第41話
「レイ!大丈夫!?」
スイに案内されたのは、レイの執務室。
勢いよく扉を開け室内を見て、一瞬にして冷水を掛けられたかのように冷静さが戻っていく。
部屋の中にはレイと側近三人、そしてお仕着せを着ている女が兵士によって拘束されていた。
レイの美しい琥珀色の瞳は何処までも冷たく氷の刃の様で、その目で一瞬見つめられた私は「まさか・・・」と身体が震える。
でも、私だとわかった瞬間すぐに目元は緩み、両手を広げ私を抱きしめた。
その温かさに、変わらない態度と眼差しに、安堵してしまい足の力が抜けてたように膝が折れてしまった。
「あぁ、エリ・・・不安にさせてしまったみたいだね。すまない」
そう言って私をいつもの様に抱き上げ、そしていつもの様に膝の上へと座らせた。
その様子を驚愕の眼差しで見つめるのは、お仕着せの女。
あぁ・・・彼女がアネッタ。
彼女は美しかった。
竜人族は美形が多い事で有名だ。
まだ限られた人達としか顔を合わせてはいないが、群を抜いての美貌だというのは私でもわかった。
しかも兵士に拘束され膝を突かされているものの、スタイルも抜群に良い事が分かる。
だからなのか、お仕着せが妙に似合わない。
纏めていたであろう髪が乱れた様は妖艶で、女である私ですら見惚れるほど。
だが、周りの人達の彼女を見る目は、異様に冷たい。
もしレイが彼女を「番」だと認めたら・・・この冷たい眼差しは私に向けられていたのかもしれない・・・
そう考えると、本当に怖くて震えが止まらなくなる。
そんな私を安心させるかのようにレイは「大丈夫だ」と耳元で囁き私を抱きしめた。
「さて、アネッタと言ったか。何故このような事をした。この城に忍び込んだ事も罪だが、我を襲おうとしたことは大罪である」
「それはっ!陛下が私の「番」だからです!」
「・・・・我は何も感じないが・・・・それはどのように説明する?」
「・・・・わかりません。でも、私にはわかるんです!この甘やかな渇望・・・それが陛下から感じている!今まで誰からも感じなかったこの感覚。こうして傍にいるだけで、我慢ができないほどに、触れたくて愛し合いたくて・・・何もかもが欲しくて!」
愛を語るにはあまりに狂喜過ぎて、私は何も言えない。
只々彼女が、怖いとしか感じなかった。
レイを見るその目が、言葉が、全身から醸し出す想いが・・・・
これが「番」なの?
相手を求める姿は、本当に狂ってしまったのではないかと思ってしまうほど。
レイに抱きしめられ呆然と見ていた私に、アネッタは憎しみのこもった目で睨み付けてきた。
「何であんたが陛下に抱かれているわけ?!そこは私の居場所よ!どきなさいよっ!」
今にも襲い掛かりそうな勢いで、私は反射的に震えた。
「無礼者めっ!我はお前のものではない。我の全ては、この腕の中にいる愛しい人のものだ」
レイの言葉に、アネッタは激高したように叫んだ。
「違うっ!そこは私の場所!私が竜妃になってこの帝国の頂点に立つのよ!陛下の愛を独り占めして、何もかも私の思い通りにするの。私を追い返した門番も、私を押さえつけているこの兵士も、私の「番」を横取りしようとするそこの女狐も!私に仇名す者は、全て全て処分してやるのよ!私はしがない宿屋の娘で終わるわけがなかったのよ・・・だからこうして帝国の頂点でもある陛下の「番」になれた・・・私は特別なのよ!この美貌も身体も、陛下の為だけの物・・・・あぁ、陛下!そんな女など捨てて私を助けて!陛下!陛下っ!!」
静まり返る室内に、彼女の興奮した叫び声と荒い息使いが響く。
散々叫んだアネッタは、期待の込めた目でレイを見ている。レイが自分の手を取るのだと、どこまでも疑いもせず。
「・・・・お前の言いたいことはわかった」
レイの言葉に、ぱぁっと表情を明るくするアネッタ。
だが、次の言葉に一瞬で表情は抜け落ちた。
「その女を、牢に入れておけ」
呆然としたように引きずられていく彼女にレイは、どこか疲れたように告げた。
「その苦しみから、もうじき解放されるだろう」と。
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