007 - 仕事は普通の『騎士』でいたい07




 パスタのお店と言われて思い浮かぶのは去年あたりにオープンしたなんか高級そうなお店くらいしか出てこない。全員で食べつつ俺たちでラフェルのも出して飲んでって…額もそうだけれど、落ち着いた雰囲気の場所なら、楽しくないな、絶対。


「あの高そうなお店は無理だよ、騒げないし!それにそんなに軍資金あるわけじゃない…俺が薄給だから…」

「あら、ケータリングで呼んでしまえばよろしいのよ、それにお酒は自分たちで買ってくればお安くすみますわ」

「それでも高そうじゃない」

「ケータリング費は無くて大丈夫だけれどお料理はどのくらいまで下げてもらえるか聞いてみますわね…料理長呼べなくても副料理長ならば来てくださるかしら」

「うん、まって、エルナー…そんな事出来るの?」

「ええ、父の会社のお店ですもの」


 その場にいた俺達全員一瞬で気配が消えたろう。だって皆呼吸も忘れて多分止まっている。しかし頭の中はフル稼働している事だろう…現状を理解しようと。


「え、エルナーさん、お嬢様だと思っていたけれど凄い大きい会社じゃなかったっけ、そこのお店の会社って」

「んーそうですわね、中心でもトップクラスだと母から聞いています…ですのでフルネームで名乗らなかった事をまずお詫びいたします…わたくし、エルナー・ブラックと申します。父の会社はシャルテといいますの」


 この国のトップ…の会社の…ご令嬢…!!!シャルテって俺でも聞いた事ある会社!


「本物の金持ちって初めて見たけれど…すげぇ」

「わたくしがお金持ちではございません、父のお金ですわ」

「でもその家の令嬢ってやつだろう?俺なんて金の無い村育ちだから天と地程の差がある」


 ずっとそう言うけれど、リ族の村が凄い気になってるんだよ、俺は。


「エ族よりも古い文化をそのまま引き継いでやっている部族ですからね…機械なんてものは知らなかったみたいですよ…学校行くまで」

「リアガルの所も自給自足?」

「私たちの村は民芸品等で収入を得ていたのでリ族よりはまだ近代的な暮らしはしていました。それでもやはり自給自足してはいましたね」


 それはそれでどっちの村も見てみたいけれどね。

 エルナーが通信してくると出て行ったので任せてしまったけれどいいのだろうか?


「じゃあ食堂貸し切らないといけないね」

「ケータリングじゃ、そうだなって…あれ?シャロンさん?」

「ああ、お構いなく…あーでもー構ってくれるなら僕もお茶欲しいな~ローウェン」

「いいですよ」


 事務仕事ちょっと面倒で抜けてきちゃったなんて笑っているけれど、今の仕事の報告書の纏めやら色々計算したりと大変なはずじゃ?


「ケータリング呼ぶならここの食堂の方がいいね、日時決めてくれたら使えるように許可出すよ、折角のラフェルのお祝いでしょー?」

「いや、シャロンさんはいつから聞いていたの?」

「え、リュシアン戻ってくる前からあっちでしっかり仕事していたよ」


 き、気付かなかった…確かに仕事していたであろう痕跡がある。紙がテーブルの上に散乱している。

 お茶をもらってご機嫌なシャロンさんは置いておいて、日取りを決めないとなと皆で話ている所にエルナーが戻ってきて金額やらを細かく教えてくれた。


「で、明日か明後日ならば可能との事です」

「普通のシェフだけでもありがたいのに…副料理長きてくれるの…?」

「いえ、料理長来てくれますわ、時間制限はありますけれど」


 なんやかんやでトントンと話が進んでしまい。気付けばラフェルのお祝いが大掛かりな催し物へと変わってしまった。祝われる本人はまぁ嬉しそうならいいかと俺はこっそりと自分の貯金との睨めっこをする羽目に。


