第12話

 何でこうなったんだろう。今日は会って楽しく遊ぶはずだったのに

 さっちゃんが弟くんと喧嘩してそこでKさんが入って、そこからKさんの様子がおかしくなった。震えて、後ろか隠れて顔を見せてくれなかった。


 手を差し伸べたらさっちゃんの弟くんに止められた。


「…あの、Kさんはどこに…」


「姐さんと一緒だよ」


 素気なく返事を帰される。声からは怒り不安が滲み出てた。


「何暗い雰囲気になってるのよ!注文聞くから、言って言って」


 静かな空間に入って来たお店の店主らしき人が注文を聞きに来てくれた。


「俺らはいつものでいい」


「はいはい。そこのお兄さん方は?」


 そう言われたのでメニュー表を読んでみた。書いてあるのはイラスト付きのメニューの数々。


「さっちゃん達はどれがいい?」


 そう聞いても、何で良いとか言われたので。


「ここ4人コーヒーでお願いします」


「はーい。少々お待ち下さ〜い」


 変わったら人だ。俺の仕事でもああ言うオカマキャラみたいなのは見てきたけどリアルでもいるんだ。


「お待たせ。私どこに座れば良い?」


「姐さん、こっちどうぞ」


「ありがとう。ノック」


「キルの様子はどうだい?」


「だいぶ落ち着いてる」


 この人達は一体誰だろうか?Kさんのことを“キル”って呼んでる。


 そして、俺はその呼び名を最近耳にしていた。


 あの時のスタイリストさんが教えてくれた配信者と同じ名前の人、喋り方…。


 俺は一度人の癖が分かればその人のことはすぐに覚える。


「…あの、もしかしてチーム“ENEMY”ですか」


 そう言ったら、一気に空気が変わった。


「何でそう思うの?」


「貴方達の喋り方、呼び方で分かります。特徴的な名前の方が多いので」


「ん〜〜。やっぱり、外は本名の方がいいかしら」


「構わないけど…会う機会が少ないし、基本家から出ないからいつも、ディスコードで話してるから意味ないと思うよ」


 眉間にシワを寄せて頭を抱える女性。


 余計なことを言ってしまったのだろうか。


「……キルのヤツ何してんだ?」


 今まで口数が少なかった弟くんが喋り始めた。


「そっとしといてあげて」


「だとしても遅い。俺見てきます!」


 席から立ち上がり、歩き出そうとしたそのときに。


「はーい。ご注文の品でーす」


 飲み物がやってきた。ひとつひとつ丁寧に前に置かれて、注文してないお菓子が置かれた。


「コレはサービス。それと、お届け物よ。じっとしてたから連れてきたわ」


「………、遅れました」


 フードを深々と被り顔は俯いたままだった。


「では、ごゆっくり」


「……」


 また、静かな空間に戻った。誰も、口を開かない。開こうと思っても開かないのだ。


「…アッツ」


「大丈夫?火傷してない?」


「俺のアイスティー飲んで良いから、口の中冷ま

せ」


「ありがとう」


「キルは相変わらず猫舌だね」


 あそこの空間だけ和んでる。Kさんがいるだけでこんなにもこの人達は表情が出るんだ!


