010 - 修業は死なない程度に死ぬ程辛い02
修業2日目。
リゼットの作る朝食は相変わらず美味しかったし、俺の修業は今日も配達。師匠って薬師でもあるから注文入った薬を作ってはこうやって配達しているんだ。
ロンも今日から筋トレやら始まるとか聞いたけれど、前日より1時間以上早く帰ってきた俺より疲れきってぐったりしているロンが玄関横に落ちてた。
「ロン、どうした…死んだか?」
「かろうじて、生きてる…」
「何させられた?」
「小説のような修業…だった…人はね、しっかり集中すると針山の上で逆立ち出来るんだ、人差し指だけで…」
何?え?何させられたの?俺は魔法の修業した事ないから知らないよ?
どんな過酷な修業をしていたんだろうかとちょっと不安になっていたら玄関が開いて師匠が顔を出した。
「リュカ、昨日よりはちょっと早いな…ロンを風呂に放り込んでやれ」
魔法を解いてもらったのでロンを担ぎ上げて風呂場に連れて行く。ロンの綺麗で長い髪もドロドロになっているなぁ。まだ始まったばかり、残りも一緒にがんばろうな…。
「リュシアン達は過酷な修業、してきたんだな…」
「まだまだ序の口じゃない?だって、お互い喋れてる」
「!!」
そう、喋れるだけまだ優しい。順番に風呂を終わらせるとやっと飯だ。
死ぬ程疲れているとご飯も入らないけれど、本当に無理矢理にでも詰め込んで食べないと次の日持たないって俺は知っている。それもあるし、リゼットの作る料理は本当に美味しいので沢山食べた。
「今日もありがと、リゼ!うまかった!」
「ほんと?」
「本当に、美味しかったです…」
ロン、なんかそんな姿新鮮だよ。モジモジしてんなぁ…。
人が恋に落ちるとこうなるんだなぁ…俺もこうなるのだろうか?と思いながら師匠の前に座ると、ニヤニヤしている師匠と目が合う。
「わかりやすいな、アイツ」
「だね、言われるまで気付かなかったけれどね、俺」
「リゼにもバレそうだが、大丈夫なのか?」
「まぁ兄の俺にちゃんと前もって言ってきたから見守る事にするよ、ロンは悪い奴じゃないし、本人達次第だもん」
「お前にも好い人…ああ、すまん、無さそうだな」
「え、嘘…失礼じゃない?」
師匠?失礼だよ?え?ってかそんなに縁遠いように見えるの?何だかとっても悔しいですが?
いつも通りロンがお茶を入れてくれて4人でのんびりお茶を飲んでいたら結構いい時間になってしまった。
「リゼ、送ってくからそろそろ帰らないと」
「ありがと!明日は朝来れないから、おじいちゃん、ロンさん明日の夜ね!」
リゼットも挨拶したので家を出ると気持ち早めに歩き、実家に送り届けて母さんに挨拶してから急いで師匠の家に戻る。疲れているから早く寝て早く起きないといけない。
「明日の朝は2人で作るからロンも早く起きるんだぞ」
「なるほど、わかったよ」
「リゼのありがたみが身に染みてわかるんだよ…作る日って」
「だと思うよ…しかし、本当に愛らしいな、リゼットさんは…」
「何で彼氏がいないのか俺も不思議なんだよな」
「いないのかい?」
「俺は今まで1度も聞いた事ないからなぁ、師匠は?」
「俺も聞いたことないな…赤ん坊の時から見ているが休み毎に家に来ているし、連れてきても女の子の友達だけだし…聞いた事はあるんだ…その時は興味がないと言われたな」
「い、今はあるかもしれない、だろ」
「リュシアン、僕は別に大丈夫だって」
また自分がハーフエルフなのとか気にしてるんだろうか。俺もリゼットもそういうの気にしないんだけれどな。ロンは自分に自信がなんとなく無いんだろうなって前から思っていたけれど、こういう理由だったのかって分かってからは自信付けて欲しいなって気がするんだ。今回の修業で少しずつでも改善していけたらいいんだけれど。
師匠ってやっぱり凄いなって思うのはこうやってちょっと話をしている間でも俺達の事を見ていて、修業方法を考えてくれる所。多分今も考えてくれている、と思う。
「明日は早いんだから寝るとしよう」
「はい」
早めに休み、翌日の早朝から朝食を作っているのだが…1品、2品とかじゃ許してもらえないので時間がかかる。リゼットが朝食メニューのメモを残してくれているからその料理を作っているが圧倒的遅い。
「俺はリゼを手伝って色々やってきたし、ここで学んできたから少しは出来るって思ってたけれど、ロンは俺より包丁の使い方上手なんだね。自炊とかしてきた、とか?」
「母親幼い頃に亡くしてずっといなかったからね、当番でやっていたんだ…まさかここで役に立つとは思わなかったけれどね」
「まぁリゼに比べたら遅いけれどね、俺達」
「本当にね」
それでも師匠が起きてくるまでには仕上がったけれどね。味についてのダメ出しはなくてよかった。前は随分言われたからね。
「今日は3時間で終わらせてこいよ、リュカ」
「あ、今日も配達あるのね…」
「毎日あるわ」
「3時間かぁ」
「終わったらこっちに合流するからな」
「は、はい…」
3時間キツイ…重し付けて走って必死に配って昨日まで半日近かったのに…。って思ったけれど今日は思ったよりも楽に配達が進んでいる。慣れてきたんだな、魔法の重し。
「おお、リュカか。今日も重し付きの配達か」
「慣れてきたけれどキツイね、これ」
