第31話
レイに私の気持ちを伝えたのにも関わらず、自分を好きなのかとしつこいほど確認され頷けば「じゃあ、恋人になろう」と、ほぼ強制的に恋人になった。
好きな事は確かだけど、良いのかなぁと不安にしていたら、ルリとスイに「大丈夫ですよ」と自信満々に言われ「そうか」と納得した私って、チョロい??
まぁ一応、恋人になったのならと、私はレイにペンダントを渡した。
「結界通行許可書 改」だ。・・・・えぇ、えぇ、ネーミングセンス皆無ですよ!
名前は何であれ、これはこの結界へ入ることができる、許可書みたいなもの。
ルリとスイが持っているものと同じものだ。
彼は悪用しないだろうと信用していたから渡した。
まぁ、別れたら当然回収するけどね。
ペンダントは改良ついでに、悪意や物理攻撃反射も付与している。
ルリがアーンバル帝国へお使いに行ったときは、腕輪に防御魔法を付与したけど、ペンダントを改良してこれ一つで両方を担っている最新版。
それを渡した時のレイは、本当に嬉しそうにしてくれて、こちらの方が照れてしまったくらい。
恋人になったからと、何かが変わるわけでもなくいつもと同じ私達。
お互いに甘い雰囲気を出すとか、イチャイチャするとか・・・・
「陛下とエリ様は、普段からイチャイチャしていたのですから、大して変わりませんよ」
と、ルリとスイには「気付いてなかったの?」と呆れられるしまつ。
気付いてなかったわよ。あの時はほぼ身内感覚で接触していたもの。
でも、今は、意識しすぎちゃって、今までどうレイと接していたのかがわからなくなってしまっている。
「ねぇ、エリ。俺があまりにも強引に進めすぎて、嫌いになった?」
と言われてしまうくらいに。
その度に言い訳・・・もとい説明し、その度に抱きしめられる。
小さなレイの時に私がしていたみたいに・・・膝の上に乗せられて。
そんなこんなの積み重ねで、身を持って体験済みの私。何度も言うけど、人とは慣れていくもの。
恥ずかしいのなんのと言いながら、未だに一緒に寝てるんだから、何が恥ずかしいの?って感じよね。
しかも、ルリとスイも何も言わないし普通に対応するものだから、だんだんとこれがおかしい事なのだとわからなくなってきていた。
そう、これが恥ずかしい行為なのだという事を。
誰も指摘してくれないと言うのは、後々恥ずかしい思いをするのだと、その時の私は知る由もなかった・・・
そして、とうとうレイが国へ帰る時が来た。
帝国へ帰るその前に、この襲撃事件の顛末を教えてくれた。
ヴォールング王国と繋がっていたのは、レイの側近ではなく、側近に付いていた使用人だった。
繋がっていたと言っても、直接ではない。
使用人が好意を寄せていた女性が銀狼族で、彼女の気を惹きたくてたまたま耳にした事を話してしまい、そしてそれが同じ銀狼族を伝い、最終的には帝国に潜んでいたヴォールングの間者の耳に入ってしまったのだ。
その間者は彼らを勝手に協力者に仕立て上げ、情報を引き出していた。
軽い気持ちで話した内容は、彼等のあずかり知らぬところで大事となってしまったのだ。
故意ではなくとも、原因となった彼等は当然、捕縛された。
本来であれば、王宮内での仕事の内容はどんな些細な事でも他人は当然の事、家族にすら話てはいけない。このような仕事に就くにあたり、契約書にサインさせられるくらいは、常識なのだ。
「で、彼らはどうなったの?」
私達三人はお茶を飲みながらレイの話に耳を傾けた。
「その使用人と銀狼族の女性は、牢に収監。尋問を受け、ヴォールングの中枢とは直接関わり合いがない事はわかったが、使用人は契約違反で解雇のうえ王都から追放。女性の方もヴォールング王国へ強制退去させられた」
「へ・・へぇ・・・」
「芋ずる式に結構な人数が捕縛されてね、ヴォールングの間者も数人捕えられた。そして今回の事は正式に抗議をさせてもらった」
「じゃあ、レイが襲われた事を?」
「いや、そこは向こうも言えないだろう。俺を襲った事を正式に公言してしまうと、戦争になるからね」
「確かに・・・これが両国の落としどころってとこなのかな。相手方に貸しを作れただけでも儲けものね」
「まぁな。俺がやられなければ徹底的に追い詰める事も出来たんだろうが・・・いくら本調子でなかったとはいえ、情けない。帝国では最強とまで言われていたくせに、こんな事になっては、国民も幻滅するだろうな」
「そんな事ないと思うよ。国民はきっと純粋にレイの事心配すると思う」
そう言いながらレイの頭を慰める様に撫でれば、嬉しそうに目を細めるその表情は何処か色気があって、思わずドキッとしてしまった。
きっと顔が赤くなっているであろう私の目元を、レイはそっと撫でた。
「ありがとう。エリにそう言ってもらえると、気持ちが楽になる」
とろっとろの笑みを向けられると、酷い動悸に襲われて思わず胸を押さえてしまった。
「取り敢えずは安全を確認できたから、エリが我が帝国に滞在しても大丈夫だ」
「そ、そう。楽しみだわ」
無駄に顔が良いから、見つめられると心臓が壊れそうよ。辛いわ・・・・
目にも心臓にも毒な甘い蕩ける様な笑みを向けられれば、懐かしくも切ない胸の痛みと共に、苦いものが込み上げてくる。
そんな気持ちになればなるほど、好きなんだなぁと思うのに「竜芯」を受け取り拒否なんて・・・・
真剣にレイの事を考え向き合うと決めたけれど、考えれば考えるほど、何故か不安にしかならない。
日本に住んでいた時とは違う。ここには私の縁があるのだと言っていた。そう自分に言い聞かせるも・・・・でも、やっぱり不安になる。
―――皆が私から離れていくのではと・・・
ならば「竜芯」を飲めば、少なくともレイは私の傍にずっといてくれる。
レイは私を好きだと、愛してると言ってくれるのだから。それに「竜芯」を飲ませたくてしかたがないのだと言うし。
その言葉は天にも昇るくらい嬉しいし、幸せを感じる。
でも、それは今だけの感情だったら?明日には気持ちが変わっていたら?
レイは竜親族にかぎってそれは無いと言っていた。一生一人だけを愛するのだと。
だけど、絶対ってないよね?例外ってあるよね?
素直に気持ちを受け取ればいいのに、ひねくれてるって自分でもわかる。
でもね、日本で体験してきた事は少なからず傷になって残ってるものもある。
だからレイの気持ちも真剣に受け取れなかったのかもしれない。
だって、のめり込めばのめり込んだだけ、裏切られた時キツイもの・・・
それにやっぱり、私の気持ちも本物なのかわからない。
つまりは、信じていると口で言いながら、信じ切れていないのだ・・・自分の事も、他の人の事も。
レイの事で悶々と悩む私を見て嬉しいのか、彼は私の髪に指を絡めたり頬にキスまでしてくる始末。
「ちょっ・・・レイ!」
睨んで咎めるも「俺は全力でエリを落しにかかっているんだから、このくらいは許してほしいな」なんて言うものだから、何だか泣きたくなる。
真剣な話をしていたはずなのに、いつの間にか私を口説き始めたレイ・・・・そして、私はやっぱりレイの膝の上なのだった。
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