「…人に優しくできるんだな。和樹」


「嫌味かよ」


「家では部屋にこもって、人には情が無いかと思ったよ。それとお嬢さん」


「…」


 お嬢さん、きっとKさんのことを言っているのかな。


「こう言う席くらいフードを取ったらどうなんです。マナーもできないんですか?」


 さっちゃんの言葉には棘があった。彼はマナーには厳しい。そのせえか少しキツイ言い方になってしまう。


「っ!コイツは嫌だからフードを被ってんだよ!」


「何が嫌なんだ?初めて会う人に対して失礼に当たる。マナーがなってない」


「マナーってうるせぇんだよ!キルのこと何にも知らないヤツに知ったように言われたくねぇよ!」


「和樹。お前もマナーがなってない。同じ兄弟なのにこうも違うのか…」


 最後は呆れ、ため息混じりに言葉を吐いた。


「んだと!」


 弟くんが立ち上がり、さっちゃんに対して手を出そうとした。でも、その手は止められた。


「ノック!」


 今まで黙っていたKさんが大きな声を出した。


「良いの、私が何もかも悪いの」


「何言ってるんだよ。お前は人が苦手で…」


「私に気を使ってくれるのはすごく嬉しい。でも、それはみんなに甘えてしまって、何にも成長しない」


 Kさんはゆっくりとフードを取り顔を上げた。


「…!」


 俺は彼女を見て驚いた。


「Kさん、その目…」


 さっきまでの黒い瞳は無い。あるのは、澄んだ空の様な青色の瞳だった。静かで、透き通った視線を送る彼女は、まるで人形の様で綺麗だ。


「…驚かせてしまってごめんなさい。でも、Rさんに私を知って欲しかったんです」


 声は震えて、でも、頑張って声を出して自分の気持ちを伝えてくれた。


「……自己紹介がまだでましたね。私はRさんとゲー友の“K”です。そして、チーム“ENEMY”の“キル”として活動してます。本名は霧谷咲良」


 次と言いたげに弟くんを見る。それを察したのか、面倒くさそうに口を開いた。


「俺は“ノック”。本名、佐藤和樹」


「次は僕かな。名は“ボム”。本名は深井晶、元サラリーマンです」


「私の名前は“フィア”。本名は深井夏紀。ボムとは夫婦よ」


 すごい。動画で聞いた声だ。

 まさかKさんが、キルなんて思ってもいなかった。だって、雰囲気が全然違う。配信や動画のキルは、普段から感じない独特な雰囲気を放っていた。でも、Kさんは何にも感じなかった。「無」に近かった。


「〜〜マジで本物!写真撮って良いですか?!」


 興奮気味のりっくん。でも、彼らは強張った顔になった。


「ごめんだけど、僕達は顔を出さないで活動してるんだ。個人情報とかの流出になりかねないからね」


「隠し撮りをしてたなら消してちょうだい。もし、それをネットで上げたら、私達は活動の方針が変わってしまうからね」


 やんわりと言ってくれるが、目が怖い。

 りっくんは写真を撮っていたのか、携帯画面には何枚か有った。


 ダメだよりっくん!犯罪になっちゃうよ!


「…それもそうだけどよー。お前らの挨拶聞いてねーぞこっちは。なぁ兄貴、マナーがなってないだったけ?」


 だるそうに、けど、相手を馬鹿にしそうな笑い方。少しだけさっちゃんに似ていた。


「はぁ、俺は佐藤裕樹。和樹の兄です。いつも弟がお世話になってるようで、何か有ったら言ってください」


「お兄さん大丈夫ですよ。ノックは元気があって、いつもチームのみんなを楽しませてくれてます。キルによく喧嘩を売ってますが」


「そうですか…えっと…」


 さっちゃんが何か悩んでる?


「誰も居ない時はフィアでいいですよ。外では深井で良いので!」


 笑顔で答えてくれたフィアさん。彼らは色々と使い分けて名前を呼んでいるみたい。


 公共の場は本名で呼ぶ時がある。基本は本名では呼ばないみたいだ。


「じゃあ、俺も自己紹介しますね。名前は燐道茜です。Kさん…キルさんとはゲー友として仲良くさせてもらってます」


「燐道茜…。Rさん、もしかして芸能人だったんですか?」


「そうです!Kさんのおかげでこの仕事が出来てるんです!」


 本性がバレてないってことは、俺の変装は完璧だったと言うことだ!


 そう浮かれてるのも束の間。


「キル、気づかなかったの?」


 驚いた様に、漫画でよく見る口を手で隠す動作が見られた。


「仕方ないですよ姐さん。コイツ、ゲーム以外には興味示さないので。まぁ、名前知ってたら上等じゃないすっか」


「僕も薄々思ってたけど…、ノックくんのお兄さん以外は芸能人だね」


 何と全員バレてた。


 淳くんは「やっぱ、オーラは隠せないよね〜」って言うけど…、何のオーラなのか俺には分からなかった。

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