011 - 修業は死なない程度に死ぬ程辛い03




 師匠が魔法を発動し、自身の手に灯すとその手で俺の足や腕、腹に背中に触れてくる、それから言われるまま身体を動かしてみせる。体内の損傷を探すレントゲンみたいなものだっていう。


「少し足に負荷をかけすぎているからしっかり上半身も使いなさい、それに筋肉ばかり使いすぎていると壊す」

「はい」

「まぁそれでも重しはつけるけれどな」

「ああ、やっぱりぃ」


 手足の重しはしっかり付けられて、装備を整え山目掛けて走って行く。山掃除とは魔物がいたら退治し駆除対象の動物を狩り、そしてゴミをちゃんと拾ってくる本当の山掃除。首吊りしている人とか見付けた時は本気で怖かった。

 配達の時は時間オーバーしたし、今度は絶対時間内に終わらせるとがむしゃらにやっていたら無事に時間内に半分終わっていた。


「猪2頭か…担げるな」


 駆除した動物はちゃんと役所で引き取ってもらって処理してもらう。猪肉は処理して売ったりするらしい。役所に持って行って頼むと急いで師匠の家に戻る、途中でリゼットを拾った。


「うわぁぁぁお兄ちゃん怖い!怖い!」

「黙ってないと舌噛むよ」


 買い物してきたらしい妹を抱き上げて全力で走って師匠の家に向かっている。これもいいトレーニングになるから大人しく運ばれてくれている妹に感謝だ。


「師匠!猪2頭駆除したのを役所に届けてきました!」

「何でリゼ連れているのだ?」

「大きな買い物袋持ってたからついでにトレーニングがてら運んできた」

「めっちゃ速くて怖かったんだけれど」

「リゼ軽いからあまり重しにならないけれどね、何かを担いで走るっていう練習もしないといけないし、助かったよ!仕事これで送ってもいいんだぞ」

「嫌だよ!恥ずかしい!ってかもう、降ろしてー!」


 降ろしてあげるとちょっとムスっとしていたけれど怒ってはいないみたいだった。

 拾ってきたゴミの分別までして捨てると後は精神統一の修業を言い渡されたので屋根の上に登っていく。


「いい景色」


師匠の家の周りはなにもないから見晴らしがいい。実家も見える。

足を組んで静かに瞑想を始める。今日やったことを整理させ、心を落ち着かせる為の大切な修業の一つ。

リゼットの「ご飯出来るからお風呂入りな」って声が聞こえたので瞑想をやめる。今日は色々自分を知れたししっかり学校で習った事、修業してきた事を思い出して動けるようになってきた。随分と騎士をやっている間に怠けていたものだと自分が恥ずかしくなった。

 風呂から上がってご飯を食べてまたリゼットを送ってとその間も「傲り」という言葉が頭をぐるぐる巡っていた。


「お兄ちゃん何だか元気ないね、なんかあった?」

「ああ、俺はどうやら皆を見くびっていたみたいだ」

「そうなの?」

「俺が本気を出したらこの人たちに怪我させてしまう、だなんてただの傲りだって…言われて、確かになぁって思ったんだよ。シャルフとしての能力使わないただの…普通の俺よりも皆強かったのにね…」

「気付けてよかったね」

「え」

「しかもまだ若い内に!これから直せるじゃない!」

「…うん、そうだね!」


 リゼットに言われてちょっとだけ楽になった。そうだ、これから直していけばいいんだもんね。俺はまだ20だ、若い内に気付けたのはラッキーだった。落ち込んでいても仕方がないから明日もっと上手く出来るようにもう少し戻ったら瞑想しないとな!


「お家着いたから早く戻れば?」

「え、ああ…でも」

「早く帰って何かしたいってソワソワし始めてるの分かるよ!じゃ、ありがと!おやすみなさーい!」

「え、あ…おやすみ」


 ブンブン手を振りながら家に入ってったのを見送って「ハハッ」っと乾いた笑いが出てしまった。妹って意外としっかりと見ているんだな、俺の事。お言葉に甘えて急いで戻ってからまた瞑想をし始めた。


 翌日はリゼットの作ってくれた朝食が並んでいて凄いありがたく頂いた。修業もしつつ自分で作るのは大変だからね。


「今日はロンが配達だな」

「はい」

「リュカはまず昨日の残りの掃除から」

「はい」


 早速ご飯を食べ終えたら装備を整えて魔法の重しを付けられてから山掃除に出発する。昨日の残りの半分を2時間半くらいで終わらせて午前中は師匠から魔法を貰ってそれを自分のマナコアから自分の身体に流す特別騎士シャルフの基礎訓練をする。なんとなく自然と出来るものなのだが、意識すればコントロール出来るから本当だったらガルと良くやっておかないといけないんだよね。


「ガルがいるんだから手伝ってもらえばいいだろう」

「まぁ仕事以外で頼むのもなんかね…ラフェルの彼女だしねぇあまり…」

「そういうと思って、今ロンにガルの修業をさせている」

「え」

「素質がある。例え同乗出来なくても資格があるだけでも仕事はあるからな。元々その為に修業させろとウィゼからも言われているしな」

「本人がやるって言っているの?」

「流石に本当に嫌がる事はさせないさ」


 キツイ修業の時は本当に嫌がったよ、俺。

 ジトっと師匠を見たら額を小突かれた。


「修業は別だわ」

「何でわかったの!?」

「リュカはわかりやすい!!」


 わかりやすい顔をしているらしい。

 基礎訓練を終えて昼食食べに家に入って気付いた。あ、今日配達中にリゼットがロンにお弁当届けるんじゃないの?大丈夫だろうか?

