012 - 修業は死なない程度に死ぬ程辛い04
魚を捕まえる為に水の中に入るけれどちょっと冷たい。水中入っても濡れにくいし息が出来る潜水用のガルの魔法があるんだけれど、そもそも泳げないから水中はあまり授業取ってなかったんだよ、俺。
「とりあえず、3匹ずつを目標に」
「はい!!」
目隠しをすると足が着く所まで潜り、気配を消す。そして周りを静かに注意深く探る。ロンが少し離れたところで魚を探している動きに、微かに動く魚の気配。
横を通り過ぎる魚はまだ稚魚だ…と思う。よし、それなりに水中の感覚は掴めている。
そのまま5分程水の感覚に慣れてから一度水面に顔を出して息継ぎをする。
「リュシアン本当に素潜り5分だ…凄い…」
「まだまだ短いからね、俺…」
「魔法が上手く出来ないから師匠に相談してる所だから気にしないで潜ってきて」
「わかった」
再度潜ってからやっと1匹捕まえて陸に上げる。結構大きな魚だったと思う。
結局2時間やって合計8匹。俺が5でロンが3。コツ掴むまでに時間かかるからね。
「初めてにしては上出来だな、ロン。リュカはまぁまぁだな。」
「え、そうなの?ありがとうございます」
「ああ、シャルフならもう1時間追加させたがな」
「捕った数が少ないってよく怒られたなぁ…」
「こんな事で息切らせているようだからまた今度も川だな」
「魚捕まえるの大変だからね!師匠!!」
「俺だって昔やっていたから知っているわ」
師匠も若い頃相棒の
リゼが晩ご飯の支度を始める前に外の水場付近で魚の処理をするのも俺達の仕事なので急いで処理をする。ロンはこういう事もあっという間にこなせるからすごいなぁ。
「じゃあ、リゼ!ご飯お願いします!」
「はい、頑張って作るね!」
「風呂上がったら手伝うから」
俺だけびしょ濡れだったからね。ロンは魔法で保護したみたいであまり濡れていなかった。
俺が出るとその後ロンが風呂に行ったので、リゼの手伝いをしに向かう。
「お兄ちゃんも休んでいればいいのに…ロンさんも手伝ってくれてたけれど…」
「今日はそこまでキツく無かったから大丈夫だよ…って師匠いないじゃん」
「あ、おじいちゃんは残りの調合終わらせてくるからって作業室にこもっているよ」
「そっか…何手伝おうか?」
「じゃあサラダ作ってもらおうかな」
野菜を水に浸けてあるのでそれを言われた通りにカットしたり並べたりするだけなんだが、リゼットは凄く助かるって言ってくれている。
「そういえば昼はお弁当届けたんでしょう?ロンに」
「うん、行ってきたよー!公園で一緒にお昼食べた」
「2人だとどんな話するの?」
「え、あー…何か私だけ喋っててロンさん相槌ばかりで…私と一緒なの嫌だったのかな?」
「緊張したんじゃない?」
「そうなのかなぁ?嫌われてたら嫌だなぁ、ここ来づらくなるじゃない」
「大丈夫だって、それは絶対に無いから、断言出来る」
逆だよ、逆。むしろ好意しかないから。リゼット愛らしいって言っている人だよ。
「断言出来るってなんでよ…」
「いい子だねってちゃんと言ってもらっているから!嫌いだったらご飯食べてくれないと思うよ。ところで、リゼはロンの事どう思ってるの?嫌?」
「ハーフエルフって聞いて驚いたけれど、綺麗な男性だなって思ったのはエルフの血だからだったのかな。とても紳士的だし喋り方も柔らかいし、博識だし、お兄ちゃんがロンさんを凄く好きだし、逆にロンさんもお兄ちゃんの事好きみたいだし、私も好きよ」
「俺の事好きな人が好きなの?」
「うん、私の大切な家族を大事に思ってくれている人を嫌いになるわけないじゃない」
「そうだな、俺もリゼや母さん…それに師匠を大切に思ってくれる人は好きだな」
本当、いい子だなぁ。お兄ちゃん泣きそうだよ。
父さんが亡くなってからリゼットが前よりも師匠の所に来ているのはきっと寂しかったからだろうね。父さんに似た所がある師匠は本当に祖父なんだか父なんだか…そんな感じがするから。
