009 - 修業は死なない程度に死ぬ程辛い01




 翌朝早くから俺とロンは大きな荷物を持って玄関集合していた。


「じゃあ行ってきます…団長」

「ああ、なんも飛んできてない所をみると修業の許可出みたいだ。もう支度しているだろうから早く行くんだぞ!師匠によろしくな!」

「う、うん…」


 団長に見送られると俺たちはそんなに離れてないけれど町外れの山の麓にある師匠の家に向かって行く。どれだけ大変な事をさせられるんだろうかとハラハラしながら師匠の家の前に立つ。


「立派な家だな」

「ああ、師匠こんな辺鄙な所に家建てながらも色々こだわってたらしいからね」


 こんな山の麓、じいさん1人、数少ないが弟子を持つ師匠って言われたらボロボロな家を想像するだろうけれど、なんなら俺の実家より良い家だよね。

 チャイムを鳴らすとヒョコッと顔を出したのは…


「リゼ!?」

「おっはよー、お兄ちゃん達の朝食頼まれたから作りに来てたんだ!おじいちゃん1人じゃ大変だからね!しばらく私も手伝いに来たりするよ!入って!」


 そう言ってリゼットはパタパタとキッチンの方に消えていった。


「気が抜けるなぁ…な、ロン」

「…」

「ロン?」

「ひゃいっ!?」

「昨日から変だな…どうしたんだ?」

「や、あの…女性とは…どうも…関わることが少なくてね…緊張して」

「リアも女性だけれど、ラナさんとかもエルナーも皆よく仕事で一緒だよねってかロン全然俺よりも女性への対応慣れているの見てるからね!?」

「…」

「まさか、リゼに一目惚れかぁ?まさか…」

「…」

「ま…?」


 あまりの驚きに動けないでいたら奥からリゼットの「ご飯できたよ」って声がして我に返った。と、とりあえずご飯食べないと修業なんてやってられないもんな。


「飯、行こうぜぇ…」

「はい…」


 部屋に入ると朝から色々用意してくれたみたいで様々な料理が並んでいる。母さんが足悪くしてからよく母さんの手伝いをしていたリゼットは家事全般こなせるから本当に助かっている。

 俺たちの後にすぐに師匠が入ってきた。


「師匠、おはようございます!」

「ローウェンです、よろしくお願いします!」

「おはよう、リゼのご飯食べてから話そうか」

「おじいちゃんの好きなお母さんの漬物!持ってきたよ!」

「いつもすまないねぇ」


 4人で食卓囲んでいるけれど、多分俺もロンも色んな意味でそわそわしてて反応が薄かった為だろうか?食べ終わった後の片付けしているリゼットを手伝おうとしたら不機嫌そうにしていたので物凄い慌てた。


「リゼ?何か俺やっちゃった?反応薄くて怒ってる?」

「朝早くから作った料理、どうせ美味しくなかったんでしょ?ボーっとしちゃって」

「いえ、美味しかった!凄い美味しかった!また腕あげたんじゃないかな?」

「嘘くさい」

「本当に美味しかった!お嫁さんになって欲しいくらいに!」

「え…ええ!!?」


 ロン?俺怒るよ?まだお付き合いもしてないからね!?


「じいちゃんも、リゼがお嫁さんだったら嬉しい!後50若かったら求婚してたかもな!」


 え?師匠も!?


「んもう、皆そんなに必死にならなくても、怒ってないよ」


 機嫌治った!!?

