第7話  族長

「入れ」


目の前に広がる、木にポッカリと空いた門から、深く重みのある声が聞こえた。

僕らはそこに吸い込まれるようにして入っていった。


少し狭いような道を歩いていくと、まるでヨーロッパの謁見の間のような広く豪華な装飾のされた部屋が現れた。

けれど金や宝石などでギラギラしているわけでもなく、どこか質素な雰囲気が漂っていた。

何か会議でも開いていたのだろうか。

僕がここにいるのは何か場違いな気がする。

その部屋の隅には武具をまとった者やきっちりとした服を着た者、年老いた者まで、十数人ほどの獣族が並んでいた。

全員、なんというか、貫禄がある。


「よく来た。我が名前はアトラスという。貴殿の名は?」


そして彼らの中央。

僕に今、質問をした人物はそこにいた。

獣族の族長、アトラス。

その外見は大抵の者が見たら背筋に寒気がするだろう。

強気なヤクザの親分みたいな顔をしている。

と言うかここにいる全員、僕は今来たのにものすごく落ち着いているというか、対応がはやすぎないか?

まるで僕がここにくることを知っていたような、、、。


「僕の名はヘルメと申します。訳あって本日よりアリア様の魔術の先生となりました。」


なんかアリアはえらい立ち位置にいるそうだから一応”様”をつけとこう。


「ザワザワ、、、」


何かいけなかったか、並んでいた獣族がにぎやかになった。


「若すぎないか、、、。」

「実力はあるのか、、、。」


何やらみなさんアリアのことが大事なのだろうか、ゴニョゴニョ話している。

話すべきは僕の実力よりも、なぜアリアの先生として現れたのかだと思うが、、、。


「コンッ」


族長、、、アトラスが裁判みたいに木槌を叩いた。


「静かに。彼と、お前らが気になっていることについて話がしたい。すまぬが全員席を外してくれぬか。」


すると、獣族の重臣と思われる者たちがゾロゾロと僕を横目に去っていった。

もちろんアリアも外に出ていった。



僕とヤクザ、、、じゃなくてアトラスは二人きりになった。


「単刀直入に言おう。」


アトラスが口を開いた。


「実は、我々は貴殿がくることを知っていた。あぁ、アリアは知らなかったがな。」


僕がくることを知っていた?

何かそういう道具でもあるのだろうか。

けれどそんな気はしていた。

でなければ僕はあんな議場には呼ばれない。


「つまり、先ほどのどよめきはそれが原因だったのですね。」


「あれは失礼だった。我が代わりに詫びよう。」


僕の到来を知っていたから、予想とは違う人物が来て驚いたのだろう。

すると、アトラスは自席の後ろにあった棚からビー玉をそのまま大きくしたような球を取り出した。

産業区で売っていた魔力石の大きいバージョンだろうか。


「これは魔力石の一種で、特殊付与効果があるものだ。」


そういえば魔力石を具体的にどう使うのかは聞いてなかったな。

”付与効果”か。


「魔力石には物によって様々な効果がつく。で、こいつの付与効果というのが”守護者の予見”なんだ。」

「守護者の予見?」

「実は我が国には過去にこいつの能力を使って大きな災害を逃れたことがあってな。その時起きた災害というのが、雨季による大規模な洪水なんだ。」


話によると、ここらへん一帯は雨季になるとたくさんの雨が降るという。

その災害が起きる前では、川が氾濫しても大きな影響はなかったのだが災害後、巨大樹の半分ほどまでが浸かってしまうような洪水が起きるようになったのだとか。


「その後我のおじい様、クロノス様がこの魔法石を見つけ出し、一人の”守護者”のことがわかったんだ。」


”守護者”、、、?

「じゃあ、その方のおかげでこんなに賑やかなんですね。」

「あぁ、そうだな。そして今の樹上に栄える我らが国があるわけだ。」


守護者を見極める魔法石が僕のことを選んでいた。


「なるほど。では僕は”守護者”なのでしょうか?」

「あぁ、そうだ。我らは君に何もしていない。けれど我らを災害から守るために尽力してくださらぬか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る