006 - 仕事は普通の『騎士』でいたい06




 団長達が飛び立っていったので自分達は群れの方に視線を向ける。


「戦闘準備!」

「はい!!」

「中央をシャルフ組、漏れてきたのを左右二人ずつ、更に漏れてきたのを私が命懸けで止める!」

「御意!!」


俺達は早々に魔法で準備をしながら群れに突っ込んでいく。

小さい魔物は無視し、大きめのを相手にしていく。リアガルでも対処出来るものは任せつつ俺もランスで刺しトドメを刺していく。

俺たちから抜けていった小さい魔物は後ろで待機しているラフェル達が対処してくれているだろう。


「リア、防御」

「張ってます、上から魔法攻撃、シーファ右!」

「ここの3体やったら左に行く」

「はい」


 シーファに向かってきた物理攻撃はリアガルの防御魔法が防いでくれたのでその魔物を貫いた所でシーファが右へ移動する。リアガルの声にもしっかり反応してシーファはちゃんと避けてくれるので、上からの魔法攻撃はリアガルの魔法に当たり弾かれ俺達の横の地面に落ちる。

残りの2体にナイフを投げ核の場所を刺すともがきながら霧へと還ってく。一発で仕留めてあげたいけれどこの状況じゃ無理だしごめんと心の中で謝りつつ次の魔物へと向かって行く。


「他のより大きいの来ます!」

「ええ!?なんか聞いていた数より増えてるのに?更にデカいの?」

「あれは流石に漏らしたら後ろ全滅かと…」

「…団長…はまだ全然倒せそうにないよな…」

「更に5体確認」


 話ながらも俺の攻撃の手は止まらない。今でももう10体近く倒したというのにまだいるだと?余裕が出来た時に後ろを振り返るけれど、俺が見送った魔物と皆戦っている。


「デカいの俺1人で受け持つから…リアガル後ろの援護行ける?」

「え?それは、他を皆に任せるという事で?」

「そうなる…流石に全部は俺でも無理」

「…厚目に魔法の装備をして下さい、その間出来るだけ魔物の殲滅を」

「わかった」


 丁寧にリアガルが魔法を重ねてつけてくれる。俺もその間に手の届く範囲の魔物を貫いては霧に還していく。


「完成です」

「じゃあここの2体殺ったら降りるから行って」

「はい!」


 リアガルの魔法防御ももう貰えなくなる、気を付けないと俺だってただでは済まない。そんな緊張からランスを落としそうになるが、しっかりと握って2体をなんとか仕留め、装備をしっかり確認して剣に持ち替えて馬から飛び降り走り出す。


「リアガル気をつけてね!」

「グランツシャルフこそ!」


 視界も悪い足場も悪いそんな戦場でもリアガルの魔法のお陰で難なく進める。走っている途中でも小さい魔物は斬れるものは斬りつつ奥の大物に向かって行く。

 強く地面を蹴ると大きく飛び上がり上から腕を狙って剣を振り下ろす。熊のような形態の魔物の腕を一本落とすことは出来たけれど3mはある背丈に鋭い爪に牙。それにあの長くて太い尻尾。怖いしかないんだけれど。


 魔物は片腕を俺に斬り落とされたのだと理解したらしく、すぐに反対の腕を振り下ろしてきた。それを後ろに飛んで避け、着地と同時に強く地面を蹴って今度は前へと飛んでいく。核があるだろう大まかな場所は魔法のお陰で感知出来るので腹部分に斬り込んでみるが、硬い為か弾かれてしまった。


「んなっ!!」


 ちょっと痛かったじゃないか、手!ジーンってする…。

 目の前の魔物が俺を飲み込もうと大きく口を開けて迫ってきたので慌てて横に飛び退くと今度は足を斬り落としにかかる。そっちも難なく斬れた…腹の辺だけだろうか、硬いのは。

 ならと思い剣から弓に持ち替え、風の魔法を纏った矢を取りその場から飛び退くと魔物の胸付近を狙って打ち込む。的が大きいからしっかり当たった。

風魔法を纏った矢は小さな鎌鼬を起こす。その鎌鼬が当たった周りに細かい傷を作りながら魔物の胸を貫通していった。胸の辺は柔らかいみたいだな。

 飛びかかってきた魔物を避けると後ろから胸の辺りへと斬り込む。俺の力じゃ上手く胴体真っ二つには出来ない。でも何度か斬っていけば…と思って斬ってみたもののうっかり尻尾に気付かずに叩きつけられた。


「ぁがっ…」


 いくら魔法での防御力が上がっているとはいえ痛いものは痛い。でもモタモタしている間に食われるから呼吸が上手く出来ないけれど立ち上がり次の攻撃をかわす為に横に飛んで転がって上手く衝撃を受け流す。