 リゼットが何だか嬉しそうに片付け再開したからちょっとホッとした。怒ったままだと後が大変だからね。

ロンにお茶入れてくれと頼んで師匠の前に座る。


「師匠、俺…」

「ウィゼルドから手紙もらったが、相変わらず対人戦ではボロボロらしいなぁ」

「そう、なんだよね…」

「その、リ族の奴に勝ちたいんだろ?」

「毎日ボコボコに負けてるからね、勝てないのにシャルフなんて」

「お前の父さんも元々対人戦は弱かったからな、無理することはない…いざという時に戦えればいい。お前の母さんを人型から守る時にしっかりと戦ったからな、あいつは」

「その話は前に母さんから聞いた…人型ですら戦うのに躊躇していた父さんが、母さんが危ないって思ったら戦えたって話」


 それだけ大切に思える相手が危険だって思ったら俺だって出来ると思うんだよね。うん。家族…母さんもリゼットも俺が守らないと。


「練習に負け続けていたら確かに上達はしないな」

「気持ちの問題だと思うんだけれど、どうしてもね怪我させたりっていうのが心配で」

「そんなもん、近場に治療出来る者がいるんだから大丈夫だっつーの…」

「お茶、どうぞ」

「ありがとう、ロン」

「黒茶葉とエルフの薬草を混ぜたので体も温まって緊張をほぐすので、後はストレッチすると腰痛も軽くなるかと」

「ほう、リゼから聞いたのか」

「はい」

「ローウェンといったか…エルフの血縁か」

「血縁?里の出身だとは聞いたけれど、やっぱそうなんだ?」

「純血じゃないんです、ハーフエルフ。母が人間で、僕は人間の血が濃く純血のエルフには全然及ばない半端者で」


 確かに耳尖ってないし。でも俺でも時折ドキっとするくらいには美形なんだよな。やっぱエルフって皆綺麗なんだろうなって思った。


「なので色々勉強して強くなりたいなと思って」

「今日は魔力テストと薬学テストに他にも能力を見る為に時間を使うから、リュカはそこら辺走ってなさい」

「ええ!?俺そんな雑なの?」

「誰が、ただ走れと?」

「うわ、嫌な予感」


 食後の休憩を挟んでから俺は両手足に魔法をつけられた。鈍足の効果の応用だろう重しがついている、手足に。ってか腕ちぎれそうなくらい重い!!


「それつけたまま今日はこの薬をこの地図の所に配達してきてもらおう」

「わ、お兄ちゃん私のお手伝いやってくれるんだ!ありがとう!」


 これ、リゼットがいつも仕事の前とか後にやっている配達の手伝い。看護師見習いもフルタイムじゃないらしいからこうして師匠の手伝い出来るんだっていうけれど。看護師見習い1本でいいんじゃない?こっちお金出るの!?


「ちゃんと給料はリゼにつけるからな」

「いや、ちゃんと給料出るんだ!!ってか俺にじゃないの!?」

「お前は俺に教えて貰う立場だろう」

「確かに」


 もう、こき使われているだけのような気がするけれどね!!修業って、いつも!!

 早速配達をスタートするけれど、本当に重たくて走れない。魔法の支援もらえたら楽なのにな…。


「…楽…なのに…?」


 何となく分かってしまった。最近俺は魔法に頼りきっている…そりゃ折角対人戦上手くなってきても勝てないわけだ。その日の配達はリゼットが1時間で終わらせる所を俺は半日もかかって終わった。

 ヘロヘロになって師匠の家に帰ったらロンと師匠が本を開いて話しているみたいで無視されたので勝手に水をもらって飲む。


「お兄ちゃんお帰り、もう晩ご飯の時間過ぎているから皆お腹空いているんだよ」

「ああ、リゼ…今日はずっとここにいたの?」

「いないよーちゃんと仕事しに行ってきた。10時から17時だったよ、今日」

「見習い期間終わったらフルタイムで働くんだろう?」

「どうかなぁあそこの病院にいられるかも分からないからね…ってほら、先にお風呂行ってくれば?ご飯温めておくよ」

「うん…っていうか師匠もう魔法解いて!!!」

「おお、忘れてた」


 やっと両手足軽くなって嬉しいけれど疲れすぎて這う様に風呂に向かったよね。

 風呂から上がれば美味いご飯!我妹ながら料理天才なんじゃないのか!?本当にいいお嫁さんになるだろうな…。

俺が戻ってくる時間遅かった為リゼットが片付けをしたらすぐに帰るというので家まで送る為一緒に実家に向かう。母さんに会うの久々かもしれないと思ったらなんか急に怖くなってきた。