「ふふ、私もおじいちゃん大好き」
「好い人が出来たらリゼは師匠の所来なくてもいいんだからね」
「え、なんで?おじいちゃんの手伝い出来る人他にいないじゃない」
「大切な人を大切にして欲しいって多分師匠も思うだろうから」
「うーん、おじいちゃんも大切にしてくれない人は好きにならないだろうな」
「どういう人が好みとか聞いた事なかったねそういえば」
「今言ったじゃない、家族の事を大切にしてくれる人よ!欲を言えば私の事も大切にして欲しいかなぁ」
「優先順位逆じゃない?リゼを大切にして、更に家族を大切にしてくれる人だよ」
一瞬キョトンとしていたが、すぐに「そっか」と笑いながらも料理の手は止めないから凄い速さで色々料理が出来上がっていく。いや、本当上達したなぁ…こんなに料理上手だしいい子だからどこに出しても恥ずかしくないぞ、天国の父よ。
「お兄ちゃんにも好い人出来たらちゃんと紹介してね!きっとお兄ちゃんの好きな人なら私も好きになるわ!」
「まぁ全然相手いなさそうだけれどね…」
「お兄ちゃん小さいからね…」
「あ、やっぱそこ?」
「稼ぎはまぁそこそこありそうだけれど…身長はねぇ…ロンさんくらいスラッとしている方が勿論目を惹くけれど、お兄ちゃん顔も多分悪くないし性格もいいし優しいからモテそうなのになぁ…私の友達には人気あったのよ」
「え」
リゼットの友達!?そうだったの!?全然意識もした事なかった。
俺気付けば男だらけの世界で生きてきたからな…。
「リゼもいい子だから人気ありそうだけれど、なんで彼氏いないの?」
「え、うーん…興味ないから全部断ってきたよ」
「告白はされたのデスカ!?」
「うん、何回かあるわよ」
お兄ちゃん知らなかったよ!でもそれでもリゼットが気に入った奴がいなかったんだな、よかったよかった。変な人連れてこなければいいとは思っていたが、いなかったってわかると何かやっぱり安心してしまう。
「好きな人が出来たらお兄ちゃんとおじいちゃんに相談に乗ってもらおっと」
「話聞くくらいなら出来るけれど参考にはなんないよ、俺じゃ」
「いいの」
可愛い我妹に変な虫が付かないといいな。それに、本気でロンくらいのいい奴じゃないと許さないって思ったから多分ロンなら許すんだろうな。話しながら作っていたのにちゃんと時間通りに出来たしちゃんと美味しかった。
食事も終わり、リゼットを送ってから寝る前に少しロンと話をする。
「なあ、ロンよ…」
「なんだい?」
「君は折角の2人きりを無駄にしたそうじゃあないか」
「へ?」
「リゼに、私ロンさんに嫌われているのかな?って聞かれたよ」
「えええ!?逆だよ、逆!むしろ好意しかない!」
俺が思ったのと同じ事を言った…。
「あまりにも嬉しくて顔緩みそうで引き締めて、喋る事聞いて可愛いなと思っていたしとても優しい話で心あったまって午後頑張れたというのに!!」
「うん、全部向こうにはつまらなそうにしている、と思わせていたそうだ」
「なんと…やってしまった…緊張して口が上手く回らなくてね…静かに聞いていようとしたのが間違いだった…でも上手く喋れない!」
「うん、何か安心する。イケメンでもそうやって取り乱すの安心する。」
「こんなになったのは初めてだよ!」
「ロン俺の事好きか?師匠の事も好きか?」
「え、うん。僕を受け入れてくれる優しい君達を大切に思っているよ」
「うん、リゼの好みのタイプに近いな」
「へ?」
いっそ、いいんじゃないか?2人…。本気で考えてみて…ロンとリゼット…悪くない!ちょっとロンがイケメンすぎて心配になるけれど、大丈夫だろう。
「応援、するよ」
「え?何を急に?」
「リゼは師匠含め家族を大切にしてくれる人を好きになるそうだ、欲を言えば私の事も大切にして欲しいって言っていたけれどな」
「ふふっ…逆じゃない?優先順位…でもとても優しい彼女らしいね」