 回復魔法欲しいところだけれどそんなものは望めないのでこれ以上攻撃を受けるのは厳しいな。


 剣を握りもう一度突っ込んでいく。3度斬ってやっと胴体を真っ二つに出来たので急いで下半分の方に向かう。早くしないとくっついてしまうからね。


「核、核…」


 キラッと光ったのを見てそこを剣そこに突き立て、ようやく霧となって消えてなくなった。

 団長の方はと見上げると既に大きな魔物は消えており、団長の鳥が皆戦っている所の上空を旋回していた。


「グランツシャルフ!」

「あ、リアガル、シーファ!」


 リアガルとシーファがこっちに戻ってきてくれたみたいだ。


「無事でしたか、よかった…」

「回復欲しいけれど向こうまだでしょ?」

「はい、戻られます?」

「うん」


 シーファに飛び乗ると急いであちらに向かって走らせる。その間にリアガルの回復魔法をもらったのでまだ動ける。


「左抜けそうだな、あっちに向かう」

「はい」

「シーファ、左」


 剣からランスに持ち替えているのでそちらに魔法効果を付けてもらい魔物の群れに突っ込んで行く。

 団長達も戦っていたお陰で思ったよりも早く片付いた。


「シャロン、網」

「もうやってるよ~半径5キロでいいかな?」

「ああ」

「ごっ…!?」


 リアガルが驚いたように声をあげる。


「5キロって…広いの?」

「広いです、私では最高3キロだし、もっと集中してゆっくりやらないと網を敷けない」

「シャロンさんってのんびりなほんわか事務員さんってイメージしかなかったけれど、凄いガルだったんですね…」

「おお、僕ってそんなイメージなの?」

「だろうな、俺は最初から今までずっと変わってないぞ…ぼやーっとしてのんびりでふわふわしてる、ずっと。それにドジだし天然だし酒癖悪いんだぞ」

「そうなんだ、ウィジーって僕の事そんな風に思ってたんだなぁ」


 おお?シャロンさんがいつになく表情が厳しい…気がする。変わらないけれどあまり。


「さ、皆帰ろうか仕事は終わったから」

「あ、え?シャロンさん?」

「残りは全部ウィジーが片付けてくれるみたいだからね、僕たちは帰ってお茶にしよ~!」

「は?」

「あっち、5体くらいくるよ、ウィジー1人で行ってきな」


 ニッコリ笑ったシャロンさんの顔は何かわからないけれどとても怖かった。早く行ってきなって言うシャロンさんの声色もいつもと違って冷たかったし言う事聞いて団長は走っていったし。


「村にちょっと行ってくるから待っててね」


 振り向いたシャロンさんは元の感じに戻っていてホッとした。

降りてきている鳥の所に向かったシャロンさんは鳥の背に乗せてもらってそのまま真っ直ぐ村に向かっていった。

 残された俺たちは自分達の怪我の確認とかをし、回復をもらったりして馬車が来るのを待っている。


「副団長、俺たち追い付けていないよ…兄弟子のあんな姿見たことない…」

「ずっとなんっすか、あの団長とシャロンさん」

「ああ、あの2人はずっとあんな感じですよ…私が出会った頃から変わらず」

「そうなんですね…」


 2人の話は一切聞いたことなかったし、ルブル組んだくらいしか聞いたことなかったから誰かというのも知らなかったし。まぁこんな感じだったら弟弟子には見せたくないよね、うん。

 その後無事に詰所に戻った後、少しして鳥に乗って帰還してきた団長と団長室にいるんだけれど…


「お前たち、先程の事は忘れてくれ…」

「先程、と言いますと…シャロンさんに頭が上がらない団長の事っすか?」

「あんな兄弟子見たことがなかった俺としては新鮮で面白かったけどね」

「忘れてくれ…」

「…ま、まぁ…とにかく討伐お疲れ様でした、緊急な仕事でもない限り今日は他の仕事は入っていないので各々訓練や雑務等こなし定時に上がって下さい」


 副団長に指示を貰ったので挨拶して部屋を出ると食堂でダラダラしている班員達と一緒に仕事してくれた2人にも副団長からの指示を伝えて武器を壁際に立てかける。


「班長達にもお茶入れてあげるよ」

「ありがとう、ロン…いつもすまないねぇ」

「言いっこなしですよ、班長」

「お前らは老夫婦か」


 ラフェルにもそういうツッコミが出来るとは知らなかった。そういえば出会ってすぐに打ち解けた割には遊びに出たりとかしなかったからな。ラフェルはずっと魔法の事で忙しそうだったし。


「あ、忘れてた、ラフェルのお祝いしない?」

「ん?俺の?凄いな、本人の前で言うってことはサプライズ0って事だな」

「え、何?サプライズで祝って欲しかった?それならごめん今の部分忘れて寝てて」

「聞いちゃったしなぁ気持ちだけでいいよ」

「本当だね?本当に気持ちだけでいいんだね?全員からお祝いの気持ちだけで、いいんだね?」

「え、別に…」

「ちゃんとブツ寄越せって言っておやりなさいまし」

「お祝いの気持ちを念じて終わらせられるぞ、それ」


 エルナーとマシロから言われて気付いたのか慌てて「良くないな!」と立ち上がったラフェルの前にコトっとコップが置かれる。


「今日はお疲れの皆さんに薬茶を入れてみたんです。ちょっと臭いキツイですが味は普通の緑茶とあまり変わらないのでちゃんと飲んで下さいね」


 ロンって薬草にも詳しいんだっていうんだよね。だから良くお茶を入れてくれるんだけれど、一般的なごくごく普通の緑茶も美味しく入れてくれるし紅茶等もうまい。

 大人しく座ったラフェルと俺も一緒にお茶を飲み始める。


「どっかに美味いもん食べ行こうよ」

「それいいね、俺パスタって店とかの食ったことないんだよ」

「え?」

「村にはそんな洒落たもんなかったしな、寮で食べたのが初めてだぜ!」

「ところでなんのお祝いなのですの?」

「ああ、ラフェルが黒魔法の資格取れたからね」

「まぁそれは素晴らしい、町の中心のパスタのお店なんていかがかしら?」


 町の中心のパスタのお店…?


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