008 - 仕事は普通の『騎士』でいたい08
大きな仕事もなく雑務やら訓練をしていて時間が来たので上がるかと皆で道場を出ると後ろから誰かに肩を叩かれたので振り返る。
「お兄ちゃん!」
「あ、リゼ」
「え?もしかして、妹!?」
前を歩いていた3人が一斉に反応して立ち止まり振り返った。
団長と一緒にいるのは間違いなく俺の妹のリゼット。同じ赤毛で肩までのゆるふわウェーブをそのままにナース服にカーディガンというラフな格好にちょっと大きめな荷物を持っている。
「常備薬の点検と配達に来たんだ」
「え、リゼがやってるの?知らなかったんだけど」
「今月からなんだ、何回か来てるんだけれどお兄ちゃんに会えたの初めてだね」
「わぁ妹さん可愛い、同じ髪色だね、ゆるふわ~」
「えっと、リアガル?」
「え?」
「えーっと、あと…お兄ちゃんの手紙に書いてあった特徴からすると…背が高い銀髪さんがラフェルさん、ブロンドの方がロンさん?」
「手紙?」
3人がニヤニヤしながらこっちを見てくる。
さっと視線を逸らすとリゼットの後ろに回ってグイグイと背中を押す。
「リゼ、さぁ帰れ、今すぐ帰れ!」
「ちょ、なんでよ!お兄ちゃんの友達に挨拶しないと…って押さないでよ!」
「ほら、リュカ兄ちゃん、俺達にも妹さんに挨拶させなさいって」
つよっ!!!!力つよっ!!!!
ラフェルに腕掴まれてグイっと引っ張られてあっという間に妹から引き剥がされてしまった。
「へぇ…リュカ、手紙に俺達の事書いてくれてるんだ?」
「ええ、いつもラフェルさんに負けている事とかとても気のいい友達だって事とか、リアガルがガルとしてとても優秀だとかとても可愛らしいラフェルさんの恋人で、ロンさんの弓の腕が良くとても尊敬出来るとても素敵な男性だとか…あと」
「やめて!リゼ!恥ずかしいからやめて!」
「こっちもやめて…!そんな事書いているの?この子…!」
え?なんで3人が照れてるん?俺の方が恥ずかしくて穴に入りたいよ?
「あれ?嘘書いているの?」
「あああ合ってる…合っていると思う…分からないけれど」
リアガルは混乱している?
「リュカは昔から素直だから思った事そのまま書いているから大丈夫だ、リゼ」
「だよね!お兄ちゃん嘘苦手だもんね!あ、ウィゼ兄さん、シャロンさんにも挨拶がてら悪阻辛い事務員さんも看てくるね」
「って、リゼはシャロンさん知ってるの?」
「うん、お兄ちゃん学校でいない時によくおじいちゃんの所にウィゼ兄さんと来てたよ」
おじいちゃんとは俺達の師匠のこと。リゼは良く師匠の家に行って手伝いしたりしていたからね。
後でまた降りてくるから待ってろと言われてしまったので食堂で待っている事になったんだけれど…
「皆はご飯食べに寮帰っていいよ」
「ええ~私もっと妹さんと話したいわ」
「思ったよりも早く会えたからね!」
「しかし、私達の事なかなか良く書いてくれているのね」
「え、これでも大まかに書いたつもりなんだけれど…あんな、あいつ…言うなって…」
ラフェルとリアはなんかテンションが高く楽しそうなのだけれど、ロンがお茶の支度してくれているんだけれど何となくボーっとしているように見える。
「いくつ違うの?」
「2つ」
「えっと、18歳?看護師ってそんな若くてなれるの?」
「最近看護師見習いとして病院勤務始めたんだけれど、元々青魔法が得意でね。試験とか受けたら全部ストレート合格であの歳で看護師の資格取れてるんだよ」
「兄はシャルフで魔力ないのにえらい違いだな」
「母さんに似たんだろうね、妹は。だから母さんと同じ道を進んでいるのかもね」
「あんなに可愛い看護師さんいたら患者のおじさん達嬉しいだろうねって事で心配ね」
「そうなんだよなぁリゼさ、兄の俺が言うのもなんだけれど、いい子だからさ…変な虫付かないかって心配で心配で…」
「だよな、あんなに可愛かったらセクハラとかされそうだし、なんか俺まで心配になってくるんだけれど」
あああ、俺がもっと稼げればリゼットにも大変な仕事させないでも済むのに。
「って、ロン?お茶溢れてるぞ」
「え、ああ…あああ」
何をそんなにボーっとして…。皆の紅茶を用意してくれたらしいけれど零してしまって作り直しだろうな。
「ロンどうしたの?私掃除手伝うよ、お茶の用意してくれてありがたいけれど、体調悪いならいいのよ?私がやるよ」
「あ、大丈夫だよ、リア。掃除ありがとうね!」
ラフェルと目が合い2人で同時に首を傾げた。
やっとロンがオススメの紅茶を入れてくれたのが出てきた。
「今日のは故郷で作っている紅茶でちょっと独特の匂いがするかもしれないけれど、疲労回復にはとても良い紅茶なんだ」
「へぇ、いつもロンの入れてくれるお茶のお陰か体調すこぶる良いからありがたい!」
「ラフェルとリュシアンは良く動いて働くし練習もしてるからね」
「助かっているよ!ロンのお茶の効果俺もとても良く効いているみたいでいつも元気!」
「リアが魔力使いすぎた時にもいいお茶があるから今度分けてあげるよ」
「本当!嬉しい!」
妹の話題もそれてちょっと安心していたら後ろから手が伸びてきて俺のカップが持って行かれ、振り向けばリゼットがそれを飲んでいた。
「ふむ、ふむふむ…とても独特な匂いに風味…東の国の山奥で手に入るというエルフの薬草みたいですね」