ロンとリゼットが今後どうなるかは分からないけれど、皆幸せになれたら俺は嬉しい。だって俺の大切な人達に悲しい顔は似合わない。
それからの修業も全部毎日キツイけれど徐々に強くなっていくのが分かる。ロンが。
俺は自分の事だからそんなに分からないけれど力はついて来ていると思う。
今日の修業が終われば明日は寮に帰らないといけない。リゼットは凄く忙しかっただろうに、それでも俺達が戻ってしまうのが寂しいと言っている。
風呂も晩ご飯も終わりお茶を飲んでいる時に師匠に頼まれごとをされてしまった。リゼット送る時間になったのだけれど、仕方なく一軒届け忘れた所があった薬を受け取る。
……あ、そういうことか!と気付いたのはロンと目が合った時。
「ロン!俺師匠におつかい頼まれたからリゼット送ってくれよ」
「え、僕が行ってくるからリュシアンが送って行ってあげた方が」
「早くしないと寝ちゃうかもしれないから行くよ!リゼ!また明日朝ね!」
「え、あ、うん、いってらっしゃい」
頼まれた物を持って急いで届け先に行くと、本当に今日届けないといけない物だったらしく喜ばれた。
帰りはゆっくりと歩いて帰ろう。のんびりと空を見上げながら歩いて師匠の家に着いたところでロンも歩いてきた。
「ありがとう、ロン!」
「わざとでしょう、2人して…」
「いや、本当に今日届けないといけない物だったんだよ」
「お母さんから、仕事大変だろうけれど健康には気を付けて頑張ってねって伝えてって言われたよ。やっぱリュシアンが行ってあげるべきだったんじゃ?」
「いいよ、次の休みに泊まりに帰るから。リゼと話せた?」
「あ、何かふわふわしていてあまり覚えてないけれど…今度休みの時にランチに誘われた」
「お?」
「師匠とリゼットさんと僕で」
「ん、師匠邪魔」
薬の話とか今回あまり出来なかったからそれの集まりなんだろうけれどね。それでも師匠邪魔!って思ってしまうのはやっぱり俺は応援してしまっているのだろう。
翌日はいつも通りリゼットが朝食を用意してくれていて俺たちはいつもの様にそれを頂いた。
今日は修業の最終日。2人で配達を早々に終わらせると森の中で川沿いの座りやすそうな岩の上で足を組み静かに瞑想をする。
「やってきた修業で思った事学んだことをしっかり復習し身に付けるようにゆっくりと整理させてから帰ってきなさい」
それだけ言って師匠は家に戻っていった。いつも修業の最後はこうして瞑想をするのが恒例。2人とも2時間に満たないくらいの時間で切り上げて家に向かう。
「時間無い中での修業で詰め込まれてたけれど、今回は基礎中の基礎みたいなものだろうな…まぁ基礎が出来てなければ、でしょ?」
「そうだね。ちゃんとした基礎を忘れていたなと思えたから師匠に出会えてよかった」
「これからは一緒には来れないかもしれないけれど、また師匠を尋ねるといい…まぁなかなか来れないけれどね」
「こんなにしてもらえて授業料安すぎて驚いているんだけれど」
「食費と光熱費くらいしか取らないんだよね師匠。それよりも、あんなにしっかり栄養管理してくれたリゼに給料たっぷりあげたいくらいだ」
色を付けてと多めに払うんだけれど、本人は薬師としての仕事あるからいらないとか言うんだよ。塾みたいに訓練校通っている人たちよりも濃い修業させてもらえるしちゃんと身につくからあっちに授業料払うんだったら師匠に教わる方がいい、絶対。
「ま、本人は他に広めるなって言っているから弟子そんなにとりたくないんだろうけどね」
「本職が薬師って言ってるもんね」
「師匠はロンを気に入っているみたいだから顔出してあげて、お茶しに来るでもいいから…俺のじいちゃんみたいなもんだからね」
「そうさせてもらうよ」
家に戻ると荷物をまとめて師匠にお礼をして早めに寮に向かう。ゆっくりしているとやっぱり俺だって寂しいんだよ、家を出たくなくなるからね。
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