「俺もやらされたなぁ」
「ウィゼ兄はこの量何時間で出来た?」
「最終的には1時間だな…最初は半日かかったなぁ」
「やっぱ…」
団長に届け物を渡してそのまま配達を終わらせて帰って3時間半。少しオーバーした為、無事追加で家の周り10周走らされた。
ヘロヘロになっていたら休む間もなく次の修業について説明をしてもらっているんだが…ロンが本当に大きな剣山のような針山の上で逆立ちしている。手のひらでやっているけれど、あれをその内指1本でやらないといけないのか…とビクビクしながら見ていたら師匠に怒られた。
「いや、だって、気になるでしょあれ、怖い事させてるな!!落ちたら刺さるだろ!?」
「死にはしないから大丈夫だろう、でお前の次だが」
「とりあえず打ち込み見るんでしょ?」
「その後に対人戦をする」
「へ?」
「1人助っ人を頼んでいるからな」
木刀を持って、打ち込みを始める。体調もいいし配達の仕事をしていた間に多少筋肉の使い方を思い出し前よりは体が軽い。
カンカンと乾いた音が響く中師匠からのストップが聞こえたので手を止めると師匠の横には副団長がいた。
「あれ?え?副団長?」
「団長に気晴らしに打ち合いしてこいって言われましてね」
「俺の修業に付き合ってくれるんですか!?ありがとうございます!」
「主戦力のシャルフが力を付けてくれるのなら喜んで手伝うよ」
「ほう、主戦力ねぇ…今じゃラフェルっていうリ族の方が強いと聞いているが?」
「いやまぁ、本当だ。シャルフの能力無きゃ全然勝てない…」
副団長との打ち合いでも最初はいつも通りだったけれど徐々に上手く打ち込んでいけるようになってきた。なんせ…俺がいくら斬りかかっても当たりやしない。当たらなければ怪我もさせないから安心だし。
打ち合っている内にどんどん俺の力も速度も増していくのは自分でもなんとなくわかる。
「よく動けてますね、本当に対人戦苦手なのかな?」
「怪我、させたくないから手を抜いてしまうみたい、無意識に」
「ジャン騎士を見くびっているということですね」
「え」
「それに私も随分と見くびられたものですね」
打ち合っていた手が止まった。
言われてみればそうだ…俺が頑張って打っても相手に入らないからラフェルと打ち合っている時は上手になってきた様に感じただけだ。実際今も副団長相手に上手く出来なかったのは…
「俺、それって凄い失礼じゃない?」
「ですね」
「シャルフだからってどこかで思っている…一般騎士を見くびっている…そういう気持ちがあるから、手加減をしてしまうのか」
「傲り、ですよ」
ぐぬぅ…言葉が胸に刺さった…。そうだ俺何勘違いしているんだろう。自分が
実際ラフェルに勝ててないじゃないか…なんで気付かなかったんだ…。
「副団長、もう一度お願いします!今度は全力でいきます!」
「ええ、いいですよ」
いざ副団長と本気で向き合って手を抜くというのは失礼だと思いながらも今までの癖は上手くは抜けない、が…さっきよりは上手く出来ている。
「悪くはない…でもまだまだ馬鹿にされている感が否めないですね」
「うっ…でもまだ癖が抜けない…でも、副団長が剣を両手で持った」
「ほう」
今まで片手で持っていた剣をしっかりと両手で握り防御するあたり、俺の力が徐々に上がって来ているからだろう。
そんな打ち合いを2時間続けていたら副団長が懐中時計を取り出して時間を確認している。
「時間のようですね」
「へ」
「そろそろ戻って明日の遠征の支度をしなくてはなりません」
「ああ、仕事の合間に来てもらってたの忘れてた」
「まぁ仕事の一環だと思って下さい。部下の能力を上げるのも上司の務め。」
「ありがとうございました!副団長が強いって初めて知った…やっぱ副団長ってだけあるなって思った」
「いつも指示してばかりですからね、私は。一応戦えはするんですよ」
副団長にしっかりとお礼を言って帰るのを見送って一息つく。俺はまだまだダメだなって改めて思い知った。帰ったらラフェルに謝らないといけないな、そして今度こそボッコボコにしてやる。
水を飲もうとしていたら師匠とロンも休憩にきた。
「終わったのか、ミハエルは帰ったのか?」
「ああ、副団長は2人の邪魔をしてはいけないから声かけないで帰るって言ってました。それに時間結構オーバーしてしまったって慌ててましたよ」
「そうか、まぁアイツなら報告書送ってきそうだな」
え、俺との打ち合いの報告書くるの?怖っ!
次の修業についての説明を受けながらストレッチをする。時間を無駄にしてはいけないから少しでも身体ほぐしたり動かしたりして熱を下げないようにしないと。
「ロンは魔力集中の訓練今日中に、リュカは掃除だ」
「掃除?」
「掃除???!!!!!!」
「なんか、嫌そうだな」
そりゃそうだよ…掃除なんて普通の掃除なわけない。前にもやっているけれどこれがまた鬼のように辛い。
「今日は…どこから、どこまでで…」
「その山半分だな」
「山!?」
「半分か…時間は?」
「3時間だ」
「だよねー!!!!」
山掃除の修業は足腰の鍛錬を中心に全身を使う為本当に疲れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます