第6話

 ゲームがしたい。


「目線こっちに下さい」


 言われた通りに目線、ポーズまで決めシャッター音がなる。


「一旦休憩しまーす」


 そう言われたので、メイクを見直してもらってスマホをいじる。


 あっ。Kさんから連絡きてる!


K<この度引越しすることになりました

  

 へー。そう言えば実家暮らしだって前に聞いた気がする。


K<それで何ですが、対面しませんか?

  もうRさんと会って8年、一度もリアルでアナ

  タを見たことが無かったので、これを機に会っ

  てみませんか?


 俺に会いたい。Kさんからそんなこと言われるなんて!嬉しい。

 実のところ俺もKさんに会って見たいと考えていたけど…まさかKさんから来てくれるなんて。

 あっ。でも仕事…。


「ねぇ、さっちゃん」


「なんだ」


「次の休みっていつ?」


「休みか?ちょっと待て」


 さっちゃんは手帳を取り出して休みがないか見てくれた。

 さっちゃんは俺のマネージャーで、デビューしてから代わってない。


「次の休みは再来週の火曜日。平日だ」


 平日…休日になんで仕事入ってるんだよ。せっかくKさんと会えるのに。


「れいのKさんか?」


「うん。今度リアルで会いませんかって。ダメだった?」


「別に構わん。変装した上でだがな」


「ありがとう!さっちゃん」


 元気よくお礼を言ったのだが「お前は夜でも元気だな」と嫌そうに言われた。

 そんなにうるさい?

 取り敢えず。Kさんに連絡しないと。


 ポチポチと文字を打って送信。


 これでよしっと。


ーぎゃゃゃぁぁあ


「!」


 突然人の悲鳴が聞こえたので、後ろを振り向く。


「すっ、すみません!」


 スタイリストさんのスマホからその悲鳴が聞こえていたみたいだ。


「何見てるんですか?」


 俺は気になって画面を見せてもらった。


「人気の配信者さん達です。今日はみんなで飲み配信してたので少し見ようと思いまして…」

 

ーおい!今の誰だよ!

ーノックどんまい

ーキル。てめーか!

ーうるさい

ーこらこら2人とも喧嘩しない

ーボムさん違います。ノックが1人で騒いでるんで

 す


 楽しそうにゲームをしている声が聞こえる。


 良いなぁ。俺もゲームしたい。


 見てると全員ゲームレベルが高い。


「この人達ってなんて言うんですか?」


「えっとね。チーム“ENEMY”」


 ENEMY…。敵ってこと?


「どう言う意味?」


「えっとですね。結成した時にキルが…『私は時にみんなの敵になる。いつだって味方だと思わないで』って、その言葉がきっかけで“ENEMY”ってついたんだよ」


 へー。キルって子は相当、相手を信用しないタイプみたいだ。


「ちなみに誰がキルなの?」


「クールな口調の女性です。最近20歳になったみたいで、それでみんなで飲み配信してるみたいです」


 はっ、20歳!この時でこのゲーム技術。毎日何時間かやっていないと身に付かない。


 他の人も教えてもらった。さっきの悲鳴はノックと言う男性で、キルをチームに引き入れた人。


 大人らしくて落ち着いた口調の人はボム。最年長でゲームに詳しい人。


 チームのリーダー、フィア。とても活発的でまとめるのが上手い。


 最後に圧倒的なゲーム技術。誰もが息を呑む独特の雰囲気を持つ最年少のキル。


「個性的な人達ですね」


「そうなの、ボムとフィアは夫婦で昔は2人だったんだけど、大勢で遊びたいからチームを作ろうてなって、ソロだった2人を入れたの」


「へー。ありがとう教えてくれて」


 ある程度知れたのでその場を離れる。


 大勢でゲームか…。同じ俳優仲間とかモデルの子とかアイドルの子とかと遊ぶけどやっぱり俺は、Kさんとやるゲームの方が楽しい。


 スマホの画面を見る。Kさんから返信はまだ帰ってこない。


「…俺も早くキミに会いたい」


 誰にも聞こえない声でそう呟く。


「茜さーん。準備出来ました!」


「はーい」


 俺は仕事に頑張れる。だってキミが応援してくれたから。



 初めて俺の背中を押してくれたのはKさんだった。

 “夢を諦めないで。前を見て”その言葉に何回も救われた。だから、Kさんに直接お礼を言いたい。

 「ありがとう」って。


 キミに会いたい。画面越しではなくてリアルで。

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