第5話:龍の子
「さて、ここがルイザの拠点だよ。」
眼前の建物には「機械診療所」と書かれている。
ドアを開けると、白衣を着た男性と、一人の少女が出迎えてくれた。
「ご主人様、ミドリさんです。」
「ああ、おかえりー。久しぶりだね。」
おそらくルイザさんであろう方は、白衣・白髪でメガネの男性です。想像以上に若く見える方で、なんだかのんびりした雰囲気をしています。
少女の方は、男性とは似つかない容姿でいわゆるゴスロリというような格好をしています。かなり子供に見えますが、実年齢よりもしっかりされている印象です。
「ふふ、ここにお客人が来るのは久しぶりだね。ローズ、お茶を入れてあげて。」
「畏まりました。」
私達は応接間に通されました。無機質ですが綺麗な部屋で、壁一面に本が並んでいます。緋山君は疲れた顔でソファーにどかっと座りました。私は緊張しつつも、本に目をやっていました。
ローズ、と呼ばれていた小さな女の子が、紅茶とクッキーを持ってきてくれました。本当なら今頃スイーツでお腹を一杯にしていたはずなので、ついお腹が鳴ってしまいます。緋山くんは間髪いれずにむしゃむしゃと食べ始めてしまいました。
「今日は色々とあって疲れたでしょう。本当はタカハシヤのスイーツを買ってきてもらう予定だったんだけどねえ…。」
緋山くんがその言葉に反応したのか、クッキーを貪りながら男性を睨んでいます。
「オホン。あらためて、僕はルイザと申します。ミドリの保護者っていうのかなー。あと機械技師としてここで機械専門の診療所をやってる。」
「機械専門の…診療所?」
「ああ、君たちも今日見たと思うけど、こっちの世界ではああいう人型ロボットがかなり普及していてね。僕はそのメンテナンスとか、機能面での相談とかを生業にしてるんだよ。」
「ちなみに、あのロボットさん達は警察に連れて行かれてしまったみたいなんですが…大丈夫なんでしょうか。」
「お、北条君に会ったの?大丈夫、警察が回収した後僕の所に届く手筈になってるから。」
「…なんで異世界の怪しい機械いじりが日本の警察と繋がってんだよ。」
緋山君は先程からすごく機嫌が悪そうにしています。見た目通りの性格になってしまっています。
「緋山…龍騎君か。この件…というよりかは、異世界移動に日本の警察が介入していることは、君が一番理解していると思うけどね。」
「「えっ」」
私とミドリさんが同時に声を上げました。ミドリさんも知らない龍騎さんの何かがあるのでしょうか。
「…チッ。知ってんのかよオッサン。」
「あれ。2人には言ってなかったの?どうせなら君から説明してあげたらどうかな?後オッサンと呼ぶのはやめてくれない?」
「…機密事項だから喋るなって言われてるけどいいのか。」
ルイザさんが頷いて返事をする。緋山君は大きなため息をついた後、神妙な面持ちで話を始めました。
「俺は、この世界にいた事があんだよ。」
「俺には姉貴がいるんだが、姉貴と一緒に気づいたらこの世界にいたんだ。確か小6位の時だ。俺は何故かそれまでの記憶がほとんどすっ飛んじまってるんだが、この世界が元いた世界じゃねえことはぼんやり分かってたんだ。」
「…姉貴は全部覚えているっぽいんだが何も話してくれなくてよ。今もだ。」
「で、路頭に迷ってた所をあるじいさんに拾われて、面倒見てもらってたんだ。大体3年位かな。んでよ、さっき通ってきた世界を移動できる場所みたいなのをじいさんが見つけて、帰れって言うから…帰ったらこっちに戻る手段が無くなって、今に至るって訳だ。」
ルイザさんが続ける。
「ありがとう。補足するけど、白雪さん、神隠しは知っているよね。」
「ええ、はい。突然人が行方不明になってしまって帰ってこないと…。今日のロボットさんもそれに関わっているとはお聞きしましたが。」
「そうだね。君たちの世界で言う神隠しの原因は、そいつらに異世界に連れて行かれるか、たまたま世界の境目に繋がって迷い込んでしまうかの2つあるんだ。緋山君の例はまさに後者…という所だね。」