「ねえ、母さん怒ってない?」

「え?何で?」

「だって、最近顔出してないじゃん」

「えー毎週手紙送ってくるから全然じゃない」


 足を悪くしてから心配かけないように手紙でのやり取りだけでもって気を付けていたけれど、やっぱ顔出すのが1番いいんだよね。なかなか行くのが難しかったんだけれど。

 少し顔見ただけで帰らないといけないけれど何だか怒ってなかったし、嬉しそうだった気がしたからもっと出来るだけ顔出しに行こうと思った。


「リュカ、無茶しないように気を付けるんだよ」

「それ師匠に言ってくれ…」

「あはは、死なない程度の修業だっていつも言ってくれているから大丈夫っしょ!」

「まぁ父さんもウィゼ君も立派なシャルフになれたものね」


 妹よ…死なない程度っていっても死ぬギリギリまで攻めて来るからね、あの師匠。

 明日も朝から修業だからとすぐに戻ったけれど、やっぱもっとゆっくりしたかったなってちょっと後ろ髪引かれる思いで早歩きしながら師匠の家に戻った。

 キッチンの方ではまだ師匠とロンが本を広げて話をしていた。


「リゼ送ってきたよ」

「なんだ、ゆっくりしてくるのかと思った」

「いや、明日も修業だから早く帰ってきたんだよ、ゆっくりしたかったけれど」

「じゃあ続きは明日にするか…ロンの話は俺も勉強になる」

「何をおっしゃいます!師匠の知識量には驚かされるばかりです、もっと早くお会いしたかった」

「俺もだ!」


 えええ…なんか意気投合してない?そんなに薬の話楽しいの?俺には理解出来ない事ばかり話してたよ、この人達。


「明日も朝食をリゼが作りに来てくれるから7時半には飯だからな」


 いや、リゼットに給料ちゃんと出してくれているんだろうか?俺の妹こき使いすぎじゃないか?

 寝る前に少し話すかとロンの借りている部屋に向かい、ソファに座って背もたれに全力でもたれかかる。


「ロンが女子人気高いのに全然浮いた話なかったのはハーフエルフだからか?」

「そうだね、それと、ただ純粋に好きになった子がいない」


 俺なんて全然女の子と楽しくお喋りすらないよ?ラナさんや、やっぱ男は顔と身長も大事っぽいよ!?


「でも、リゼットさんを見た時に、こう…ギュウッて心臓締め付けられて、最初何でかわからなかったんだけれど…ああこれは僕、一目惚れしたんだって気付いたのは昨日の晩なんだけれどね」

「なるほど…何がいいのさリゼの」

「愛らしいじゃないか…それにとても明るくて、とても暖かい」

「うん、兄の俺が言うのもなんだが、とてもいい子だからな!リゼは!」

「まさか、手伝いにここに来るとは思わなくて…緊張しすぎて、修業辛い」


 そんな辛いは辛くない。もっと辛いはこれからくるぞ、ロン…。


「僕はこんなだから彼女に好きだなんて言えないから安心して」

「なんで?」

「だって、ハーフエルフだし…リュシアンの部下だからね…嫌でしょ?」

「うーん、短命とか、病気持ちとか、借金抱えてますとか…騙したり泣かしたり虐めたり暴力や怒鳴ったりなんて酷い事しない人ならリゼが選ぶ人なら俺はいいかなって思う」

「むしろ長寿の部類なんだ…僕は…それに、そんな酷い事出来ないよ」

「俺は反対もしないし応援もしない、本人達に任せるのがいいと思うんだ」


 しかし、ロンがリゼと付き合ったりとか考えると兄は複雑です。



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