 俺の不安を他所に翌々日に無事ラフェルの黒魔法資格取得・昇格お祝いが盛大に開かれた。支払いは経費にしてもらえていたのはとてもありがたい。他の事務職員が結構参加していて、元々いたメンバーの倍以上の人が会場にいたよね。まぁ祝われている本人が嬉しそうだからエルナーにもシャロンさんにも感謝しかない。


「でも、なんか俺達からのお祝いじゃなくなってない?」

「いや、それ、本当に」

「今度、行きつけの居酒屋でやりますか」

「え、リアガル行きつけなんてあるの?」

「あ…」


 リアガルが凄い酒豪だって知ったのはそれから1週間後の事だった。


 無事にラフェルのお祝い等を終えてからはまた何もないただ仕事をこなす日々が続いていた。その間にも俺はラフェルと道場での練習試合…とも呼べない打ち合いではボロ負けしているわけで。


「で、リュカはいつになったら俺に勝てるようになるんだ?」

「いや、ラフェルは俺をボコしながら着実に力つけてきてる!!俺わかってるよ!!」

「え?そう?」

「前より俺も力付いたし、動きもよくなった…そしてなにより俺もちょっとは対人戦でも上手く攻撃入れれるようになってるけれど…この差!!!!」

「いや、元々一撃も入れれてないからな、リュカは俺に」

「ぐぬう」


 俺の愛称であるリュカと呼ぶ事を許可するようになったのは最近だけれど俺達は間違いなく親友と呼べるような仲になっていた。そしてリアガルとラフェルも恋人と呼べるような仲になっていたけどね!!


「俺そんなに弱いのかな…俺ってそんなに弱かったんだ…」

「班長…」


 めそめそしていたらロンが横に来てぽんっと肩を叩いてくれた。慰めてくれるのかと顔を上げたら親指立ててくいっと示された方を向く。


「あ…」


 非番や仕事待機中の騎士全員打ち負かした後だった、俺。いまだに対人戦では手加減してしまうし、直接人に当てられないから全員武器を弾き飛ばすという方法で、だけれどね。


「それを言っちゃ、全員弱くなるよ、班長…僕も含めてね…」

「ロン、怖い、顔怖い」


 確かにロンは弓術士であまり剣の方は得意じゃないかもしれない。それでもそこら辺の兵なんかより強い。実はエルフの里を出ているというのをここ最近俺に話してくれた。だから草花の知識も豊富だし弓に魔力、乗馬、それに剣術にまで長けているわけだ。


「ラフェル、団長と手合わせしてみてよ」

「え?俺と団長が?それは楽しそうだな」

「俺も何回か師匠の所で手合わせしてるけれど、強いんだよウィゼルド団長」

「いや、シャルフだもんな」

「俺も、シャルフ!学校出てる!」

「あー俺に勝てないシャルフをシャルフと認めないぞ、俺はぁ」


 ああん、もう…。


「ってことでウィジー呼ぼうか?」

「え、あれ、シャロンさん?最近よく見かけるね…」

「ラナちゃん悪阻大変そうだからしばらく仕事来れても動けないからね」

「あれ?懐妊!?」

「聞いてないのー?まぁいいや、僕も自分の仕事あるしすぐ戻らないとだから、とりあえずウィジーに聞いてみるね」


 そう言ってそっと目を閉じて意識集中させているというのはわかるので静かにしていると、暫くして目を開けたシャロンさんがいつもの安心するような柔らかい笑みでこちらを見ると


「ちょっと待っててね、すぐ来るって言っている」

「え?言ってる?」

「テレパシー…的な?」

「的な?」

「あはは、まぁ待ってなって…じゃあもう行くよ~っとマシロ仕事だからこっちきて」

「あ、はい」


 マシロが連れて行かれた。忍者の特別な仕事があるんだろう、シャロンさんはマシロを呼びに来ただけだったのか。

 それから少しして本当に団長が現れた。


「手合わせだってな、楽しそうじゃないか…副団長に仕事押し付けて来てみたぞ」

「アンタそれはいかん!副団長過労死するよ!?」

「ははは、大丈夫だ!たまには俺も身体動かさないと訛る」


 団長とラフェルの打ち合いは本当に目が点になるくらいに凄まじかった。あれ?俺弱いの?やっぱり?