「基本的に消えた人間は戻り方を知らないから帰ってこないけど、緋山君姉弟は奇跡的に帰ってこれたということ。つまりは神隠しについての重要参考人…って訳。だから緋山君姉妹は日本政府からの保護観察対象として生活をしていると…。そうだね?」
「…ああ。ガキだったし身寄りが無かったから逆に丁度良かったと思ってるよ。」
いつも飄々とされているミドリさんも、さすがに真剣な表情で話を聞いています。
「日本の政府・警察関係者の一部だけがこの異世界と神隠しの真実を知っていてね。
警察のリーダーとして色々やり取りしてもらっているのが北条君なんだよね。
で、僕はこちらの世界の指導役として、協力関係を結んでいるんだ。」
ルイザさん達は神隠しの原因を突き止め、私達の世界の警察に協力してもらってロボットの駆除・搬送をお願いしているそうです。
「あのロボット…アンドロイドだね、あれは量産型でね、男女の身体区別以外は全て同じように製造されている。だから皆顔が同じだったんだよ。僕たちは『壱型』って呼んでるよ。今まで何体かバラして解析したんだけど奴らには基本的な動作遂行プログラムしか搭載されていなくてね。人を攫う目的とかはさっぱり分からないんだよねー。」
ミドリさんが続ける。
「うん。でもそのアンドロイドを利用している組織だけは突き止められてるんだよね。」
「そう、『龍の子』という宗教団体でね。宗教団体って大体は信仰対象がいると思うんだけど、彼らは龍を信仰しているんだ。」
「…こっちの世界にはイロイロ曰く付きのモンがいるって聞いたけど。まさか龍まで実在すんのか?」
「いや…いないよ。今はね。…そうだね、話を繋げるためにも、君たちにこの世界の成り立ちについて少し話そうか。」
そう言ってルイザさんは本を一つ取り出して、朗読し始めた。
―――
昔々、この世界には龍が存在していました。
龍は他の動物達とは異なり知能が高く、人間と意思疎通を図ることができました。
龍に出来ないことを人間が、人間に出来ないことを龍が行い、
彼らは助け合いながら世を発展させていきました。
そしてある時、一つの噂が広まりました。
「龍の血は人間を不老不死にする効力があるらしい」
それに目をつけた人間達による、龍の乱獲が始まりました。
しかし、実際には普通の龍の血には不老不死の効力などは無く、
むしろ摂取した人間に感染症をもたらしたり、拒絶反応で死に至らしめるばかりでした。
元々不老不死に興味の無かった人々もこの出来事をきっかけに、龍への反感を強めていきました。
龍たちもまた、仲間が次々に生き血を抜かれ殺されている事実を知り、人間への敵対心を持つようになりました。
龍は殆どの人間との交流を絶ちましたが、「月の一族」と呼ばれる龍の付き人であった女系一族だけが、唯一交流を続けていました。
彼女達はお互いの因縁の蔓延る中、板挟みにされてしまい、とても辛い立場にありましたが、それでも龍と人間の関係修復のため、尽力していました。
しかし怒りに溢れた一部の龍達によって、月の一族の何人かが殺されてしまいました。
これをきっかけに、龍と人間の戦争が始まってしまったのです。
戦争は長引き、多くの犠牲を出しましたが、人間達は遂に龍の長以外の龍を全て倒しました。
そして、その長と呼ばれる巨龍と最後の戦いが始まりました。
巨龍の力はさすがに凄まじいもので、人間が束になっても敵いませんでした。
そんな中、先陣を切って龍と戦った2人がいます。
彼らは強大な力を持つ巨龍に対抗する力を持ち、一生懸命戦いました。
そして戦いは遂に終わりを迎えます。
彼らが巨龍の首を切り落とすと同時に彼らの体も巨龍の爪に引き裂かれました。
これにて世界から龍は全滅し、2人は英雄としてこの世界に名を残す事になります。
英雄の名はオルギオとシャラムーン。後の王族となる名家の一人と月の一族の一人でした。
龍の首が落とされた後、この世界には龍の血の雨が降り注ぎました。
なんということでしょうか、実は龍の長の血には、本当に不老不死の効力があったのです。
戦争で生き残った人々は、その血を浴びたことで不老不死になってしまいました。
貴方の隣にいる人も、実は500年も生きている不老不死の人間かもしれません…。
――
「…」
「なんだか、私の読んだ事のある本に少しだけ似ていますが…全然違います。」
「へえ、そっちの世界にも似た本があるんだね。この本の内容は、この国のおとぎ話なんだ。おとぎ話と言っても、これは実は正しい歴史でね。
現代では少し歴史は改変されてしまっているけどね。元々龍と仲良くしていた歴史なんて、今の子は知らないんじゃないかなあ。」
ルイザさんが話を続ける。
「この戦争は500年前に収束したんだけど、今では龍は忌み嫌われるべきモノとして扱われてるんだよね。その龍を信仰対象にしているのが『龍の子』なんだけど、要するに正しい歴史に人々を導こうとしているのが活動方針って所かな。」
「悪い宗教団体には思えないですね…。本当に私達の世界から人を攫っているのがその団体なのでしょうか?」
「それが分かればいいんだけどねえ…。君たちの世界の人達には龍なんて関係ないだろうし、信仰者を増やす目的には繋がらないような気もするんだけど。」
「つーか、そのおとぎ話が本当なら不老不死の人間っていうのはマジで存在するのか?」
「お、緋山君も不老不死に興味あるの?…と言いたい所だけど、それは正直分からないんだ。おとぎ話自体はここで終わっているけど、この500年の歴史の中で、龍という存在はより人々に忌み嫌われる存在になったんだよ。…その結果、何が起こったと思う?」
「…いや、俺には見当もつかねえよ。」
「ここからはおとぎ話の後の話になるけど、巨龍の血を浴びた人間は噂通り不老不死になってしまった。この『龍の血を浴びた』という事実から、彼らが龍の生き残りであり、いずれ人間に危害を及ぼす可能性がある…そんな事になっちゃったんだよね。」
「不老不死の人々を、当時の人々は『龍の子』と呼んでいたみたいだね。」
「龍の子…。」
「そう。そして、龍の子は追われる身となり、捕まったものは拷問され、惨殺されてしまった――。
だから、どのくらいの人間が龍の子で、何人死んで何人生き残っているかまではさすがにわからないんだよね。」
「…どの世界でも歴史が酷ぇってのは変わらねえんだな。500年前の歴史は無いのか?」
「まあ、500年前の時点で君たちの世界よりは大分発達していたから、それまでは人々が技術発展をさせてきたんじゃないかな、とは思うよ。実は500年前の戦争から前の歴史が分かるものが何故か残されて無くてね。色々と探してはいるんだけど、今のところはさっぱり。」
「…で、俺らのこの状況とその話に何の関係があるんだよ。」
「んー。ぶっちゃけ僕にも分からないんだよねえ。」
テキトーすぎる返答に、緋山くんも私も目を丸くしています。
「ミドリがいつも持っている箱があるだろう。これは僕がミドリに初めて会った時に
彼が持っていたものでね。変な話だけど、僕が初めてこれに触った時、声が聞こえた気がしてね…何を言ってたかはわからないんだけど、”龍”というワードが聞こえたんだ。」
「龍?」
「そう。この箱の中にある石が、君たちを選んで不思議な力を与えている理由はわからないけどおそらくは龍に関係する何かしらの目的があるんじゃないかとは思うんだ。まあ、龍なんて今は存在していないからね…。もしかしたら比喩とかそういうものなのかもしれないけれど。」
「…俺はな、コイツに『世界が滅ぶからそれを救うヒーローになってくれ』なんて大層な事を言われたんだが。」
ミドリさんが笑いながら割って入る。
「ああ、まあヒーローってそれくらい規模が大きい方がいいでしょ?そういう誘い文句なら喜んで承諾してくれると思ったんだけどなー。」
「まあ、スケールは大きい方がワクワクするじゃない。でも仮に龍の話と結びつけるとするならば。龍には本当に世界を滅ぼすだけの力がある…あったんだよ。それだけは断言できる。
もし龍に匹敵するような力を持っているような連中がいたら?龍の力を扱えるような人間がいたら?
