第30話
私は自分が感じている不安を、レイに伝えた。
好意を示してくれるのはありがたいし、嬉しい。
でも、それに対し明確に返事ができないのは、レイに悪いし不誠実だと思ったから。
だから、馬鹿正直に話した。
「竜芯」を飲む、覚悟がないって。
これで愛想を尽かされたのならば、それまでの関係であり、そこまでの気持ちだったって事。
正直、嫌われたら泣きたくなるほど辛い。想像しただけで、胸が締め付けられて涙が出そうよ。
あぁ・・こんなに嫌われたくないって思っているのに、「竜芯」飲むのが怖いなんて・・・
好きだ、愛してるって言ってくれているけど、助けてもらったから勘違いしてるのかもってどこかで思っている。
それにたった一枚しかない大切な「竜芯」を、私の所為で無駄になんてさせたくないもの。
現実問題、こんなに綺麗でカッコいい男の人が、私を本気で好きになる?
私に対しての気持ちなんて、吊り橋効果に似たようなものから来てるんじゃないのかな。
私にとっては、ここに居る間だけの関係だと思っていた。
それが、たまたま彼の国へ観光しに行くことになって、お付き合いが延長される事になった。
友達としては付き合いが続くかもしれないけど、それ以上は無いだろうとも思っていた。
そう、思っていたのに・・・・
要領の得ない私の説明・・・もとい、言い訳を黙って聞いていたレイ。
「つまりエリは、俺の気持ちが今だけなんじゃないかって、疑っているってことだよね?」
「疑っているっていうか・・・一時の熱病みたいな・・・とは、思ってる」
私の言葉に傷ついたような表情のレイは、抱きしめる腕に力を込めた。
「エリ。エリは人族と竜人族の違いって何かわかる?」
彼の質問は身体の作りだとか、外見だとかの事を言っている訳ではないのはなんとなくわかった。
「う・・・ん。一途さ?」
「まぁ、一途な事は確かだけど、愛の重さかな」
書物の中ではただ「竜人はたった一人を愛する種族」と書かれていた。
とても簡潔に書かれていたから、私もそうなのかってくらいにしか思ってなかったけど。
「竜人は一人の人にだけ愛を捧げる。今では『番』除けの様に「竜芯」を交換し合っているが、それを交換しなくてもたった一人を愛し続ける。
対して人族は比較的移ろいやすい。だから男女問わず浮気をしたりする。人族は主に男性が、何人もの女性を囲う事が常識になっているようだけどね」
竜人族からしてみれば、信じられない事だけど、とレイは不快そうに眉間にしわを寄せた。
まぁ、人族の男性は女性を子を産むための道具にしか思っていないとも、書物に書いていた。
それが超不快で、その先を読むのを止めたのよね。ちょっとだけ救いだったのは、平民たちの結婚は恋愛結婚が主流だという事だけだったわ。
「竜人族は、たった一人を愛し慈しむ。竜人同士では当然の行為だけど、他種族から見たら、それはとても重いもののようなんだ」
「え?そうなの?・・・・私からしてみれば、浮気する事無く自分一人を・・・私だけを愛してくれる。とても幸せな事だと思うけど」
「エリは、そう思ってくれるんだね。ありがとう」
「いや、お礼を言われるほどの事でも・・・それに、種族関係なく、一途な事は女性としては嬉しい限りだと思うよ」
「ならば、エリは俺の事を信じてくれる?」
「え?」
「俺の気持ちは勘違いではない。助けてもらったから好きになるなど、そんな簡単に好意を寄せることは無い。俺はエリを、心から愛している」
美しい琥珀色の瞳が、至近距離から私を捉える。
その瞳の美しさに目が離せなくて、彼の真摯な告白に全身が熱くなりふわふわする。
でも、そんな私とは正反対の表情のレイ。熱い告白をした人とは思えない顔をしていた。
「愛しているが故に、俺は怖いんだ」
綺麗な顔が、苦しそうに歪んだ。
「『番』が怖い・・・もし『番』が現れたら、俺のエリに対する気持ちはどうなるのか・・・本能に負けて『番』の手を取って、死ぬまで苦しむのか・・・」
緩く抱きしめるレイの腕が、かすかに震えている。
「本当は今すぐにでも「竜芯」を飲ませ、安心したい。でも、俺の気持ちだけじゃダメなんだ。どれだけ愛していても」
いつもと変わらない口調なのに、苦しみもがく様な叫びに聞こえたのは、気の所為ではないだろう。
これほどまでに想ってくれているのだと改めて実感し、そして申し訳なく思った。
私は恥ずかしいと言うだけで、真剣に考えていなかったのかもしれない。
ここまで私の事を想ってくれている。
でも・・・やはりどこかでストッパーのようなものが働いて、そこから先に進むことができない。
レイの事が好きな事は間違いないのに・・・・
ただ、苦悶の表情から少しでも解放してあげたくて、その頬をそっと撫でると、甘える様に頬を摺り寄せてきた。
「有難う・・・そして、信じれなくてごめんなさい。わたし、こういうの慣れないから、ただただ恥ずかしくて、真剣に考えていなかったのかもしれない。でも、ちゃんとわかったから、私も改めて真剣に考える。だから、少しだけ・・・もう少しだけ時間を貰えないかな?」
今言える精いっぱいの言葉がこれなんて、正直情けないけど私にも自分がどう思っているのか考える時間が必要だと思った。
「わかった・・・」
私への気持ちが伝わった事に、安堵の表情を見せた後、また不安そうに微笑んだ。
私はレイが好きだ。お付き合いしてもいいと思うくらいは。
だけど、またも不安が生まれてくる。
坂道を転がる様に、どんどん傾いていく気持ち。あまりにも急に惹かれていって、この気持ちが本物なのかと不安になる。
そして、膨らみ続けるこの気持ちが、怖い。
竜人の心臓に匹敵するくらいの、大切な「竜芯」。
「竜芯」を交換した後に、後悔されるんじゃないかと・・・
日本にいたときと同じく、すぐに別れてしまうんじゃないかと・・・・
この時の私は、理解したようで全く理解していなかった。竜人族の愛の重さと言うやつを。
日本にいた頃の常識でしか物事を考えられなかった私は、一人無駄な事に悩み続けるのだった。
**************
少し書き直しているところあります。
久しぶりの更新で続き書いていて、繋がらなくなってきて・・・ヤバイです (>_<)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます