第14話 ごめん

 翌日。


 おれは、けっこうドキドキしながら学校に行った。


チェックしたら、ちゃんと昨日のひったくり犯のことがネットに出ていた。女の人は軽いけがですんで、犯人は逮捕された。


 さすがにニュースにはなってなかったけれど、SNSではまた謎の黒いロープが現れたとか、小学生の男の子が助けてくれたらしい、というコメントもあった。


 そう、記事にもでていた。


 今日はきっと、友樹がみんなに囲まれているだろう。ちやほやされてドヤ顔している姿が目に浮かぶ。


 そうしたらもう、きっと色々つっかかってこなくなる。


 なのに、だ。


 教室はいつものとおりだった。ただ、みんなが集まって、「またあの黒いロープが出たんだって。」という話をしていた。


友樹は、というと……昨日と同じく、ひとりでぼんやり自分の席にいた。



「ちょっと来い。」

 おれは、友樹を廊下に呼び出した。


「なんだよ。」

 友樹はむっとしていた。

「自分がつかまえました、って言ったのかよ。」

「言わねえよ。俺もあの後すぐ、逃げた。」

「なんでだよ! お前が有名になりたいって言ったから、させてやろうとしたのに!」

 すると友樹は強い視線でおれを見た。


「ひったくり犯つかまえたの、俺じゃねえし。警察に聞かれてなんて答える? 鼻毛がやりました、って言っていいのか?」


「それは困る。」

 友樹は怒ったみたいにおれを見た。


「そりゃ、おれだって人気者になりたいよ。お前がみんなに好かれててうらやましいとも思ったし、悔しいとも思った。何で守ばっかり、って。みんなから嫌われればいいのに、って思ったことだってある。でも、こういうのは、いやだ。」


 じっとおれを見て、


「俺には、もっと大事なことがあるんだよ!」


 そしてそのまま教室に戻った。


 がん、と、頭をなぐられた気分だった。


 ひどくね⁉


 悔しいと思っていた、とか、みんなから嫌われればいいのに、なんて。


 なんだよ、もっと大事なことって。


 友樹にとって、人気者になるのは大事なことなんじゃねえのかよ!


 じゃあなんで、ちっちゃいニュースを「ビッグニュース」って大騒ぎして、みんなの注目集めようとしてんだよ!


 ふざけんな! おれ、友樹に意地悪したこと、一度もねえぞ!


 そこまで思って、気づいてしまった。



 前に言わなかったか? 「だから、友達いねえんだよ。」って。


 思わなかったか? 「友樹のくせに。」って。



 でも、昨日は友樹が助けてくれた。だからお礼のつもりだった。友樹が有名になりたい、って言ったから、その手助けをしたつもりだったのに。



 ひどくがっかりして教室に戻ると、また愛音が友樹に話しかけていた。

愛音がほかのやつにも話しかけて、みんなが愛音と友樹を取り囲むように楽しそうに話しはじめた。


 別に、関係ねえし。


 気づかない振りをしようとした。

 でも、できなかった。


 愛音が楽しそうにしていたから。


 おれには、あんなふうに話しかけてくれたことねえのに。


 気にしないようにしよう。


 そう思っているのに、どうしても気になる。

 友樹のことも。おれとは仲良くしたくない愛音のことも。


「そんなに気になるなら、自分から行けよ。」

 鼻毛が声をかけて来た。

「だまれ。」

 そう言ったところで、

「守ー。」

 白木という女子が声をかけて来た。


「あ、なに?」

「この間借りたマンガ、もってきたよ。面白かった。」

「あ、うん。」

「ありがと。」

 そう言って白木がランドセルからマンガを出した。

「あー、それ、面白いよな。」

 大地が口を出し、

「へえ。白木もこんなの読むんだ。」

 白木はちょっと言葉に困ったようだったけれど、

「面白かったよ。」

 と、笑った。


「そういえば今日、遠足のバスの席順決めるんじゃなかった?」


 今まで愛音たちと話していた林が突然話に割って入った。

「くじびきかな。」

「出席番号順だって。」

 待ってましたとばかりに友樹が口を出す。

「あたしたち席が近いね。」


「え、いいなあ。」

 白木が声を上げると、

「ずるいよねえ、朋美と愛音ばっかり守君の近くで。」

 ほかの女子がこそこそ言い始めた。大地がほかの男子とつまんなそうに顔を見合わせた。


 その様子を見ながら思う。


 多分こういうことなんだろうな。友樹が悔しいとか思う理由。


 だったらさ、友樹だってイケメンになればいいんだ。おれだって別に、生まれたときからイケメンなわけじゃない。


 毎朝早く起きて髪の毛セットしたり、ねーちゃんに「この服のセンスは悪い」とか言われながら、「服、選んでください」ってお願いしてイケメンを保ってるんだ。別にやりたくてやってるわけじゃない。


「出席番号順って誰が決めたんだよ!」

 声にイライラが混じってしまった。するとみんながおどろいたみたいに見て来た。


「昨日、先生が話してるの聞いたんだ。」

 友樹がおれの方を見ずに答えた。


 なんか、カチン、ときた。


 新しい学年が始まったばかりだから、っていうのもあるかもしれないけど、出席番号にこだわりすぎじゃないのか。給食当番にしろ、遠足の席順まで。


 五月に入ってからすぐに席替えしたんだから、ほかのも全部くじ引きとかにすればいいのに。おかげで、また、友樹と愛音の近くにいなくちゃならない。


 林はまあ、いいとしても。


 なんか、気まずい。


「今日から梅雨入りだって。」

 愛音がスマホから顔を上げた。

「雨だったら、中止なんだよな。」

 友樹が言ったら、

「ええ? そうなの?」

「まじかー! 晴れてくれ!」

「山登りもいやだけど、勉強よりはましだよな。」

 と、周りにいたやつらが口々に言いだす。


 おれも勉強はきらいだ。でも、今回ばかりは中止になってほしかった。


 外を見る。今にも雨が降り出しそうに、灰色の雲が空をおおっていた。

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