目を盗んで校舎裏まで来ていた。


「一体どうしてまた。 急だな」


 そして俺は地面にシートを広げてそこにあぐらをかいて座ると、麗華がそうするのが当然のようにあぐらをかいた膝の上に座り、体重を俺に預けてくる。


 初めこそは止めるように指摘したのだが一向に止めるつもりがないので俺の方が折れた結果、そうするのが今では当たり前になっていた。


 折れたというか『これがただのクラスメイト同士ならばわかりますが、恋人同士の私たちの関係性では何が悪いのかわかりませんね。 むしろ恋人同士だからこそできるのでは?』という反論をされ、言い返せる文言を思いつくことができなかった為折れるしかなかったという流れである。


 要は、言い負かされた結果折れるのかこちらが大人の対応をして折れてあげるのか、この二つの選択肢で俺は後者を選んだのである。


 しかし、何で女の子はこんなにいい匂いがするのだろうか。


 集中していないとくらっと行ってしまいそうになる、とても危ない香りでもある。


「急ではないわ。 ずっと考えていたんだもの」

「そうなのか」

「えぇ。 何なら付き合う前から思っていたわね。 なんせ毎日のように告白されて、その告白をお断りするのも大変なのよ? でも彼氏がいるとなったら告白自体減るでしょうし、断るのも『彼氏がいるから』で済むんですもの。 物凄くコスパが良いと思わないかしら?」

「なるほど……モテるのも大変なんだな。 しかしながらそれによって俺に面倒事が増えないか?」

「その場合は常に私と祐也様がニコイチで移動すれば良いのよ。 そう、例えトイレの中であろうとも」

「いや、流石にトイレの中はやめてくれ」


 しかしながら麗華の言い分も分かるので、彼女の事を思えば俺たち二人が付き合っている事を隠しているのを止めるべきで、それに付き合っているのを隠すというのは彼女である麗華に失礼なのではなかろうか……。


 いやまて、そもそも俺は半ば強引に恋仲にさせられたのだからせめて俺の要望くらいは応えてもらわなければ不平等ではないか。


 危ねぇ、危うく俺の中の正義の心が突き動かされたせいで流されかけたぜ。


「とりあえずいきなり私たちの関係をバラすというのもきついだろうから徐々に慣らしていこうかしら。 手始めにこれを手に持って下校することから始めましょう」


 そして、俺が危うく流されかけていたその時、麗華はカバンから赤くて丈夫なロープを取り出すと俺に渡してくるではないか。

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