 心配していても仕方がないので休憩を挟んでから午後の修業を始めるんだが、また打ち込みしとけと言われた。どうやら今日も助っ人を頼んでくれているみたいだ。

 俺が打ち込みをしている近くで師匠は薬作りをしているので一応見ていてくれてはいるが、元々ガルだからあまり剣術には詳しくはない師匠が教えるのは限界がある。なので剣術は剣術の出来る人に頼むらしいが…。


「こんにちは、リュシアン」

「シャロンさん!?」

「はい、僕です」

「事務の仕事は!?」

「今日は人が多いから抜けてこれらたのでこっちの手伝いですー」

「シャロンは魔法だけじゃないからな」

「え」

「サーベルを少々」


 そう言うシャロンさんが細身の刀身の剣を手にしている。


「刃はない練習用だから安心してね、それにシャルフ相手だから当たらないでしょう?」

「え…ええええ!?」


 どうやら騎士団をあげて皆で俺達の修業に協力してくれているらしい。大丈夫ならいいえけれど、事務員さんまで来ちゃうって本当にいいのだろうか!?ラナさんまだ悪阻で大変だろうし…人手不足じゃ?


「油断しているとあっという間にやられるぞ、リュカ」

「へ?」


 シャロンさんがサーベルをギュッと握り胸の前に柄を握っている手を持ってくると反対の腕は後ろに回し腰に。俺も慌てて剣を構える。

 力強く踏み込んで正面から突きを繰り出してくるのを咄嗟に横にかわすけれどすぐに腕を返して攻撃をしかけてくる。身軽で素早い剣撃を弾いてかわしてが精一杯なんだが?


「僕も、少しは出来るでしょう?」

「少し…?」


 恐ろしい、この人は…と思った。初めて見る剣術にもやっと慣れてきたのは30分程打ち合ってからだった。それでも全然一撃も綺麗に決めさせてくれないシャロンさんの攻撃はめちゃくちゃ食らったよ、俺。


 今日も2時間しっかり打ち合うとシャロンさんが帰る時間になってしまった。まだまだ学べる事も多かっただろうに…残念だ。


「シャロンさん、怪我…」

「あー、僕は大した事ないけれどーリュシアンの方が心配だなぁ…はは…やりすぎてしまったねぇ」

「え、ああ…大丈夫ですこれくらい」


 ええ、ボッコボコにやられました。本当に強いんだよ、シャロンさん。実はこの人が最強なのでは?と思わせるくらいに。


「次はもう少し時間取れるといいんだけれど…僕は…また明後日これるかなぁ~」

「え、また稽古付けてもらえるんですか!?」

「稽古なの?僕は君と打ち合いしていたつもりだったんだけれどー…」

「それでも!俺は学べる事が多かったので!」

「そっかー、まぁ強くなってうちの騎士団盛り上げれくれたら助かるから頑張って」


 シャロンさんを見送って少ししてからロンが帰ってきた。初日の俺より早い。


「7時間弱か、早いな」

「魔法かかっているくらいなら動き様があるので…気付くのに時間かかりましたが」

「魔法使いならそれを上回る魔法応用で色々出来るからな」

「僕は靴とリストバンドに赤魔法使いました」

「魔法解除したって構わなかったんだがな」

「試みましたが、師匠の魔力には勝てませんでした」


 え?ロン頭よくない?俺全然そんな事考えた事なかったんだけれど?

 まぁそのやり方分かっても俺魔法使えないから出来ないんだけれどね。


「今日は残り時間川に行くとするか」

「か、川かぁ…」

「え?」

「安心しろ、これから滝とは言わないから。魚捕りに行こう。リゼにも魚捕ってくると言ってあるからな」


 それはあれですか、捕れないと晩ご飯なしのやつですね?頑張らないとサラダだけとかになってしまうから気合入れてかからないと。


「ロン、やるぞ…」

「魚釣るの?」

「潜るんだよ」

「銛で突くの?」

「素手だ」

「わぁお…」


 素潜りで肺活量を鍛え、気配を殺し魚に気付かれないように近づき、水中でも素早く動く訓練。それが魚捕り。

 今からの時間じゃ2時間が限界だろう。暗くなると魚も見えなくなるし、いや関係ないんだけれどね、見える見えないっていうのは…。

 急いで俺は木にロープを括りつけて反対を自分の腹に巻いている。


「ロープ必要なの?」

「いや、俺泳げないんだよね。だから水中から上がる時の為に。」

「あ、泳げないんだ…泳げないのに川に潜らされるんだね…」

「まあ、ね…。そうだ!師匠、目は?」

「初日だからロンは無し、お前は有りだ」

「やっぱりかぁ目隠しぃぃ!!」


 目隠し魚捕りはなかなか厳しい。俺苦手なんだよね、気配を感知するの。


「ロンは水中何分潜れる?」

「1分半くらいかな」

「魔法で延ばせない?ガルの魔法ではあるんだけれど」

「ああ、やったことないな…でも上手くやれば…出来なくない」

「俺は素潜り5分はいけるんだけれど」

「…なんて?」

「え?5分…シャルフはもっと長い人も多いよ」

「…魔法どうのの前に体の作りも普通の人とは違うのかもね、シャルフって」


 そうだ、言い忘れていたけれど人よりは身体能力は基本全部高い…はずなんだよ。能力ちゃんと引き出せれば。

 だから学校とかこうやって師匠を見つけて教えてもらって訓練しないといけない。


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