第6話 街並

木製人力のくせに妙に信頼できるエレベーターを使い樹の上へと登る。

エレベーターに設置された窓からはどんどん地上が遠のいていくのがわかった。


「カンッ!」


”チーン”と言う音ではなく”カンッ”だったけどまぁいい。


「着きましたよ〜!」


揺れるエレベーターから足を踏み出すとコツ、と言う音がし、その音が樹上にいることを僕に教えてくれた。


巨大樹の上は、下から見るよりも壮大で、豪勢な街並みが広がっていた。

夜が近づくのにつれて活気がどんどん増していくのがわかる。


「ここは産業区です。世界中から集まったたくさんの商人がここで店を構えていて、珍しいものも沢山あるんですよ〜。」

「なぁ、アリア。早速だが、、、あれはなんだ?」


周りの出店よりも構えがかなりしっかりとしている出店にテニスボールくらいの球があった。

なんと言ってもこの球、見る角度によってさまざまな色に光り輝くのだ。

木造の文明において、ガラス加工ができたとしても綺麗すぎる。


「あ、あれですか?あれはですね、魔力石と言いますよ、、、。ってか、知らないんですか!?」

「あぁ、今までちょっと変な所にいたからな。」

「それってどんな所ですか!でも、今度行ってみたいですね。」

「それは、、お勧めしないよ」


アリアいわく、魔力石というのは魔力を高密度に圧縮したものらしい。

普段はほとんど使わないらしく、使うのは専用の魔法を使う時だけだとという。

ただ、一つの家に必ず一つあるようで持っていない方がおかしいんだとか。


「ここは居住区です。族長の家は中心区にあって、区は残り二つです。」


獣族の住むこの町は四つに区分けされているらしい。

一つは、世界の商人が集まり自由に商売をする「産業区」。

ここでは売ったり買ったりする商店だけでなく、そこで売ったり、別のところに持っていくために加工する、工場がある。

もう一つは、獣族がおもに住んでいる「居住区」。

産業区に比べて一気に獣人密度が上がる。

アリアは狐っぽい獣人の一族だが一方でそこら辺を歩いているのは猫のような耳、眼をしていたりしていて獣族の中にもたくさんの種族がいるらしい。

どのくらいの種類が、、、とキョロキョロしていると、一人の獣族の中年女性が走ってきた。


「アリア様!随分遅くなったから、、、魔物に襲われちゃったのかもってみんな心配してたのよぉ〜!」


近所のおばちゃん的立ち位置の人だろうか。

と言うか”様”って言わなかった?

ってあれ、なんかまた走ってくる、、、。


「大丈夫だった?怪我はない?」


増えたぞ。


「うん!まぁ本当は川の奥まで行ってしまって、四メートルのボアーにーーー」

「四メートルですって!?」

「川の奥まで!?」

「それでこんな時間まで!?」


いちいち反応が大きいな。


「うん、、まぁそれでその時にこの方が助けてくれました。」


音速を軽く超えるかのようなスピードでたくさんの目が僕を眼中に入れた。


「あなた、が?」

「はい。」

「名前はなんとおっしゃって?」

「ヘルメ、と言います。」

「ヘルメさん、何で戦いますの?」

「魔術です。」

「魔術!?」

「魔術でボアーを?そんなまさか。」

「嘘おっしゃい。たかが魔術で四メートルものボアーなど倒せるわけありません。」

「というかあなた入国許可証を持ってないんじゃありませんの?」

「まぁ!」


この世界では魔術は弱い存在であるらしい。

そういえば商人たちの横にいた用心棒っぽい人たちのなかに、魔術師っぽいのはいなかった気がする。

ん?アリアが、、、僕とおばさんたちとの間に入ってきた。


「おばさまがた、失礼します!彼は一応私の師匠です!まだ教わったりしてないけど、、、。でも、彼の魔術が人並み以上であることは族長の娘である、私が証明します!」


魔術を作ったのは自分でもあるから、褒められて喜んでいいのかわからない。

と言うか、爆弾ワードが潜んでいた気がする。

そう、『族長の娘』。

初耳だぞ、オラ。


「彼は今から私と共に父上にお会いになるのです!失礼な言動は慎んでください。」


そうしていつの間にか野次馬も含め大集団となっていた者がゾロゾロと帰っていく。


「さ、進まないと。族長も寝てしまいますから」



そうして残り二つの区、「行政区」と「栽培区」を抜けた。

行政区では文字の通り、政治に関する会議場とかがあるらしい。

他にも中枢機関が集まっているそう。

今の時間帯は閑散としていた。

栽培区ではこれも文字の通り、食材などを栽培していた。

野菜や家畜は前世界と似ているようなものが栽培されていたが、そっくりそのまま同じものはなかった。

なんかピーマンに似ていると思ったらトマトと合体してるし、、、みたいな感じだ。


街を見物しながら歩いているとすっかり日は暮れてしまった。

しかし思っていたよりも獣族の文明は進んでいるようだった。

まだ産業区の方なんかは全然にぎやか、というかさらに盛り上がっているような気がする。


「師匠!着きましたよ。」


前を見ると巨大樹の幹にあいた大きな穴があった。

そして、アリアが大きく息を吸い口を開けた。


「父、、族長!お会いしていただきたい人を連れて参りました!謁見お願いします!!!」


数コンマの空白が流れた後、その声は響いた。


「入れ。」


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