005 - 仕事は普通の『騎士』でいたい05




 今回の任務の話を聞きに団長室へとラフェル2人で向かうと、入ったそこには他の隊員がいた。


「今回は2人1組、3班での討伐になる、中央から流れてきた大型が1体紛れ込んできている、それを俺たちが相手するんだが、他にも雑魚がくっついて回っているようでなそっちの対処にあたってもらいたい」

「先ほど連絡があって討伐対象が山を越えてきたみたい、討伐ポイントまで今のままだと50分から1時間といった所、こちらからは15分で着くからそろそろ支度して出てもらう感じ」

「また急な」

「人員不足って嫌よねぇ…まぁボヤいてても魔物は減らないのでさっさと準備して出てね」


 ラナさんがさっさと次の人達を呼びに出てしまった。


「俺は後から合流するから先に討伐ポイントに向かってくれ…あと2組指示出したら出る」


 団長忙しそうだし大丈夫かなと話しながら食堂に戻ると、ラナさんと他の隊員とすれ違う。


「あ、私じゃなくて他の事務員が外にいるから話聞いて…あー…シャシャちゃんだな、担当」


 それだけ言って急いで団長室に向かっていった。

 ロンもリアガルも支度を終えていたので俺も自分の武器をロッカーから出して外へと向かう。


「シャロンさん」

「ああ、君たちー待ってたよ~」


 短めのゆるふわのミルクティカラーの髪に目、色白で病弱そうに見える華奢な身体。俺より少し背が高いところを見ると165cmくらいだろう。

 のんびりしている話し方をする男性で事務員歴は長いらしい。これくらいしか情報はないくらいには接点が無い。


「大まかに話は聞いているだろうけれど、サポートメインだけれど油断しちゃダメだよ」

「はい」

「大型の魔物+15~20体くらいの小型の魔物が周りをついて群れになってきているみたい。その歩いている先には村があるからそこの人を狙うだろうね」


 魔物は主に人間を襲うのだが、たまに動物に近いのもいて家畜を食べたりという魔物もいるが実際その行為が食事なのかは分かっていない。

 魔物を捕獲して実験をした事があったみたいだが1ヶ月なにも食べなくても生きていたし、人間の食事みたいなものには興味も示さなかった。動物と一緒にいても興味を示さなかったが人間にだけは襲いかかってくるらしい。総称して〈魔物〉と呼んでいるが実際どんな生物なのかは詳しくは分かっていない。捕獲した個体達で繁殖行為が行われた事もなかったらしい。

 魔界魔族の仕業ではないかという話、実際魔物の心臓はなく核になっている黒い石が埋め込まれていたらしいからね。それが砕けて霧になるらしく、その霧を回収する機械もあるくらいだ。


「俺たちは村に被害を出さないようにするのが仕事ですね」

「そう、大型は団長が倒してくれるから!あ、やっと馬の支度出来たかな~連れてくるから待ってて~」


 シャロンさん自ら馬を迎えに行ってくれている。


 団長には半永久契約を結んだガルがいるんだ、そんな特別騎士シャルフとガルの契約が〈ルブル〉と呼ばれている。シンクロ率が高ければテレパシーまで使えるようになるという。


「ルブルかぁ…」

「なに、リアガルはルブル興味あるんだ?」

「ええ、だって仕事無くなる事ないじゃないですか!」

「いやまぁ、ガルの人口の方が多いもんね…でも簡単には他の人と組めなくなるんだよ…」

「でもです!この人って決めた人とならずっとビジネスパートナーとして仕事貰えるから楽でいいじゃないですか」


 まぁガルは本当特別騎士シャルフに選ばれてこそだからね。魔法障壁作ったりバリア張ったり魔法弾撃ったりなんて防衛戦とかでも駆り出されるけれど、特別騎士シャルフと組む方がランクも上がるし給料上がるし何かと優遇されていいらしいな。


「俺はシャルフとしてじゃなく騎士としているからあまりいい効果なくてごめんね」

「いえ、ガルとしてのスキルアップになっているので感謝しています!ほぼグランツシャルフの専属みたいにさせて頂いているので仕事ちゃんと貰えているし!」


 切実なんだろうな、ガルって…。

 飼育員とシャロンさんで馬を連れてきてくれたので俺とリアガルは何も言わずにシーファに乗る。


「もうあっさりとシャルフ用の馬に乗るようになった」

「ああ、もう流石に慣れたよね」


 そういうラフェル達は馬車が用意されている。


「人員不足+馬不足なので馬車で申し訳ないし、そして人員不足を埋めるために僕が操縦します~」

 ラフェル達の乗っている馬車の操縦席にシャロンさんが座る。事務員さんなのに戦場に来るって言うから心配したけれど、運転手さんか…なんか本当に人員不足なんだなぁ。

 出発してからそういえば挨拶もちゃんと出来ていなかったもう1組の2人に挨拶をした。


「マシロ・クヌギです、職業は忍…普段は魔物調査したりして回ってますが今日は臨時で戦闘に参加です」


 褐色肌に暗い髪色、全身黒で覆われていてマスクまでしているから多分素顔で会っても分からないと思う。忍者だから基本顔を晒さないんだろうし仕方ないけれど。


「わたくしはエルナー、主に白魔法使いとして救護班で勤務しています。ガル様程じゃないけれど黒魔法も使えますので援護兼回復係として参加させて頂きました」


 ザ・お嬢様という風格に喋り方。明るく綺麗なブロンドを後ろに纏めて結い上げているが髪質はとても良さそうなのは目に見えてわかる。そして豊満なバスト…話には聞いたことがあったが彼女か…騎士団のマドンナ。

 俺たちも自己紹介なんかしつつ自分たちの戦闘スタイル等を話討伐ポイントへと向かう。

 軽くだが彼らの能力を知れた。魔法使いのエルナーは、バリアや状態異常解除は行えるが青魔法までは完全マスターしていないらしい。


 白魔法は回復、青魔法は状態異常の解除…どちらも極めると落ちた腕も完全にくっつける事が出来るらしい。リアガルは頑張れば出来ると言っていた。

 白魔法は緑と違ってコアでカスタマイズする必要も無く、悪くなったり怪我をした部分を修復する為一般人にも使うことは可能だ。だから医療関係の人に多い。


「着きましたので各々準備をお願いします、馬車は村にお願いしておきますので」


 そう言ってシャロンさんは少し離れた村の方へと馬車を置きに行った。

 戦闘準備を皆終わらせると大きな馬を走らせて団長達もやっと到着した。そういえば団長のルブルしたのはずっと前から知ってはいたけれど、見たことなかったな…というかここでは特別騎士シャルフとして出ること団長はほとんど無いから久々で大丈夫なのだろうか?


「って、あれ?副団長?」

「ああ、私の方も先ほど帰還したのでそのまま連れてこられてしまいました…誘拐同然でしたよ全く」

「まぁいいだろう、指揮とっていただけで終われたなんて言われたらなぁ」


 あれ?副団長はガルじゃない…。


「シャロンは?」

「馬車を預けに村の方に」

「少し早い気がするが…そろそろ来るだろう、なんか山がざわめいている…ちょっと行ってくる」


 副団長を降ろした団長が村の方に向かっていった。

 仕事大変そうなんだろうか?最近やつれた様に見える副団長のグレーの目が下を向き、ため息をついている。スラリと背の高い副団長はただでさえ細いのに大丈夫なのだろうか…?と不安になる疲れきったオーラ出ている。