 結局ボロボロに負けたラフェルが悔しそうだったけれど、俺はアンタ達が怪物並みに強いって分かって心がボロボロですよ。


「流石団長はやっぱつえぇ」

「中央でも一応シャルフ経験あるからな…団員に負けるようじゃもう俺も引退だしな」

「しかも全然本気出してないし、魔法効果ついていたら手も足も出なかった」

「実戦の数が違うからな、ジャンだってまだまだ若いんだからこれからだろうよ」


 団長から少し指導してもらえたので全員で木刀の素振りをしてアドバイスをもらい、とてもいい訓練になったと思った。


「あー、リュカ…お前師匠の所にお帰り」

「へ?」

「対人戦少し出来るようになったと思ったけど…弱…まだまだ伸びしろがあるしな」

「今、弱って聞こえた!!!!」

「ううん?何も?何も言ってないぞ?」

「わ、わかってる…俺シャルフとしての実戦ここでしかしてないから強くなれてないって」

「…わかってるならもっと鍛えないとな」

「うん…」

「って事で明日から10日程仕事そんなに多くないし新人も入ってきたことだし…お前師匠の所行っておいで、本気で」


 団長の目は本気だ…。小さい頃からの知り合いだから良く分かっている…本気の時は何を言っても聞き入れてくれない頑固者なのも。


「うぃ、ウィゼルド兄、師匠、嫌、絶対!」

「我が儘を言うな、このまま仕事させて死なれては困るからな、それにここでは団長と呼びなさい、リュカだって俺の部下でだな」

「それいうなら俺のこともリュカって呼ぶなよ!団長は団長、ウィゼルド兄は兄ぃ!」

「あ、しまった、愛称で呼んでいたか…癖だな、すまんすまん…まぁ兎に角師匠には後でリゼに手紙届けてもらうから」

「なっ…!」

「明日から行けよー」


 そう言いながら道場を出て行く団長。俺…また師匠の所に行かないといけないの…?ってかリゼットに手紙…?いつどこで渡すんだ…?


「団長が兄弟子だっていうのは聞いた事あったけれど、あんなに仲良いんだな」

「ああ、俺の小さい頃からの知り合いだからな…団長の兄弟子に当たるのが俺の父さん」

「へぇ…で、リゼって誰よ?」

「俺の妹だよ…リゼットって言って看護師見習いしている…師匠とも仲良くてな」

「妹いるのか!!」

「おお、妹さん会ってみたいな」

「私も私も!」


 ロンとリアガルが凄い食いついてきた。妹見てもなにも楽しいことは無いと思うんだけれどなぁ。


「とりあえず、明日から俺は…いないから…元気で…暮らしてくれ…」

「死ぬんか、お前は」

「いや、本当に生死の境を彷徨うことになりかねない…」

「どんだけ怖い修行するんだよ…」

「今回、何させられるんだろう…ロンも一緒に行こう…俺一人ヤダ絶対」

「なんで僕!?」

「俺の班だろう…」


 嫌がるロンの腕を絡めとってお願いお願いって騒いでいたら、リアガルも少し悩んで「私も行きたい」と言い出した。


「だって、リュシアンいないと私の仕事ないかもだし」

「ええ…リアを連れて行くとラフェル怖そうだからヤダぁ」

「そうだな、そうなったら俺も行くって言わないとな」

「こんな大勢休ませてもらえるわけないだろ」


 俺だけで行かないといけないのは分かっててもやっぱロンにすがり付いてしまう。


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