第4話 決断

『一族の若者が魔術を使って人を殺した』


この知らせは一族の間だけでなく、一族の暮らしていた国、全土に広まった。

いつか出てくると思っていた。

便利なものは使い方さえ合っていればとっても便利である。

しかし、便利なものは一歩でも使い方を間違えると、大惨事がおこることだってある。

便利な幸せは、不幸と紙一重なのだ。



彼女は一族の族長として、正しい行動をとっていった。

犯人である若者への厳重な処罰。

魔術の教育の見直し。

遺族への謝罪と生涯遊んで暮らせるだけのお金。

族長としてたくさんの処罰。

悪い噂が広まらないよう、弁明したり。

また、彼女は親族の家が”もう大丈夫です”という中、その家への支援はやめず、精一杯事件の解決に努めた。


しかし人間の口は新聞なんかより遥かに早く、そして最悪の誤変換機能を持った拡声器だった。



一族の中で最も遠いところに住んでいる一家が逃げ帰って来たのは、魔術による殺人事件が起こってしまった日から一ヶ月程であった。

彼らはいっせいに、同じことを言った。


「どういうことなんだ!この国を滅ぼすつもりだというのは!?」


「攻め入る?そんなつもりはありませんよ。それとも誰かが言っていたのですか?」


「あぁ。俺らが住んでいたところの領主がクーデターを恐れて討伐軍を招集していたぞ!」


「そんな、、、。」


人間の口が持つ、最悪の誤変換機能が最悪の方向へと作動した瞬間だった。


”魔女狩り”というのをご存知だろうか。

中世ヨーロッパに流行った処刑ブームのことだ。

今では魔術なんて関係ない者たちが

キリスト教の教えの上で邪魔になることをしていたとかで、たくさん処刑された、とか言われているが少し違う。

彼女らは、魔術を使っていた。

決して悪いことはしていなかったと思う。

むしろ、雨が降らず凶作と思われていた年には魔術で雨を降らせ、ききんを逃れたこともあったし、いいことしかしていなかったはずだ。

けれど人間というものは自分以上の力を持つものを恐れ、それを排除しようとする。



一族の抵抗も虚しく一人、一人とその姿を消していった。

こうして彼女の一族は討伐軍によってだけでなく告げ口などの密告によって一人残らず殺されてしまった。



僕はあれ以来魔術を人に教えたりすることがなくなった。

また同じことが起こってしまったらどうしようと考え、教えようとも思わなくなった。

神様のくせにくじけるのか、と思うかもしれないが、僕の中で何か大きなものを失った気がして教えるということ恐れがあった。


<現在(異世界)>

僕はこの子に教える資格はあるのだろうか。

これで教えたら、どうせまた同じような結果が待っているのではないだろうか。


”みんなに教えるのよ。”


ふと昔、彼女が言っていたことを思い出した。


”魔術は人を幸せにできる。戦争だってなくせる。”


国の組織した討伐軍から追われているというのにわざわざ会いに来てくれた時、話してくれたことだった。

なぜ忘れていたのだろうか。

なぜ今思い出したのだろうか。


僕にはこの世界にきたからこそやらなくてはいけないことがあるのではないだろうか。

神という身分でなくてもしなくてはならない使命というものがあるのではないだろうか。


「わかりました。僕でよければあなたに魔術を教えます。」


僕はこの世界で前世界のような後悔はしない。


「あなたを最高の魔術師にして見せます!」


僕はこの世界で魔術を使って人を幸せにしてみせる。

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