第15話 俺って奴は……

「ばかっ! 誰が触るかよっ!!」


 そして俺はこの時思わずそ売り言葉に買い言葉的なノリというか、ちっぽけなプライドが邪魔をして触らないと言ってしまた事をかなり後悔した。


 触りたくないなんて嘘である。


 正直言って触りまくりたい。


 腕に伝わってくる柔らかさを、この手のひらで存分に堪能したい。


 ほんの少しだけ素直になれば触れたはずなのに……俺って奴は……。


「あら、泣いているのかしら?」

「泣いてない。 これは雨だ」

「ふーん。 まぁ、そういう事にしといてあげるわ」


 そう、誰が何と言おうと俺は泣いてなどいない。


 それに、腕でこの柔らかさを堪能できているだけで最高じゃぁないか。


 人間『こんなもので良いや』という妥協できるラインがあったとしても、いざそれが手に入った瞬間物足りなくなってしまう生き物なのだろう。


 だからこそ自分の欲望をちっぽけなプライドで退けたのは人として大きいと思う(そう思わなければ耐えられそうにない)。 


「泣くほど触りたいのならば触れば良いのに。 でも、これって一応は効いているって事よね?」


 そして麗華が俺に聞こえない程どの声で何かを呟いていたのだが、訊かれたくないからこそ俺に聞こえない程どの声でつぶやくわけで、聞こえて良い内容であれば俺に聞こえるように話すだろう。


 なので俺はここで「え? 何だって?」などと言って聞くことはしない。


 それをする事は普通にデリカシーが無いと思うからな。 俺は気が利く男なのだ。 


 そんな事を考えながら麗華と一緒にバス停まで歩いて行くと、麗華は抱きついている俺の腕を離すではないか。


「残念だけれどもここまでね」

「……え?」

「付き合っている事はみんなに伝えるとは言ったのだけれども、あれは嘘よ。 私は愛するご主人様は嫌がる事はあまりしたくないと思っているわ」


 そして麗華と共に俺の腕にあった幸せが離れていく。


 そう、これが本来俺と麗華の正しい位置であり、俺たちの関係は本来であれば有り得ない関係なのである。


 そして俺と麗華はバスの席は少し離れて過ごし、氷室麗華が俺の彼女になったのは、実は夢なんじゃなかろうか? と思ってしまうくらいにはいつも通りの学園生活が過ぎ去っていく。


 そして放課後、幼馴染で親友でもある東城圭介と一緒に帰ろうとしたその時、俺のスマホからレインの通知がきた通知音が鳴るので手にして画面を開く。


 するとそこには『今日一日ご主人様に抱擁されていたみたいでずっとドキドキしっぱなしだったわ』という言葉と共に一枚の画像が送られていた。


 その画像の麗華は女子トイレの中でスカートをたくし上げ、今日麗華が履いていたであろうパンツが丸出しになっている画像であり、俺のボクサーパンツを履いている麗華の姿が写っているではないか。

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