第15話

 帰りたい…。初めましての人と一緒に遊ぶなんて無理。怖い、何されるか分かんない、逃げたい。


「…」


 フード被って顔は隠してるけど、今すぐに逃げて帰りたい!


「あー!今取れそうだった!クッソ!」


 大きな声にピクリと身体が反応する。


 わ〜、さすが兄弟。口の悪さはそっりく。


 時計を見てるとそろそろ1時間になりそうだった。


「もうすぐ時間なので、あと一回で…。ボムさんにも伝えて来ます」


 時間のことを伝えて、早足でボムさんのもとえ向かう。


「ボムさんそろそろ時間ですよ」


「あー、うん。先行ってて、これだけ取らして」


「うん」


 ボムさんの周りに置かれているフィギュアを両手で持ち、お兄さんと淳さんを連れて集合場所に向かう。


「よぉ〜。遅かったな」


「あれ?ボムはどこ?」


「ボムさんは後から来ます。欲しいモノがあるらしいので」


 私達が集まると、人数が多くて注目してるのか他のお客さんのヒソヒソと声が聞こえる。


「リーダー。ここから出ましょう」


「…そうね。じぁ、ノックんちに行きましょう!」


「え!俺ちですか!」


「だってお兄さんもいるし、前行ったとき広かったから…ダメかしら?」


 リーダーは首を傾けて、困り眉をする。


 おぉ。漫画とかでよく見る仕草だ〜。リーダーまた、何かに影響されたな。


「俺は良いですけど、兄貴もいいよな」


「はぁ、別に構いません」


 少し嫌そうな顔をしたお兄さんだが、心良く了承してくれた。


「そうと決まれば、早速荷物を車に乗せないと」


「ボムさんには連絡しといたので、先に行きましょう」


 手慣れた様に荷物を持ち、駐車場に向かう。

 Rさん達は他の車があるらしいので、ノックんちに着くまで別行動となった。



 玄関からふわっとお花の良い匂いがした。


 綺麗に掃除されている部屋、どこにも無駄がなく置かれている本や置物、相変わらず落ち着かない家だ。


 綺麗なのはいいけど、何だろか、変に落ち着かない。特にリビングが。


 ノックの部屋に入った時は別に何とも思わなかったけど、何でだろうか?


「飲み物お茶でいいよね〜。入れとくよ〜」


「人数分コップありましたっけ?確か棚の下にもコップ有った気がするけど……あった」


 勝手に冷蔵庫を開け、勝手に飲み物を注ぐ。


「はーい。お待たせ〜」


「お菓子は景品のでいっか、ノックお皿持って来たから盛って」


「へいへい」


 どこに何があるのかは把握済み。片付ける時も、綺麗に元の位置に戻してる。


「はいどうぞ」


 リーダーがノックのお兄さんの前にお茶を置いた。


「これはご丁寧に…じぁない!どうして家の物がどこにあるか知ってるんです!」


 正確なツッコミが入った。まぁ、確かに自分の家の物がどこにあるか知られてたら誰しも驚くよねー。


「説明不足ですまないね。実は、何年か前から家には何度かお邪魔させてもらってるんです」


 ここは大人な対応をとるボムさん。


「勝手にすみません」


 深々とまではいかないが、頭を下げる。


 流石元サラリーマン。どうすれば相手が不快にならずに謝れるか、これは彼にしか出来ない技だ。


「いえ。咎めたりはしません。ただ、驚いただけなので…」


「そうですか。それは良かった!」


 ボムさんは嬉しそうに笑顔を見せる。


 周りにお花が飛ぶ様に見えるのは私だけだろうか?


「では、クレーンゲーム対決の結果を発表しまーす」


 よいしょよいしょと景品を運んでくるリーダー。私は興味が無いので、手頃なゲームがないかテレビ回りの棚を調べていた。


「数えまーす。1、2、3…」


 これは時間かかるな。さてと、何のゲームしようかな。みんなで遊べて、対戦か協力か…。ん〜、悩む。


「キルさん、キルさん」


「…どうしました。えっと…燐道さん」


 ゲームを探している私に声をかけたのは、Rさんもと言い、燐道茜さんが話しかけて来た。


「茜って呼んで。俺もキルさんって呼ぶから。後、今後敬語は無しで」


 ずいっと顔を近付けてきて手を握り、笑顔で優しい声でそう言ってきた。


「は、はい…」


 別に私はRさんと遊べるなら…。今いるのはRさんじゃない、燐道茜さん。そう、今は…ね。


 そうKである自分自身に言い聞かせる。


「そう言えば何探してるの?」


「みんなで遊べるゲーム。せっかくなら協力するのが良いのかなって…」


 カセットを手に持ち簡単で、誰にでも出来て、楽しいものがいい。


「なら、コレとかどう?」


 棚から1つのカセットを取り出し見せてくれた。


「マリパ…」


 マリオパーティー。略してマリパ。


 様々なミニゲームとスゴロクゲームが入っているゲームだ。


 でも、人数は4人まで。8人のうち4人しか遊べない。


「確かに良いけど、残りの人は?」


「2人1組でチームで、交互にすれば出来るはず」


「良いかもしれませんね。なるほど、交互にする…私には考えられないやり方です」


 新しい発見が嬉しかったのかフフっと口から笑みが溢れる。


「…笑った」


「ご、ごめんなさい。新しいやり方が見つかって嬉しくてつい…」


 手で口を隠し、下を向く。


「何で下、向くの?」


「……昔からの…癖みたいなモノです。気にしないでください」


「そうなんだ。なら、仕方ないね」


 私は茜さんから離れてみんなのところへ向かった。逃げる様に。


 どうしてかって、少し怖くなったから。


「結果どっちが勝ちました?」


 茜さんに背を向けて。リーダーに話しかけた。

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