第19話
お昼を食べてお腹が満たされると、やはり又、睡眠欲が顔を出し始める。
「ルリはアーンバル帝国に着いたかしらね」
あぁ・・携帯電話モドキを作っておくんだった!
まさか、こんな事になると思っていなかったからそこまで考えてなかったのよね・・・
三人でソファーに座りお茶を飲みながら、私は今後必要であろう魔道具をいくつか頭の中で並べる。
ほわほわし始めた頭で、目を閉じてしまおうか・・・と思った瞬間、左肩に何かがぽすんと当たった。
「へ?」と、半分閉じ始めた目で見れば、黒い頭がゆらゆらと揺れながらもたれかかってきた。
三人で座るソファー。
私が真ん中で、右がスイ、左にレイが座っている。
スイはすでにひじ掛けに頭を乗せ夢の国へと旅立っていた。
レイも子供の姿になっているとはいえ、体調は良くない。
身体が睡眠を欲しているのだろう。
ゆらゆら揺れる身体を抱きしめると、安心したのかふっと力が抜け完全にもたれ掛かる様に身を寄せてきた。
そして私もレイの肩を抱きよせながら、抗えない睡魔に屈し目を閉じたのだった。
再び目を開ければ、空はまだ青くそれほど時間が経っていない事が分かった。
良かった・・・と、ホッと胸を撫でおろし肩を抱いたままのレイを見た。
彼はまだぐっすり眠っているようで私が動いても、ピクリとも動かない。
スイも目覚めることなく、ぐっすりだ。
私は二人を起こさないよう立ち上がり、ブランケットを掛けてあげると、少し早いけれど夕食の準備をしようと台所へと移動した。
ルリには大変な仕事を任せてしまったから、彼女の好物をたくさん作ろう。
多分、そんな遅くない時間に帰ってくるはずだ。
兎人族なだけあって、そこは期待に裏切らず、人参大好きな双子達。
頭の中で人参フルコースを考えながら、二人が寝ている間に下拵えを終わらせようと、結構な数の人参を台所シンクに下した。
ルリが帰ってきたのは、夜の七時を回った頃だった。
転移で帰ってきたルリは、疲れた表情はしていたけど、怪我もなく元気な様子にホッと胸を撫でおろした。
子供の姿のレイに驚いてはいたものの、前皇帝からの手紙を預かってきたと差し出した。
「前帝様は驚いてはいましたが、陛下がご無事と聞いて安堵しておいででした」
そう言いながら差し出された手紙を読むレイも、ホッしたように表情を緩め、改めてルリに礼を述べた。
律儀な事に私にも、ルリを貸してくれた事に対してのお礼をしてきたのだった。
頑張って作った人参フルコースに大喜びの姉妹と、「血が足りないんだから、沢山食べなさい」と私に無理矢理食べさせられるレイ。
食事を済ませた後、ルリの話を改めてみんなで聞く事にした。
「前帝様は陛下が復帰されるまで代理を務めてくださるそうです。それと並行して犯人を探し出すとの事。陛下の件は怪我をされて養生しているという事にするそうです」
「え?そんな事言っちゃっていいの?」
「はい。何故怪我をしたのか、どこでしたのかは一切公表しないそうです。養生先も」
わたし的には、内緒にして犯人を捜した方がいいような気もするけれど・・・
「それに関しては俺も賛成だ。裏切り者は、その話を聞いてすぐにヴォールング国に報告するだろうから、父上はそのタイミングを狙っているのかもしれない」
「な、なるほど・・・」
「転移フラグは前帝様の執務室と結んできました。それは手紙のみの転移可能フラグです」
それに対し私が補足説明をする。
「この部屋のあのトレイテーブルの上に手紙を置いて、魔力を流せば自動的に送られるから。向こうからの手紙もそこに来るわ」
玄関の脇に、高さの違うトレイテーブルが二つほど並んでおり、背の低い方には可愛らしい花が咲いている鉢植えが置かれている。
背の高い方には綺麗な色とりどりのガラス玉が置かれていた。
置かれているガラス玉は、神様達から貰ったもので、一つ一つに神力が込められているが、それは秘密。
その上に手紙を置いて、魔力を流し転移させるのだ。
「人が移動できるフラグは、前帝様のお住いの近くに立ててきました」
フラグが立っているからといって誰もが使える訳ではないが、安全性を考え内密にしたい。
よって、前帝にも許可は取っていないとの事。
なので、皇帝でもあるレイに今許可を求めたのだ。
事後報告になるが、レイはかまわないとあっさりと頷く。
「いくら使用に制限があるとはいえ、悪用される可能性もある。ルリの判断は賢明だ」
「ありがとうございます」
う~ん・・・色々考えての事なのね・・・
私的には、レイが怪我した事を隠して背信者を探すのが良いと思っていたのよ。最強の竜帝が傷つけられたなんて、国民が不安になるんじゃないかと思うから。
でも、それはこの世界の事を知らない私の考えであって、この世界で生きる彼等には彼等の考え方ややり方があるんだと、改めて知った気がする。
本の中だけでは、やっぱりわからない事が多いわよね。
神様に出会ったときも思ったけど、何というか・・・本当に異世界なんだなって、今更ながらに実感した感じ。
まぁ、それは頻繁に感じてはいたわよ。兎人族と会った時もだし、黒龍と会った時もだし。魔法が使えた時が一番だったかな・・・うん。
ただ、ルリとスイ以外の、この世界の人達と接していないから、狭い世界だけにいると気づけないものなのよ。その世界の国々の事情や常識が。
―――この世界で生きていくのなら・・・一度、外の世界に出てみる事も必要なのかも・・・
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