第43話

私の告白に、レイは今にも泣きそうな顔をしながらも、破顔。

「喜んで」

そう答えると、自分の額に手をかざした。

そこが小さく輝いたかと思うと、額に金色に輝く鱗が現れた。

それをぺりっと何のためらいもなく剥ぐと、私の口元に持ってくる。

「エリ、口を開けて」

言われたとおりに口を開けると、金の鱗を舌の上に乗せた。


まさか食べろと?と、一瞬焦ったけれど、その鱗はまるでラムネの様にシュワッと溶けていった。

それと同時に身体が温かくなり、その熱が額に集まりピリッとした痛みが走った。

思わず「痛っ!!」と額に手を当てると、ツルツルとした何かがへばり付いている。

レイは私の手をよせ、嬉しそうにそれをこれまた何の躊躇いもなくぺりっと剥ぎ、その痛さに顔を顰めた。

「レイ、今のって・・・」

一体何が起きているのか理解できなくてレイを見れば、一枚の金色の鱗を見せてくれた。

それは先ほど口に入れられたレイの鱗と同じように見えた。

「エリの「竜芯」だ」

そう言うと、パクリと口に入れてしまった。


「えっ?」

という驚きの声を上げた瞬間、先程とは違い温かな風のようなものが身体を包み込む。

そして、目に見えない何かでレイと繋がったような不思議な感覚と、ソファーに座っているのにふわふわと浮き上がったかのような、そんな浮遊感。

思わずレイにしがみ付いてしまった。

訳が分からずレイを見上げるけれど、彼は嬉しそうに「大丈夫」と頬を撫でるだけ。

そんな感じがどの位続いただろうか。恐らく時間でいえばほんの数秒だったのかもしれない。

お尻にソファーの感覚が戻り、床に足が付いている事を確認し安堵の溜息を落した。


「エリ、「竜芯」の交換は恙無く終了した。これで、名実ともに俺とエリは夫婦になった」


先程の不思議な感覚がそうだったのかと、思わず意味も無く自分の掌を見た。

今ので寿命を分け合い、長い月日をレイの伴侶として過ごす。

正直、全く実感がない。

それでも、彼の言う「夫婦」という言葉に、じわじわと嬉しさと恥ずかしさと幸福感が湧いてくる。


「あぁ、エリ・・・愛してるよ。誰よりも。俺の愛する妻よ」

ヒョイと抱き上げられ、定番の膝の上の乗せられ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。

いつもの事なのに、なんだか懐かしくも嬉しくて、とても愛おしい。


「レイ、私も愛しているわ。大切な大切な旦那様」


言葉にすることに対し遠慮も無くなった私。

今回の事で大いに反省し後悔した私は、開き直って思っている事を素直に告げる事にしたのだ。

大いに喜んでくれるのではと思っていたのにレイの反応はなく、私を抱きしめたまま固まっている。

「・・・?レイ?」

その腕から抜けて顔を見ようとするけれど、びくともしないその腕。

バシバシと背中を叩くも、それでも反応がない。

ごそごそと、やっと顔を出せば、目に飛び込んできたのは真っ赤になったレイの顔。

「レイ?どうしたの?具合でも・・・」

「具合は悪くない!エリが・・・・」

「ん?私が?」

「あんな事・・・言うから・・・」

あんな事?って、私何か言った?

首を傾げ、わからないとばかりに眉間に皺をよせ考える。

そんな私にレイは、諦めた様に大きなた溜息を吐いた。

「俺を・・・旦那様と、言った」

ぼそぼそと、いじけた様にいう言葉に「なるほど」と納得。

多分、これまでの私だったら恥ずかしがって言わないわね。

「普段からレイは、私以上に歯の浮く様な言葉言ってるくせに、旦那様と言っただけで照れるなんて・・・可愛いのね」

「むっ・・・何とでも言え」

そう言うと、噛みつくように私の唇を塞いだ。


あぁ・・・幸せだわ。想いが通じた後で触れ合う全てが、本当に幸せ。


レイの「番」だったアレッタには悪いけどね。

後にレイにそれを言ったら「何も悪くない」と言われた。

最後に付き合っていた子爵令息と「竜芯」を交換しなかったのは、アレッタの意志。

本当に彼を愛していたのなら、その場で「竜芯」を交換していたはずだから。

そしてレイが私を選んだのも、自分の意志。

だから何も悪くないのだと。


私達が「竜芯」を交換した数日後、アレッタは釈放された。

「番」の気配が一切消えた事に呆然とし、子爵令息と復縁しようとしたらしいが、当然叶うはずもなく。

未だに独り身だという。

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