第16話

 どうしてこうなった?

 ただゲームするだけなのに、負けたら1グイなんて聞いてない!!



 遡ること数時間前


「クレーンゲーム対決、勝者は…キルチーム!」


「だーーー。また、負けた」


 その場で呻き声を上げるノックと、フィギュアを選別するリーダー。


「ボムの取ったのが1番多いわね〜。あ、コレ持ってるから売ろ」


「これ貰っても良いですか?」


「良いわよ。折角なら、欲しいのあるなら貰って!」


「良いんですか!」


「やったー。フィアさんあざっす」


 陸さんは欲しいのが有ったのか、五体のフィギュアを選び、嬉しそうにニコニコしてる。


「…」


 いいなぁ。ああやって気持ちを表情で表せられて。


「キルどうしたの?」


「いえ、なんでもないです。それより、ゲームしませんか?」


 私は茜さんから渡されたカセットをリーダーに見せる。


「良いわね!!やりましょ!」


 そうなると、この後の行動は早いの早いの。


 ノックは自室からコントローラなどのゲーム機を、ボムさんとリーダーは環境作り、私は今日は料理する気力が無いので出前を取った。もちろん、私の奢りで。


「キル〜。ついでにお酒も〜」


 そうねだるリーダーに自分のスマホを渡し。


「好きなの選んでください」


「はーい」


 まだお酒に詳しく無いのでそこはリーダーに任せる。


「なあなあ、兄貴達居るけど今日配信どうすんだよ。無しにするか?」


「あっ、そうか。では俺達邪魔ですよね。帰りますね」


 ノックの言った一言が彼らに対しては「帰れ」と聞こえてしまったらしい。


 本当、空気が読めないっていうか、一言多いっていうか…。


 皆さん帰るムーブ出してますけど、ウチのリーダーが逃すわけないですよ。


「え?帰らなくて良いわよ。貴方達さえ良ければ一緒に配信に出てみない?」


 リーダーの目はマジだった。


「別に無理にとは言わない。明日仕事があるのなら…」


「良いんっすか!出ても!」


「楽しそー。俺もやりたーい」


 乗り気の彼らだからノックのお兄さんはひと溜息を付き、「仕方ない」と言い一緒にに配信&ゲームをすることにした。


「タイトルは、スペシャルゲスト!その正体とは?っね。早速、始めるわよー!」


「じぁ、配信機具も出そうか。キル、ノック手伝ってくれるかい?」


「はーい/うん」


 ノックの部屋からマイク、パソコン、配線、その他の機具を取り出し、リビングにセットする。


「あ、あーー。聞こえる?」


「バッチリ」


 あー、疲れる。結構重いのよね〜。色々と。


「いつの間に、こんなもの買ってたんだ…。しかも、全部いいものばかり」


 ノックの部屋を普段から見ないのか、機械をなどを見て体を震わせるお兄さん。


「コレは全部俺がちまちま貯めた金で買った大切な道具さ。コレがなきゃ、俺は稼げねーって」


 ニンマリと笑い、すごいだろと顔に書かれている。


 うん。調子に乗ってんな。


「はいはい。そんなことより枠取って。ノックのチャンネルだから、それは自分でして」


「りょ。何時?」


 時計を見ると時刻は18時。いつもより早い時間になってしまう。


 ご飯届くまでの時間もあるし、時間的にリスナーのみんなが見れる時間は…。


「19時にして」


「んー」


 この時間なら比較的見れるし、多分だけど今回の配信は長くなりそうだから。


「ご飯来たわよ〜。あとお酒も!」


 ウキウキと嬉しそうにお酒が入ってる袋を持つリーダーと、注文した料理を持ってる淳さん。


 わ〜アイドルを扱き使うリーダー流石ですね。心にも無いことが頭の中で、棒読みで出てくる。


「リーダーもしかしてですが、もう、開けました?」


「まだだけど?」


「淳さんすみませんが、リーダーからお酒を奪ってください」


 焦り気味でリーダーから袋を奪おうと動く私。状況が分からない淳さん。なぜ私が焦ってる理由は、リーダーってお酒好き。だから、目の前にある酒はすぐに開けてしまう癖がある。