「リゼ、俺の紅茶ー!」
「わかってるわよ、だからお兄ちゃんの飲んでるんでしょ」
「しかし、リゼ、一口でわかったの?色々知っているんだね…凄いね」
「おじいちゃんが色々教えてくれたからよ、この薬草は滅多に手に入らないからっておじいちゃんも少ししか持っていなかったわ」
「あ、僕…エルフとちょっと縁があってね…それで、沢山…あるんだ」
「そうなんですね!ロンさんは草花の事にお詳しいと聞きました!今度話させて頂きたいです!もっともっと勉強したいの、薬の事!」
「あ、ええ…うん…」
リゼットが俺の隣に腰掛けて目を輝かせている。昔から知りたい欲が強い子だったから勉強とか好きだったもんね。俺と違って。
ロンがそっと立ち上がると「お茶、入れるね」と言って離れていった。
「リゼ、あまり困らせるんじゃないぞ?ってかラナさん大丈夫だった?」
「うん、薬とか処方出来ないからツボとかハーブティとかで抑える方法を教えてきた」
「ちょっと前まで元気だったのに急にだもんね」
「妊娠するとね色々大変なんだよ。ラナさんの事皆でサポートしてあげてよね」
「わかったよ、俺に手伝える事あったらちゃんとやるよ」
紅茶を入れてくれたロンがカップをリゼットの前に置いて自分の座っていた所に座った。何だかやはり元気が無いように見えるけれど、大丈夫だろうか?
リゼットと喋りたいカップルが2人してグイグイ色々聞いて、それに対して楽しそうに返しているリゼット。30分くらいだろうか?時計を見てリゼットが慌てて立ち上がった。
「ヤバっそろそろ戻らないと!お家帰る時間遅くなっちゃう!」
「ああ、母さん待ってるだろうに…俺が送っていくよ」
「お兄ちゃん優しい!」
立ち上がってリゼットの荷物を持つ。お、なかなか重たいぞ…。
「こんなの持ち歩いているのか」
「そうよ、終わりがここだから今は軽くなっている方だよ」
「片付けは私たちがやっておくからしっかり送ってあげなよ」
「病院までだからね」
「うん!」
皆に挨拶をしながら先を歩く俺に着いてくるリゼット。病院までは片道15分くらいか。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「ロンさんといつ会える?」
「は?」
「さっき話してたでしょ、薬の話聞きたいの」
「ああ、ロンが休みの時でもいいんじゃ?聞いて…あー俺明日から師匠の所なんだよね」
「え?何でまたおじいちゃん?」
「団長にお前弱いから鍛え直して来いって言われた…」
「ああ、さっき預かった手紙ってその事かぁ」
「その手紙燃やして」
「ダメです、お兄ちゃん鍛え直して貰った方がいいよ、ラフェルさん本当に強そうだったじゃない、一生勝てないんじゃない?」
言い返せないです。本当にずっと勝てない気がする。
病院まで荷物を運んだついでに俺もリゼットの職場に挨拶しに入ったらなかなか帰してもらえなかったし、なんなら「おじいちゃんの所寄るから」ってさっさとリゼット帰っていくしでドッと疲れた。これじゃ疲労回復の紅茶意味無くなってしまう。
やっと帰って来れたのはリゼットと詰所を出て1時間程過ぎた頃だった。寮の食堂はガラガラだったし、なんなら余りのプレート片付けようとしていたと言われた。
「今日全然顔見ないなと思っていたんだよね」
「残っててよかった…ありがとう…頂きます」
「あっためてあげるから座って待ってて」
寮の食堂のお姉さん達は皆優しい。疲れた心が何だか癒された。
食事も食べ終えて風呂に行った時ももう最後の方だったらしく何人かしかいなかった。ゆっくり入れるから良いんだけれどね。
「あ、リュシアン」
「おお、ロンも今からか」
「薬の調合したり支度していたから」
「なんの支度?」
「ああ、僕も本当にリュシアンについて行く事になってね」
「えええ!?」
「さっき団長と話しててそうなったんだ」
汗を流し終わって湯船に入るとロンも隣に座ってきた。
「ねぇなんでまたロンまで来ることに?俺は嬉しいけれど」
「まぁ班が一緒なのもあるし、個々の能力を上げるのにも力を入れていこうって話していたみたいで、2人の師匠さんは魔法の知識も凄いみたいじゃない」
「まぁ元々ガルだったからね」
「そこで薬学も学べるのと僕の魔法能力をもう少し上げて赤魔法を極めようって」
「ロンなら緑も簡単に使えそうだけれど」
「あ、本当は全部使えるよ?」
「え」
「資格取ってないのとガルとしての勉強してないから使わないだけで、リアが使える魔法は多分ほとんど使える。応用魔法とか色々学んでガルくらいの能力付けてこいって」
ガルとしては背が高くて体重の問題でやってけないけれどねって笑っているけれど。いや、それでもロンがガルだったらいいなとは思う。
いくらシャルフの乗る動物達が大型といってもシャルフとガル合わせて120kgという制限がある。他の装備とかもあるからね。
「ロン60キロになれ」
「ははは、僕が60キロだったら結構なガリガリだろうね」
175cmくらいはあるだろうからね、ロン。ラフェルの180cm程ではないから多分そのくらい。ま、俺162cmしかないから羨ましいよ170越え。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます