呪いの池

 ケイが退院して学校に復帰したが、僕の顔を見るとひどく怯えるようになっていた。放課後に呼び出されたので警戒したが、彼は頭を抱えて、

「頼むから池に沈める夢を見せないでくれ」

土下座までしようとするから、何のことかわからないと胡麻化してその場を離れた。

「一週間くらいで夢も終わるよ」池中さんが言った。

 新たなうわさが流れていた。おばけ沼に行くと呪われる。前々から囁かれていた「おばけ沼にはおばけが出る」に尾ひれがついたのだ。もちろんおばけ沼は池中さんが沈んでいたあれだ。沼の方がおどろおどろしい感じがするから、誰も池とは呼ばない。誰も行かないような町はずれにある、汚い池。

 その池に僕たちは戻ってきていた。初めて会ってから10日。冬の乾いた青空が、濁った水に写っている。財源の不足とかでここ30年以上清掃もされていない池。そこに沈んでる池中さん。捜索はされなかったんだろうか。

「殺されたとか」僕は池中さんの未練に思いを馳せて訊いた。

「そうじゃない気がするんだよね」

「じゃあ自殺?」

「そう、かも」

時折小さな魚が跳ねて、波紋が広がる。

穏やかな、緑の小さな池だ。こんな浅い池で死んでしまった池中さん。

「あたしの体はエビとかカニとか小さな魚とかに分解されて、記憶まで食べられてった。なんでか浮かぶこともなくって、でも安心してた。君が来るまで」

池中さんが急に喋り出した。

「君がケータイを探して池の中を探ってた時、運命の人だって思ったんだよね。この人が、あたしの未練を断ってくれる人だって」

「池中さん?」

「わかっちゃうんだよね。今日、終わりがくる」

終わりが来るの、と池中さんは繰り返した。

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