第20話


「え!?」

「エリ様??」

「ならば、アーンバル帝国へ招待する!」


「え?え?何??」

三人から一斉に詰め寄られ、わたわたしていると「だってエリ様、外に世界に出てみるって・・・」とルリ。

「げっ!私声に出してたの??」

「えぇ、しっかりと」

スイも頷き、レイは可愛らしくも綺麗な顔をキラキラと今以上に輝かせている。

皆の圧がすごくて思わず仰け反りながら、「いや、どうしようか迷ってる段階で・・・」しどろもどろで返せば、レイがそれはそれはいい笑顔で提案してきた。

「俺が完治し帝国へ戻る時に、一緒にいかないか?」

「え?帝国へ?」

「あぁ、エリは命の恩人で礼をしたいのもあるが、見ず知らずの国へいきなり行くよりは、俺の国で色々慣れてくれればいい」

なるほど・・・ここは結局は私の世界の常識で回っている。

というか、ルリとスイしかいないから、それほど生活常識に差異が感じられなかった。

でも、種族ごとに生活様式も常識も違ってくるはず。

私がいた世界で、日本と外国の生活文化や常識が違ったように。

「そうね・・・観光って事でお邪魔してもいいかしら?」

私の言葉に「喜んで!」と、どこかの居酒屋の店員の様な返事を返すレイ。

ルリとスイもいるから、大丈夫よね?初めての海外旅行に行くような気がして、ちょっとワクワクしてきたのは仕方がない。


いずれ会うことも無くなるんだから、あまり親しくはしないほうがいいんだろうけど・・・まぁ、友人枠という事での付き合いでもいいわよね?

海外に友達ができたって感覚で。

魔道具で手紙のやり取りもできるんだし、レイならここの事、誰にも言わないと思うし。

「ふふふ・・・私、前にいた世界でも旅行ってほとんどしたことがなかったの。ましてや、自国から出たことがなかったから、楽しみだわ」

いつになく浮かれる私を、ルリとスイは嬉しそうに、レイは頬をほんのり染めながらも嬉しそうに笑った。


それからの毎日は、レイが居るとはいえ普段と何ら変わることは無かった。

レイは父である前帝と頻繁に文を交わし、時には決裁書類まで送られてきて、文句を言いながらも仕事をしている。

そして何より、日を追うごとに成長していく彼を、私は不思議な生物でも見てしまうかのように、毎日、観察していた。

「レイ・・・昨日よりも背が伸びてるわね・・・」

五日も経てば、容姿はまだ幼さを残しているものの凛々しく、背丈は私をわずかに追い越してしまった。

ルリとスイは元々背が低いので、あっという間だったけれど。

「あぁ、順調に回復しているようだ。俺も早くエリを国に招待したいからな」

そう言って笑う顔は、自信に満ちたまさに覇者の顔。

思わずドキリと胸が高鳴ったけれど、子供だと思ったのが(中身は大人だけどね)日ごとに成長していく・・・

「なんか、姉が弟の成長を早送りで見てるみたい・・・」

「・・・それは語弊があるぞ。俺はエリより遥かに年上だ。明日は今より、明後日はそれ以上に、元の姿に近づいていく。俺が本当の姿に戻っても、変わらずに接してくれよ」

そう言って私に抱き着き、甘える様にその頭に頬を摺り寄せた。

「いや、本来の姿でこんな事したら、色々まずいんじゃないの?」

「え?なんで?」

本当にわからない・・・みたいな顔して・・・可愛いんだから!

「レイは皇帝でしょ?恋人や婚約者でもない女性に、今みたいな事したら、誤解されるわよ」

「エリも誤解してくれる?」

ほんの少し首を傾げ、私の瞳を覗き込むその仕草に、大人のレイを見た気がしてドキドキしちゃったわ。

「そうね、誤解しちゃいそうだわ。でも、今のレイに手を出したら犯罪者なっちゃうわ、私」

「犯罪者?」

「そうよ。本当の年齢が私より年上でも、この見た目はどう見ても少年よね。私がいた世界では確実に捕まっちゃうわね」

この姿のままだと、ヤバいじゃすまないわよ。

そう話すとレイはちょっと考える素振りをした後、にっこりとほほ笑んだ。

「じゃあ、やはり俺が本来の姿に戻ってからも、今と変わらず接するしかないね」

「え?」

「だって、今は弟の様に接してくれているけど、大人の姿に変わったからって急に態度を変えられるのも悲しいだろ?」

「まぁ、うん・・・そうかな?」

「俺は寂しい。あれだけ抱きしめられて頬擦りされて、ご飯を食べさせてくれて。それを突然止められたら寂しくて悲しくなる」

昨日まで可愛がっていたのが、今日急に突き放す・・・なんて、された方は傷つくよね。する方も辛いけど。

「う~ん・・・でも、大人のレイに同じようにするには、恥ずかしいかも」

「大丈夫。毎日、挨拶の様に習慣づければいいんだよ。そうすれば、慣れるから」


「ねっ」と、どこか圧を感じる笑顔に押し切れら、思わず頷いてしまった私。


幼いままならまだしも、日に日に成長し続ける美しい青年を前に、冷静に考えなくても、たかだか十日で慣れるはずなどないのに。

圧に負けて安易に頷いてしまった私。

後々、後悔する事をその時は知る由もなかった。

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