 だから配信では、ボムさんがお酒管理をしてくれる。


「わぁー。ちょっと、キル危ない!」


「でしたら、早くお酒渡してください」


「ヤダー。開けるあの瞬間の音が気持ちいのよ〜」


 わちゃわちゃ2人でその場でお酒をどうか争ってると、上から手が伸びてきてリーダーからお酒の袋を取ったのだ。


「ダメだよ。怪我したら危ないよ」


 薄っすらと笑みを浮かべ袋を机を置いてくれた。


 コレがいわゆるアイドルスマイル…。


「あ、ありがとうございます。料理も机に置いてください」


 人数分の取り皿と箸を出し、配信が始まるまでお食事タイム。


 食べながら本日の配信内容を説明をみんなにした。


「2人1組でペアになってゲームをします。ペアについては実力差もあるので、バランス良くしたいので…私が勝手に決めました」


 私達は普段一緒にゲームをするのでお互いの得意不得意を知ってるし、実力だって知ってる。


 茜さんは、Rさんの時に見てきたから知ってる。陸さん、淳さんは歳を考えて多分ゲームはやってそうだけど、問題はノックのお兄さん。見た目からゲームとは無縁に見えるし、それに性格上、自分からゲームをしなそう。


 このことを踏まえて、ペアはこうだ。


・第一ペア[ボム&淳さん]

・第二ペア[リーダー&陸さん]

・第三ペア[ノック&茜さん]

・第四ペア[キル&お兄さん]


 コレで平等になったはず。


「バランスを考えて作りました。異論は認めません」


 コレで文句を言うのヤツはお前が考えろや!って言いたいけど、心の中で言っておこう。


「キルが決めたならそれで良いわよー。さてさて、そろそろ時間だから始めるよ〜」


「んじゃ、配信スタート」


 パソコンの画面からみんなのコメントがすごいスピードで流れていく。「ゲストって誰?」「今日のゲームはなんだろー」とか、各々思ってくれていることを書いてくれてる。


フィア:あっあー。みんな聞こえるー?


<聞こえるよ〜

<フィアさんの声だ

<ゲストってなに?

<もしかしてコラボ!?


フィア:みんな元気がいいね〜。ゲスト気になる?

    気になっちゃうよね〜。でもその前に、挨

     拶するわね


 私達はマイクの近くに行き順に挨拶をする。


フィア:はーい。みんな元気?フィアだよ〜。今日

    は呑むわよー!!

ボム:リスナーのみんなこんばんは。ボムでーす。

   フィア呑みすぎないでね

ノック:オイ〜ッス。ノックだ。今日こそはキルに

    勝つ!

キル:おはよう、こんにちは、こんばんは。キルで

   す


 誰も居ないのにマイクに向かって手を振ったり、立ち上がったりして自由な感じだ。


<イェーイ!!

<始まった!!!!!!!!!!!!!!

<ノックがんば

<オレも呑むぞーーー!

<今日もクールだ…


 コメント欄も盛り上がってる。


フィア:ではでは、みんなが気になってるゲストを

    紹介しようかな!


<きたきた!

<誰だろう?

<他の配信とコラボかな?

<だれだだれだ〜


フィア:フ、フ、フー。聞いて驚かないでねー。そ

    れでは皆さん、自己紹介お願いします


 それと同時に合わせでもしたのかって言うくらい自然で、スラスラと自己紹介をしてくれた。


茜:皆さんこんにちは。燐道茜です

陸:ヤッホー!笹嶋陸だよ

淳:どうも浅野淳です。よろしく


<マジかよ!

<えっ!本物ですか?!

<なぜ、俳優とモデル、アイドルが…


 ウッハーー。コメントはっや。ヤバイ感じにリスナーのみんなに刺さってる。


フィア:えっとーもう1人いるんだけど、ノックの

    身内だから名前は伏せるね〜。取り敢えず

    挨拶はお願いします

兄:え〜。いつも弟がお世話になってあります。兄

  です


 丁寧に挨拶と、自身の名は言わず「兄」とだけ言う。だって、1人でも身バレしたら私達までバレる可能性があるからね。


 ノックの兄だけ聞くと、コメント欄は荒れに荒れる。


<えっ、声からしてイケメン

<兄弟でもこんなに違うとは。フム

<兄参戦!


 うん、コメント欄はやーい。

 途中で読むのは諦めた。


フィア:では、挨拶も終わったことですし早速ゲー

    ムしますか

ノック:りょーかい。ほい、コントローラ


 ペアがわかりやすいように、隣同士で座ってすることに。わたしの隣にはノックのお兄さんが来てくれたけど、よく見るとノックにそっくり。怖い顔してるから全然分からんかった。


「よろしくお願いします」


「はい、こちらこそ」


「キルさんはゲームが上手なんですよね」


「はいそうですけど」


「茜からよく聞いてます。それと、ありがとう」


「は?」


 なぜか分からないが、今私お礼言われることしたかしら?


「茜がここまで来れたのは君のおかげだから、お礼が言いたかったんだ」


「そ、そうですか。こちらこそありがとうございます」


 私のおかげで?よく分かんないな。私はただ思ったことを言っただけ、そうすれば良いと思ってやっただけなのに…なぜ?


 ここでは、愛想笑いしとこ。


フィア:そうそう言い忘れてたけど、1ゲーム負け

    るたび、相方が1グイね

キル:り、リーダー!その、お酒って勿論弱いので

   すよね

フィア:そんなわけないじゃん〜


 ドンっと机に勢いよく乗せられたのは一升瓶3本だった。


ノック:マジか

陸:しかも全部種類違うヤツだ

茜:コレ、飲んだことないヤツだ

ボム:フィア。コレどこから…


 ウキウキとグラスを取り出し、早速味見をしてるリーダー。


フィア:さっき買った!


 もっ!もしや!


 私は急いでスマホの注文履歴を見た。リーダーに好きにお酒選んで良いって言わなきゃよかった。


 値段を見てビックリ。こんなことをするとは思ってもないじゃんかー。


キル:仕方ないですよボムさん。買ったものは

   リーダーどうして1グイなんて…

フィア:それは…


 拳を作り立ち上がる。


フィア:キルが酔ってるとこが見たいの!

キル:理由は?

フィア:この前の飲み配信。キル全然酔ってなかっ

    たから、じゃあ、強いの飲めば良いのでは

    と思って!

    負けたら1グイをしてキルを酔わせるの

    よ!


 その場が一瞬として静かになり、コメント欄は「W」でいっぱいだ。


キル:…まぁ、良いですけど。お兄さん頑張ってく

   ださい

兄:オレですか?!

キル:だって、相方が負けたら1グイですので、だ

   から、頑張ってください

兄:わかった


 まぁ、お兄さんも初心者と言ってもそこまで下手ではないでしょ。

 3回もしたら慣れるって。


 そう思っていた自分を恨みたい!


 現在


 まさか、ここまで酷いとは思ってなかった。


 お兄さんが負けて私どんだけ呑んだ?


 画面が揺らぐ。手元に上手く力が入んない。訳わかんない。


 負けちゃう。でも、負けられない!だって私は“キル”チーム最強のプレイヤーなんだから。


ノック:おいおいキル、操作おぼつかないぞ〜

キル:…のっく、うるしゃい

ノック:大丈夫かよ。このままじゃ負けるぞ

キル:わたしは、負けにゃいもん!

ノック:え、ちょ、ちょキルスット…

キル:またにゃい

ノック:ぎゃーーーー


 コレで何勝?ノックの声が頭に響いてうるさい。


 あぁ、またお兄さん負けた。本当に弱すぎる。


フィア:はいキル。かんぱーい

キル:か、かんぱーい


 ヤバイ、きつい。


ボム:キル、そろそろ止めた方が…

キル:やら、まらやるの!

陸:コレ完全に酔ってますね


 頭がふわふわする。それにボーっとしてきた。


茜:大丈夫、水飲める?


 差し出される水。今の私にはなぜ出されたのかは分からなかった。


キル:あ〜。Rさんだー

茜:えっ、あの、キルさん!


 こんなに近くにいる。もっともっとRさんと遊びたい。



 

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