現に君たちの世界にも干渉して色々やっている疑惑がある奴らが出てきてるんだ。君たちが不思議な力を授かったのも、僕は偶然じゃないと思ってる。」
「…そうかい。ミドリ、お前がこの石持ってきたんだろ?何か知らねえのかよ。」
「…えへへ…実は僕もね、ここに来る前までの記憶が殆ど無いんだよね。この箱を何故持っていたのかも僕は覚えてないんだ。僕、自分の名前も出生も分からないし。リュウキも記憶喪失っていうからちょっとびっくりしちゃったよ。」
「ええ!」
私はびっくりして大きな声を上げてしまいました。お二人とも壮絶な人生すぎて驚きです。
「あはは、白雪さんが一番びっくりしちゃうよね。まあ今ではそんなに気にしてないし大丈夫。」
「ミドリが初めてここに来たとき、自分の本当の名前は別にあるけど、『ミドリ』という名前を付けて貰ったんだって話してくれたんだよ。その名付け親すら覚えてないみたいなんだけどね。…さて、ここらへんで一度区切りにしようか。目先の目的として、君たちにやってもらいたいことは人攫いの阻止。君たちの仲間集めかな。僕もこっちの世界で仲間は探してるからさ。で、龍の子の目的を突き止めて人攫いなんて行為は辞めさせるんだ。協力してくれるね?」
数秒の沈黙が流れる。
そして、緋山君が今日一番大きなため息を吐きました。
「クソ面倒くせぇ。けど、乗ってやるよ。俺はつくづくこっちの世界に縁があるみてえだしな。それにミドリと白雪はやる気満々みてえだからよ。」
「白雪ちゃん、さっきから目がキラキラしてるもんね。」
「…!」
私はファンタジーものの本がとても大好きだったので、非現実的な事が実際に目の前で起きているこの現状にとてもワクワクしていたのでした。
「うーんイイね!これが青春ってやつかなー。さて、今日は遅いから君たちは自分の世界に帰りなさい。ミドリ、これ後で2人に渡しておいて。またこっちに来た際には観光でもしていくといいよ。
あ、今度こそタカハシヤのスイーツ買ってきてね!今日の分合わせて二倍量で!!」
そんなこんなで、私達は元の世界に戻ることになりました。
「うわ…!」
ルイザさんの事務所を出ると、先程までは背を向けていたので気づきませんでしたが、遠くにはとてつもなく高い塔がギラギラと光を放っているのを見つけました。
「…懐かしいな。確か『太陽の塔』っていうんだっけ?」
「そうだよ。この国の王様が住んでいる塔なんだよ。さっきの童話でさ、オルギオっていう英雄の名前が出てきたでしょ?オルギオは当時『太陽の騎士』って呼ばれていて、オルギオの血統が今でも王族に君臨している事からそう呼ばれているらしいよ。後は夜でも太陽みたいに明るいからみたいな理由もあるけど。」
「この国は王国なのですね…。」
「うん!まあ王様なんて見たこと無いけどね。…この国の事もまた今度色々教えてあげるよ。さて、明日は例の探偵事務所に殴り込みに行かなくちゃね!」
そして気づけばゴミ箱の中。
急いで脱出して、明日の約束をして私達は解散しました。
龍と色と僕たちと! 冷ごまだれ @syake6316
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