第7話

 目が覚めると体が痛かった。


「……ねむい」


 起き上がると自分が寝ていた場所が分かる。


 そら痛いわ。床やったら…。


 昨晩、初めて慣れないお酒を飲んで少し早く寝たのだ。記憶はハッキリ残っている。机の上は綺麗に片付けられていた。きっとボムさんがやってくれたのだろう。


「…あ、Rさんから返信きてる」


 スマホの画面を見ると、一件の通知が。そこにはRの文字が出ていた。


R<Kさんお誘いありがとう!

  次の休みが再来週の火曜日なんですが大丈夫で

  しょうか?

  

 再来週の火曜日…平日…。別に何日だった良いのに。最善を尽くしてくれたのだろう。

 Rさんがどんな仕事をしているか知らないけど、忙しいのは知ってる。一様私の職業は、テレワーカーとしか言っていない。…ある意味合ってるから嘘は言ってない。


「よし!」


 その日で大丈夫だと返信し、キッチンに向かった。


 みんなまだ寝てるし、せっかくやから朝ご飯作ってあげよう。


 立ち上がりカーテンを開ける。朝の日差しが目にしみる。


 お酒を飲んでたから胃に優しいものを作ろう。


 まずはお味噌汁。その後におかずになるものを作る。白ご飯は昨日の夜に予約で炊いといたから出来立てホヤホヤ。白ご飯が無理な人はお茶漬けにしてあっさりと食べられます。その場合、お味噌汁は汁を控えめにして具を少し多めにしてあげる。


「完成〜」


 後はみんなを起こして、食べるだけ。


「ノック起きて朝だよ」


 体をユサユサと揺らすが全く反応がないので、鼻を摘む。


「んっ。…ゔぅ。なっ!はぁぁ」


「おはよう」


「テメェ…」


 さて、ノックを起こしたので次は仲良く引っ付いて寝てる人達を起こしますか。


「…」


 幸せそうに寝ているが、私は起こす。せっかくのご飯が冷める。


「起きて下さい。ボムさん、リーダー」


 ノックと同じく体を揺らす。


 うん。起きない。なら、この手を使うか。


「起きて下さい。“遅刻”しますよ!」


 そう言うと2人は一斉にガバッと起き出した。


「おはようございます」


「…おはよ〜」


「おはようキル。その起こし方辞めてくれるかい?」


「2人が自力で起きて下さればしません」


 全員起こしたので、顔を洗ってきて目覚めを良くして下さいと言って先に席についた。


 リーダーとボムさんは元々普通の企業に勤めてだけど、こうも朝に弱く「遅刻」と言う単語を言うとさっきみたいに飛び起きるのだ。


「キル、さっきはよくもやってくれたな」


「起きないのが悪い。ご飯?お茶漬け?」


「白飯…」


「おk」


 文句は言うが、何かと素直な所はある。


「ふぁぁ。…良い匂い」


「リーダーとボムさんはお茶漬けですよね」


「分かってくれてありがとう」


 いつもお茶漬けなので聞くまでもない。ノックは気分で変える。


「ザッ日本の朝ごはんだな」


「お味噌汁もしかして出汁からとった?」


「はい」


「キルは本当に料理が上手だよね〜」


 たわいもなく話をする。これがみんなでお泊まりするルーティン化としている。

 朝ご飯も食べ終わり、早速ゲームをする。私は洗い物をするけどね。


「手伝うわよ」


「リーダー。ありがとございます」


「拭いて片付けるね〜」


「はい」


 手伝ってくれるリーダーを横目で見る。


 スタイル抜群で、出るところはバッチリと出てるし、その上、オシャレ。

 かと言う私は、この歳の割には痩せていてスタイルは良いとは余り言えない。それに、周りとは瞳が違った。ハーフだから日本人の要素、イタリア人の要素がある。


 見た目は母に似てるけど、唯一父に似たのは瞳の色だけ。


「どうしたの?そんなに見つめて」


「えっ!す、すみません」


 見つめ過ぎてうっかり手元が止まってしまっていた。


「なになに、私の体に何かついてる?」


「ち、違います。リーダーのスタイル良いなぁって。それにオシャレだなぁって思っただけです」


 私はリーダー見たいになれない。


「…そんなことないわ。キルの方が可愛いわよ!」


「え?」


 私が可愛い?