 リアガルが意識を集中させて網を張ってくれた。そしてすぐに慌てたように声を上げた。


「来た!!!!」

「え」

「何体か動きが早い魔物がっ!!」


 慌てたリアガルの指差す方向には既に肉眼でも確認出来る魔物が3体。皆慌てて戦闘態勢を取る。予測していた移動速度より速い。


「初弾、放ちます」

「許可する」

「エルナーさん、真ん中、雷落とします!」

「は、はい!」


 魔法使いの2人が詠唱を始めすぐに魔法を放つと魔物の上から雷の魔法が落ち1体を霧に還し、他2体を吹き飛ばす。その間にリアガルの能力向上魔法を俺にかけてくれている。


「副団長、いるんだからついでに指揮とって下さい」

「ええ、私がか…」

「頼むよ、副団長」

「ま、まぁそうだよな…」


 慌ててメガネをしっかりと固定し、背筋を伸ばした副団長が瞬時に目の前の状況を見て把握するとさっきまでのくたびれたおじさんオーラを放っていた人とは思えない程に厳しい目つきでこちらの装備等を見て指示を出し始める。


「…ジャン、クヌギは左右から挟撃で向かって左を狙う、グランツ組は早駆けで先に向かって右の殲滅後左の魔物の注意を引けその隙に2人で残りの魔物の殲滅」


 副団長の指示通り俺たちは先に手前に来ている右側にいる馬のような魔物へと向かって行くとランスを構えて魔物へと攻撃を放ち一発で仕留めた。


「リアガル、挑発してちゃって」

「はい」


 リアガルの水を出すだけの魔法、水鉄砲が綺麗に魔物の顔面へと命中すると怒ったのかこっちに向かって走ってきた。魔物の前を走りながら元いた場所に向かっている間に後ろから魔物の断末魔が聞こえたと思ったらリアガルから「殲滅完了」と告げられた。

 このくらいの魔物だったら余裕なんだけれどね…さあ本番だと言わんばかりのプレッシャーが感じられる。


「もう少ししたら向こうの群れが現れます」


 全員が元の位置で魔物の群れが来る方を見ていると森から出てきたデカいのにギョッとした。

ここの森は背が高い木が多い、10mは超えているであろう魔物が姿を現したのだ。いるのは知っている、話では聞いている。中央ではこんなのよりも大きいのといつも戦っているだとか聞いた。だが…実際に目にすると…


「え、無理じゃね?こんなの…」

「今まで見てきたのと全然違う…」

「皆、前をしっかりと見なさい!足元の奴らが皆の討伐対象!そちらにのみ意識を向けよ!」


 副団長に言われて足元を見たけれどそっちも本当に凄い数いた。このメンバーで倒せるのか?


「すまない、遅くなった」


 団長の声が上から聞こえた。あれ?と思い上を向くと大きな羽を羽ばたかせて飛んでいる綺麗な鳥が着地する。

 オレンジの髪を撫で付けながら手綱を持っているのは団長だった。さっきはそんな見てなかったけれど、シャルフとしての戦闘服だろういつもの俺たちと同じ隊服ではない服に身を包み武器など装備している団長は元の顔もいいだけあって絵になる。俺よりちょっと背が高い程度だから立つとちょっと残念なんだけれどね。


「鳥と合流していたら遅くなった」

「愛鳥のキャルさん久々の仕事ですんごーくご機嫌斜めだからね…なだめるのに時間かかったもんねぇ…髪の毛噛まれて面白かったねぇ~」


 あれ?シャロンさん?


「…先にデカいの殺るぞ、シャロン…能力向上」

「はーい、あれは土属性だなぁ水も付けてあげる」

「頼む」

「魔法弾や矢にも水属性付与しておくから援護しばらく出来ないけどいい?1人で頑張れる?無理なら援護してあげるけれど」

「どっちも同時にやれるだろうが…」

「久々の仕事だよー僕にもキャルさんにももっとやる気の出るような気の利いたこと言えないのかね?ってほら、話してたら属性付与終わらせちゃったからもう行こうよ、相変わらず行動が遅いんだから、ウィジーは」

「もう、やめて!団員の前で恥ずかしいから、やめて!」


 なんか、兄弟子のあんな姿を初めて見た。めっちゃいじられてるじゃん…相棒に。



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