「キルは気付いてないけど、体が華奢だからもっと可愛い服着せたいし、せっかく綺麗な髪してるんだからセットしてあげたい!」


 どんどんリーダーの欲望?が溢れていき、最終的には…。


「お願い。一日付き合ってお買い物しましょ!」


 色々と言われてビックリした。

 別にリーダーと買い物するのは構わない。多分私は着せ替え人形になると思うけどね。それに、せっかくRさんと会うならオシャレしたい。


「ダメかしら?」


「い、良いですよ」


「本当!良いの!」


「はい」


「〜〜〜。やったー!」


 どれほど嬉しかったのか両手を上げ抱きつかれた。


「前のキルだったら『興味ないので…』とか言ってたのに、良かった!」


 確かに、前の私はオシャレに無頓着で部屋着があれば良いと思ってたけど、部屋から出るようになっては見た目には少し気を付ける様にはした。

 化粧はした事無いけど…。


「いつ行く?」


「買い物ですが、少しリーダーに頼みたいことがあって」


「頼みたいこと?」


「その、再来週の火曜日にRさんと会えることになって、その時の服を買いたいなって…」


 少し恥ずかしくて声が小さくなる。

 だって、こんな事滅多に言わないから、なんだか緊張しちゃうんやって!


「Rさんてゲート友の?」


「はい」


「それならとびっきりオシャレしないと!」


 そう言ってリーダーは片付けを手早く終わらせて、何やら準備をしていた。


「リーダー?」


「ボム。ごめんだけどキルと出かけてくる!」


「了解。楽しんどいで〜」


「さっ、行くわよ!」


 リーダーに手を引かれ車に乗せられ、あっという間に昨日行ったショッピングモールに着いた。


「私のオススメのお店はあそこと、あそこ。キルは好きな服とかある?」


 好きな服…分かんない。まず、自分に何が合うか分からない。


「特にないです。…強いて言うなら、フード付きパーカーとか好きです」


 動きやすいし、部屋着にも使える。雨とか降ったらフードを被れば良い。


「確かにそうねぇ。……」


 リーダーは考え込み私の手を引いた。


「こっちに良い店があるの!」


 走り出し、さっきリーダーが言っていたお店が通り過ぎて行く。


 あれ?どこに向かってるの。


 少し走ったところで、ある服屋で止まった。


「ここで服を選びます!」


「ここは…」


 店内を見ると、女性モノの服かと思ったら、普通に男性とかが着ていた

「このお店は、“ユニセックス”のお店なの」


「ユニセックス?」


 余り聞きなれない言葉で首を傾げる。


「ユニセックスは男女兼用服のことを言うのよ」


「そうなんですね。…何でここに?」


「会う時によく男性の服を着てるでしょ。もしかしてとこう言うの好きかなって思ったの。違ったかしら?」


 全くその通りである。服を買う機会が中々無いので、お父さんのお下がりを貰っていた。


 フリフリした服が得意ではないから、こう言った男性モノの方が落ち着くのである。


「その通りです。…その、こう女の子らしい服が普段着ないので、私にはレベルが高い…です。なので、こう言ったモノは嬉しい」


 リーダーは満足げにし、店内へ入る。


「さて、選ぶわよ!とびっきり可愛くオシャレにして、そのRさんをビックリさせるわよ!」


 この後に、まさか化粧品も買うことをこの時の私は知る余地もないのだ。


「りっ、リーダー本当にこれで大丈夫ですか?」


「うん!可愛い!私ってば天才!」


 満足そうに微笑むリーダー。その横で馴れない格好をして、おかしくないか戸惑うわたし。


 Rさんに褒めてもらえるかなぁ。

 早く会いたい。そんな気持ちが日に日に大きくなっていく。

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